左「A3スポーツバック」、右「S3スポーツバック」(写真:Audi Japan)

アウディ ジャパンは2021年4月21日、同社のプレミアムコンパクトハッチバック「A3 スポーツバック」とセダン「A3 セダン」のニューモデルと、Sモデルと呼ばれるスポーツ仕様の「S3 スポーツバック/セダン」を発表し、同日より受注を開始した。

A3シリーズは、1996年に初代モデルが登場して以来、全世界で500万台以上、日本国内でも約10万5000台が販売されている隠れたヒットモデルだ。


東洋経済オンライン「自動車最前線」は、自動車にまつわるホットなニュースをタイムリーに配信! 記事一覧はこちら

ベースとなるメカニズムはフォルクスワーゲン「ゴルフ」と共有し、およそ300万円からという価格設定もあって、歴代が手頃なアウディの入門車であると同時に、ゴルフのプレミアム仕様のような位置付けになっている。

アウディジャパン代表取締役社長のフィリップ・ノアック氏によると、A3の人気の理由について「革新的なデザインと細部に至るまでプレミアムなアウディの高い品質、都会での使いやすさ、実用性の高さ」といった点がユーザーから評価されているという。

「小さな高級車」のコンセプトで1996年に発売された初代モデルは当初、3ドアモデルのみだったが、後に5ドアの「スポーツバック」を追加。先代型となる3代目ではセダンもラインナップに加え、手頃なサイズ感と、アウディらしいスポーティさや高品質感により一定の人気を保ってきた。

デザインはよりシャープに

第4世代となる新型も、その方向性は変わらない。基本的もプロポーションも踏襲するが、近年のアウディに共通するようにシャープさが増し、パワートレインに48Vマイルドハイブリッドを導入。さらにデジタルデバイスがアップデートされた。グレード構成が一新され、「ベース」「advanced 」「S line」 となったのも新しい。

エクステリアは、一見すると大きく変わっていないように見えるが、よく見ればディテールに至るまですべてが変わっていることに気づく。新たに開発された低くワイドなシングルフレームとシャープなプレスライン、エッジの効いたLEDヘッドライトがデザイン上の特徴だ。

ヘッドライトからリヤライトへとつながるショルダーラインに加え、「quattro(クワトロ)」をイメージしたブリスターフェンダーや彫刻的な凹面形状のドアパネルが、力強いサイドビューを形成すると説明される。

燃費と走行安定性を向上させるために空力性能を磨くのが近年のトレンドだが、A3シリーズもパネルによって覆われたアンダーボディや、形状が見直されたドアミラー、ブレーキの冷却機能により空気抵抗が減少され、スポーツバックではCd値0.28、セダンでは0.25を実現したという。

ボディサイズは、従来モデルよりわずかに拡大され、スポーツバックの全長は+20mmとなる4345mm(advanced)、全幅は+30mmの1815mmに。セダンは、全長が+30mmの4495mm(advanced)、全幅は+20mmとなる1815mmとなった。

わずかな拡大だが、全幅が1800mmを超えると入庫を断られる立体駐車場も出てくる。コンパクトクラスにおいてこの全幅が、ネックとなる向きもあるかもしれない。

1.0リッター+48Vハイブリッドを新搭載

メカニズムの面では、横置きエンジン用プラットフォーム「MQB」が採用された。

キャビンの骨格など、ボディの30%(重量比率)に熱間成型スチールが採用されることで、高いボディ剛性と軽量化、優れた安全性を実現したという。もともと剛性の高さで評価されるアウディだから、フルモデルチェンジによってその資質がさらに磨かれた形になったといえるだろう。

パワートレインは、「30 TFSI」に最高出力110ps、最大トルク200Nmを発揮する1.0 TFSI エンジンを搭載。

日本の市場へ導入されるプレミアムコンパクトセグメントでは初となる、ベルト駆動式オルタネータースターター(BAS)と48Vリチウムイオンバッテリーを用いたマイルドハイブリッドシステムが組み合わせられ、動力性能と環境性能の両立を図る。

「40 TFSI」モデルには、140kW(190ps)/320Nmを発揮する2.0TFSIエンジンが搭載され、クワトロ4輪駆動システムと組み合わされた。

トランスミッションは両エンジンともに高効率かつ素早い変速を可能とする、DCT(デュアルクラッチトランスミッション)の7速「Sトロニック」が搭載される。

サスペンションは、30 TFSI/40 TFSIともフロントはマクファーソンストラット式と共通ながら、リアは30 TFSIがトーションビーム式、40 TFSIはウィッシュボーン式だ。

安全技術とアシスタンスシステムは、従来のアダプティブクルーズコントロールやアクティブレーンアシスト、トラフィックジャムアシストを統合した、「アダプティブクルーズアシスト」をオプションで設定。前走車への追従機能に加え、車線からのはみ出しを自動で修正してくれる車線維持機能も追加された。

デジタル化が進む運転席まわり

インテリアは、センターコンソールを運転席側に向けたドライバーオリエンテッドなコックピットデザインとなった。

また、コンパクトな新形状のシフトスイッチが新採用され、空間に広がりが与えられると同時にリリースボタンが廃されたことで、前後への単純な動作でのシフト操作が可能となったという。これは、先に発表された「ゴルフ8」と共通の仕組みだ。


コンパクトな新形状のシフトスイッチ(写真は左ハンドル車、写真:Audi)

メーターパネルには 10.25インチの高解像度液晶ディスプレイを用いた「アウディバーチャルコックピット」を引き続きオプションで設定。インフォテイメントには、最新の10.1インチのタッチスクリーン式「MIB3」MMIナビゲーションシステムとワイヤレス充電機能付きスマートフォンインターフェースが搭載されたが、これらはすべて上位セグメントから受け継いだ機能となる。

現代では欠かせないサスティナブルへの取り組みについて、ノアック氏は「ここ10年で、社会全体のサスティナビリティに対する考え方は劇的に変わりました。今の時代、プレミアムカーメーカーは、リサイクルした漁網やペットボトルから作られた素材を採用するようになっており、このことは、非常に重要視されています」と説明。

その一環として、S lineのシートにはリサイクルペットボトルを原料とした素材が採用された。

見た目、座り心地ともリサイクル素材を感じさせる部分はなく、従来のテキスタイル地と同等の品質が確保されているという。

使われる素材は、1.5 L容量のペットボトル換算で、1台あたり最大45本分。さらにフロアカーペットなどにも、ペットボトル62本分の原料がリサイクル利用されているほか、インテリア以外にも断熱材や吸収材、ラゲッジルームのサイドパネルやフロアなどにも、リサイクル原料が使われる。


リサイクル素材から作られたシート(写真:Audi Japan)

またノアック氏は、「2020年9月に『e-tron スポーツバック』を発表した際に初採用されたアルミニウムのクローズドループは、プレス工場から出る破材をサプライヤーに戻し、リサイクルしてシートメタルの一部に利用することで、最初からアルミニウムを製造する際と比較して、電力消費を95%削減することが可能となりました」と説明した。このリサイクルアルミニウムは、新型A3のボンネットにも使用されている。

また、「循環システムを構築し、原料を再利用すること、新しい原料やエネルギー消費を削減することは、サスティナブルな未来には欠かせない、アウディにとって重要な要素である」とし、アウディは生産する車両のリサイクル素材の割合を今後数年間で大幅に増加させる方針だとしている。

スポーティなSモデルの内容は?

スポーティなクルマが好きな人なら、SモデルとなるS3 スポーツバック/セダンの方が気になるだろう。

ボンネットの先端に見えるスリット型のエアインテークは、往年のアウディ「クワトロ」を彷彿させるモチーフ。


「A3」よりもアグレッシブな「S3」のフロントまわり(写真:Audi)

さらにハニカムパターンのシングルフレームグリルや大型のエアインテークが採用されたフロントバンパー、専用デザインのリヤディフューザー、左右4本出しのテールパイプなどにより、A3よりもひときわ迫力あるスタイリングとされた。

インテリアは黒を基調にしたスポーツシートが採用されるなど、プレミアムスポーツの雰囲気を強調。12.3インチの「バーチャルコックピットプラス」が標準装備なる点も、A3とは違うところだ。

2.0 TFSIエンジンは最大1.8barの過給圧(相対圧)のターボチャージャーと350barの燃料噴射が備えられ、最高出力310ps、最大トルク400Nmを発揮。トランスミッションは7速Sトロニックで、電子制御式油圧多板クラッチが用いられたクワトロ4輪駆動システムが組み合わされている。

サスペンションは、40 TFSIと同じくフロント:マクファーソンストラット式、リア:ウィッシュボーン式だが、車高は15mm低められ、オプションで電子制御式のダンピングコントロールサスペンションを選択することも可能だ。

「プレミアムモビリティの未来」を見せられるか?

価格(消費税込)は、A3スポーツバックが310〜483万円、A3セダンが329〜502万円。S3スポーツバックが642万円、S3セダンが661万円。ベースモデルことゴルフとオーバーラップする設定だが、上級グレードになると上位モデルの「A4」のエントリーグレードを超える。


アウディ「A4」は447万円から(写真:Audi Japan)

新型モデルの導入を記念して用意された「1st edition」も発売され、価格はそれぞれ30 TFSI advancedをベースに装備を充実させたA3スポーツバックが453万円(375台限定)、A3セダンが472万円(同125台)、S3スポーツバックが711万円(同125台)だ。発売開始は全モデルとも、2021年5月18日予定と発表されている。

自動車のサスティナブルな未来に向けて、クルマのデザインと開発を行っているアウディのブランドビジョンは、「プレミアムモビリティの未来を形づくること」。そして、このビジョンを、「未来は考え方ひとつ」というフレーズで表現していくとしている。

そんなアウディの描くサスティナブルでプレミアムなクルマの未来は、「特別感」を求めるアウディユーザーにどのように響き、どのように受け入れられていくのだろうか。また、メルセデス・ベンツ「Aクラスセダン」やBMW「2シリーズグランクーペ」といった後発のライバルも登場してきた中でどれだけ存在感を示せるのだろうか。

そこは、ユーザーがどれだけアウディの“ビジョンに共感できるのか”にかかっているのかもしれない。ユーザーの“考え方ひとつ”といえそうだ。