パンクしても走行可能な構造のタイヤを指す

「ノーパンクタイヤ」という言葉を聞いたことがあるだろうか? 文字どおりパンクしないタイヤのことで、現在では「ランフラットタイヤ」と呼ばれるようになっている。特徴は明快で、パンクしても走行可能な構造のタイヤのことを指すのだが、パンクしても走れるタイヤとは、いったいどういうタイヤのことを言うのだろうか?

 その前に、まずタイヤにかかわるトラブルを挙げておこう。主に、タイヤが破裂するタイヤバースト、サイドウォール部を損傷(裂傷)させる例、鋭利な物(クギ、金属片など)を踏みトレッド部に穴を開けてしまう例などがある。タイヤバーストは、文字どおりタイヤが破裂する状態で、タイヤの許容限界を超す重荷重や高負荷の走行条件下(とくに摩耗が進んだ状態のタイヤ)で起こることが多く、主に高速走行中のトラックが発生させる例が多い。このケースは、瞬時にしてタイヤが飛散するため、バーストと同時に車両は走れなくなり、車両のコントロールを失う場合もある。

 サイドウォールの損傷は、タイヤのサイドウォール部が路上の鋭利な物に接触して損傷するケースで、不整地走行中にサイドウォール部を岩角などに接触させ損傷させてしまうケースだ。この例も、損傷と同時にタイヤ内部の空気が一気に漏れ出てしまうため、タイヤとしての機能が失われ、走行不能(極低速の移動は可能な場合もある)となってしまう。

 鋭利な物(クギなど)を踏んでトレッド面に穴を開け、そこから空気が漏れ出すトラブル、いわゆるパンクは、タイヤに関するトラブルのなかでも、もっとも多い発生例だ。タイヤは、内部に気体(主に空気、競技用では窒素の場合もあり)を封入し、その張力によって車体を支える働きを持つ。気体封入構造とすることで、走行中のタイヤを適度にたわませ、路面の凹凸や旋回Gを上手く吸収し、路面接地力を高めたり、乗り心地をよくしている。

 これが現代のタイヤ、空気入りタイヤの基本的な考え方で、ジョン・ボイド・ダンロップ(ダンロップラバー創設者)によって実用化された空気入りタイヤである。ちなみに、それまでのタイヤはゴムの剛体で、乗り心地も良くなければ、接地性能もよくなかったが、唯一、パンクをしないことが大きな特徴だった。

 走行中のタイヤが、何らかのトラブルによって内部に封入した気体を失ってしまうと、走行不能になる、あるいはコントロールを失うことで危険な状態に陥ることになり、可能な限り避けたい走行場面である。こうしたことから、内部の封入気体を失っても走れるタイヤとして考え出されたのが、ランフラットタイヤである。

現在はサイドウォール部を強化したタイプが主流

 このランフラットタイヤ、当初は二重構造で考えられていた。通常の気体入りタイヤの内部にソリッド構造の小径タイヤを設けたものと考えてもらえばよいだろう。何らかの理由によって内部の封入気体を失って潰れた場合、今度は内側のソリッド領域の部分が支えとなり、走行を可能とする方式である。もちろん、正常な状態のタイヤと較べて走行性能はかなり劣ることになるが、走行不能になることはなく、自宅、タイヤ修理店など、最低限の目的地までそのまま走行が可能だ。危険回避性能と言い換えてもよく、戦闘地帯での行動を前提とした軍用車両で採用されている方式だ。要するに、危険地帯から脱出し、安全なエリアまで回避したところでタイヤ交換をすればよい、という考え方である。

 この二重構造によるランフラットタイヤは、乗用車用としても採用されたが、タイヤ性能や乗り心地の確保に対し、コスト面と危険回避性を較べて考えると、それほど大きなメリットがないと判断され、普及にいたらなかった方式である。

 この二重構造方式に対し、サイドウォール部を強化したランフラットタイヤが開発された。アウト/インの両側サイドウォール部の強度を引き上げることで、封入気体を失っても、強化されたサイドウォールが支えとなって走行を可能とする方式である。現在の乗用ランフラットタイヤはこの方式が主流で、通常のタイヤと較べても各性能の低下幅が小さく、実用走行に耐える内容となっているが、最終的にはコスト(メーカー納入価格)とタイヤトラブル発生の可能性を天秤にかけ、通常一般の量産車では、標準装着が見送られているのが現状である。

 ランフラットタイヤの価値は、封入空気を失っても走行可能という特徴をどう捉えるかによって決まってくる。通常の乗用車用タイヤとして考えた場合、タイヤ交換なしで走行を続けられることがメリットだが、考えられるケースは、ほとんどの場合がパンクと考えてよいだろう。パンクの場合、いきなり封入空気を失うケースは少なく、異物(クギなど)が刺さったまま走行を続け、その結果、徐々に封入空気が漏れ、気がついたらタイヤが潰れていたことでパンクに気付く場合が案外多い。

 走行中に封入気体を失い、走行不能となってタイヤ交換を余儀なくされるケースをどう考えるか。転ばぬ先の杖ではないが、こうした事態まで想定し、万が一パンクした場合、出先でのタイヤ交換は困る、自分でタイヤ交換は無理という人は、リプレイス用のランフラットタイヤが市販されているので、これに替えておくのは予防安全になるだろう。ただし、通常のタイヤと異なり用意されているタイヤサイズが少ないので、必ずしも自分のクルマにあったランフラットタイヤが入手できるとは限らないので要注意だ。