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当期利益、99%増

新型コロナによる経済停滞が始まって早1年が経過しました。外食産業・旅行産業と並んでアパレルは苦戦業種とされています。大多数のアパレルは出店場所や納入先の商業施設の苦戦に連動していますが、少数の例外も存在します。昨年春のコロナ自粛明けから好調に転じた「しまむら」もその1つです。

先日発表された、しまむらの2021年2月期連結は売上高5426億800万円(対前年比4・0%増)、営業利益380億2600万円(同65・4%増)、経常利益394億400万円(同65・2%増)、当期利益261億6300万円(同99・3%増)と増収大幅増益となりました。大多数の苦戦アパレルからすればなんとも羨ましい業績といえます。ここ数年苦戦続きだったしまむらですが、昨年のコロナ第一波明けに急回復しました。今回のしまむらの復活は本物でしょうか。

これについては(早くも複数の業界の識者が指摘していますが)、「回復傾向にはあるがピーク時の業績には届いていないので、健闘をしているとはいえるが成長軌道に乗ったとはいえない」という見方が最も適切だと考えられます。

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では、コロナ休業明けから急回復した理由からおさらいしてみましょう。

昨春のコロナ休業が明けても、都心商業施設への入店客数は2019年水準までには戻りませんでした。一方、郊外型商業施設や郊外路面店は、前年微減程度にまで客数が回復しています。しまむらの場合、都心店や都心商業施設店が極端に少なく、そのほとんどが郊外路面立地だったため、立地条件に助けられた点が最も大きいでしょう。

郊外店は基本的に面積が広くて「密」になりにくい上に、交通手段も自家用車ですからそこでも他人との「密」が避けられます。

都心店への交通手段は電車やバスという公共交通機関がメインとなるので、店内だけでなく行き帰りも密になりやすいため、それが敬遠されたということでしょう。さらに都心店はインバウンドの消失が相当なダメージとなりましたが、元々インバウンド需要が少なかった郊外店は消失のダメージがほとんどないことも大きな要因だといえます。

客数が減っている

では、しまむらの2021年2月期連結の資料に基づいて、「まだ成長軌道に乗ったとはいえない」というのは、どの辺りを指してのことなのかを考えていきたいと思います。

まず、客数です。決算や月次報告で発表される客数というのは、正確には「買い上げ客数」のことです。グループ全体では出ていませんが、売上高5426億円中、75・9%の4120億円を占める「しまむら」業態では客数は1・6%減となっており、よりトレンドを意識した「アベイル」業態も6・3%減です。

子供服業態の「バースデイ」だけは5・4%増ですが、バースデイの売上高は626億円しかありませんから、全社的に考えると影響力は小さいでしょう。全社の客数は発表されていませんが、類推すると減少傾向にあるのではないかと考えられます。

客数が減っているということは、消費者の需要が高まったとは言えません。流通の経営者は売上高や営業利益もさることながら、客数の増減も非常に気にします。一般的な定説としては、売上高が伸びていても客数が減少しているのは良くない兆候だととらえられます。逆に売上高が下がっていても客数が伸びていれば、悪くない兆候ともとらえられます。

次に、商品別に見てみましょう。

主軸である「しまむら」業態では、婦人衣料が前年比2・2%減、紳士衣料が同0・1%減、靴が同13・5%減となっていますが、肌着が同3・1%増、寝装具が同9・2%増、ベビー子供服が同10・3%増、洋品小物が同6・6%増、インテリアが同18・6%増となっています。ここから、業績の伸びは、洋服・靴ではなく、肌着、寝装具、子供服、インテリア、小物といった必需品によるものだということがわかります。

2009年のしまらーブームは、婦人服がファッション的にプチプラと相まって評価されましたが、今回のコロナ自粛明けは洋服やファッションではなく、生活必需品が評価されたということになります。新型コロナによる在宅勤務やリモートワークの普及によって、通勤や外出に必要な服ではなく、肌着やインテリア、寝具などの実需品の需要が増えたということです。

マーケットインの発想

こういう状況が良いのか悪いのかについては、意見の分かれるところです。

「売りやすい物・売れる物・求められている物に適切に対応できたから正解である」という意見もあれば、「衣料品を主軸として成長してきた企業としてはいかがなものか」という意見もあります。

どちらの意見も間違いではありませんが、しまむらが5000億円規模の大手企業だということを考えるなら、自分は前者の意見(現状は「正解」)に加担します。

理由は、小規模企業や小規模なブランドであるなら「自分たちの売りたい物を少数の賛同者に買ってもらう」ことで成り立ちますが、5000億円もの売り上げ規模を維持しようとするとそれだけでは成り立ちません。必ず「売れる物・求められている物」を売る必要に迫られます。

アパレル業界ではよく見られるのですが、小規模なブランドがコアなファンに向けて尖った商品を打ち出しますが、だんだんと人気が拡大して売り上げ規模も増えると、コアではない人たちのために平凡な商品も供給し始めるようになります。

これはどんなブランドにも付きまとう葛藤です。一般的にプロダクトアウト(作り手優先)とマーケットイン(買い手優先)として対比されますが、今回のしまむらは、まさしく需要に即したマーケットインの発想によって業績を回復させたといえます。売り上げ規模が大きく、しかもその出自が安物売りであるしまむらにはマーケットインの発想の方が適していると個人的には考えています。

逆にしまむらには、個性派ブランドやファクトリーブランドのようなプロダクトアウトの思想は適しておらず、そちらに淫しすぎれば逆に企業としての存続を危うくするのではないでしょうか。

でも、ピークには及ばない

その一方で、好調に転じたとはいえ、ピークだった2017年2月期に比べると売上高で4・1%減、営業利益22・4%減なので、回復基調に転じたということはできるが、完全復活ないし成長軌道に乗ったとはいえないということです。

今後の見通しについてですが、メディアや識者、投資家が期待するような急成長を遂げるような「飛び道具」となる「新機軸」をしまむらという企業は持ち合わせていませんから、売上高や営業利益が短期的に急拡大するという可能性は極めて低いでしょう。

また、ネット通販も初年度20億円の売上高目標に対して17億円に終わっており、こちらも今後、急拡大できるとはとても思えません。ただ、ごちゃごちゃしていて見にくい・商品が探しにくいという実店舗の店頭に比べると、ネット通販ははるかに綺麗で見やすく・商品が探しやすいですから、こちらで新たな顧客を開拓することは可能だと思われます。

もともと、しまむらは派手なところのない地味な企業でしたから、現在の状態が普通なのではないかと思います。逆に、しまむらが派手な販促プロモーションや世間を騒がすような斬新なビジネスモデルの開発に血道を上げた場合、変調をきたしてしまうのではないかという危惧さえあります。

ざっとこの数年を振り返っただけでも、業界やメディアを騒然とさせたような「斬新なビジネスモデル」が離陸できないままに終わったことや短期間で終了してしまったことが珍しくありません。ハイリスクハイリターンはビジネスの鉄則ではありますが、新型コロナが収束していない状況下において、無理に慣れないことをやるのはリスクが高すぎます。

コロナ収束の目途が立つまで、しまむらは今回のやり方を地道に続ける方が賢明ではないでしょうか。