引退馬「ナイスネイチャ」の誕生日にあわせて寄付を募る「バースデードネーション」が実施された

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競争や繁殖を引退した「引退馬」はどこへ行くのだろうか。

NPO法人「引退馬協会」によれば、余生を全うすることができる引退馬は少ないという。競馬の発展に貢献した名馬には助成金が出ることもあるが、協会は「助成金だけでは経費が賄えないという理由で悲しい末路を辿る馬」もいるとして、こうした馬たちの支援を行っている。

その一環として、協会は2021年4月16日、引退馬「ナイスネイチャ」の誕生日にあわせて寄付を募る「バースデードネーション」を実施した。すると21日16時現在までに、2200万円を超える多大な支援が寄せられた。なんと、当初の目標額の11倍以上である。

J-CASTニュースの取材に対し、協会代表理事の沼田恭子さんはこの反響について、「ウマ娘の方のご協力とナイスネイチャの人気は、大変大きいと思います」。大ヒット中のゲーム「ウマ娘 プリティーダービー」のファンからの支援があったと見ているのだ。

「ただただもう驚くばかりです」

ナイスネイチャは今年で33歳。バースデードネーションが実施されるのは今年で5回目となる。引退馬協会代表理事の沼田さんは「長生きで幸せな毎日を送るナイスネイチャの様な馬が増えてほしい」と願い、この活動を行っているという。

支援金は過去にレースで活躍した元競争馬やその繁殖馬らを支援するために使われる。具体的には、引退した馬たちが暮らす「ホーストラスト」という施設に運ぶ費用や入厩する際の保証金などとされている。当初の目標支援額は200万円で、引退した馬2頭を約半年ほど支えるのに必要な額だという。

しかし寄付を募り始めると、あっという間に目標額を超えた。19日には2千万円を突破し、現在もその額は増え続けている。沼田さんは驚きを隠せずにいる。

「昨年は177万3900円405名の支援を頂き、それだけでもすごいと思っていました。今年のこの数字は、ただただもう驚くばかりです」

そしてこのような大きな反響について、ナイスネイチャと、実在の競争馬を擬人化したキャラクターが登場するゲーム「ウマ娘」の人気によるものではないかと推測している。

「ウマ娘」には、ナイスネイチャを基にした同名のキャラクターが登場しており、ナイスネイチャの誕生日当日のツイッター上には、ゲームとリアルそれぞれのナイスネイチャを祝う声が多数寄せられたほか、引退馬協会の活動を紹介するツイートも見られた。

沼田さんは、こうしてSNS上で話題になったことで「このような引退馬の活動があることを初めて知ったという方も、多かったと思います」と推察し、これまで関心のなかった人からも協力が得られたと話した。

引退した馬が天寿を全うするにはいくらかかる?

さて、当初の目標額は2頭の引退繁殖馬を鹿児島県のホーストラストに送るまでの経費に充てる予定で、馬が一生送るための経費までは含まれていなかった。引退馬が天寿を全うするにはどれほどの費用が掛かるのだろうか。沼田さんはこう話す。

「馬の平均寿命は27歳位と考えます。一番安く、安心して預けられる鹿児島ホーストラスト(引退馬が暮らす牧場)で1か月3万3千円です。1年間約40万円、10年間で約400万円になります。20年間で約800万円です」

また北海道では、平均的な預託料が約11万円となるため、20年間預けると2640万円ほどかかるという。さらには獣医療費、馬のひづめを管理する「削蹄費」なども加わり、多額の費用が掛かる。

そこで引退馬協会ではたくさんの人で一頭の馬を支える 「フォスターペアレント制度」を設け、馬を支える里親も募集している。

「最近では獣医療や管理の発達もあり、ナイスネイチャのように長生きが出来る馬が増えてきました。長い一生に継続して、里親さんとして見守ってくださる方が増えると、とても助かります」(沼田さん)

しかし里親が集まらなかったり助成金が出なかったりして、引退後を過ごす資金が不足してしまう馬もいる。今回のナイスネイチャのバースデードネーションで集まった資金の一部は、支援対象の馬の資金が不足した際にも活用される予定だ。引退馬協会は19日、ナイスネイチャのバースデードネーションの活動報告にて、寄付の約30%をプールし、馬を最後まで確実に見守るために使用すると報告している。

「今まで支えてくれた方々いるから」感謝の声

SNS上では引退馬を支える活動に感謝する声が多数寄せられている。

「ウマ娘の力も凄いけど、こうして毎年寄付して支えてる方々がいたからこそ、ウマ娘から入ったファンが生きたナイスネイチャを知ることができると考えると新参者としてはこうして毎年寄付された方々や引退馬支援をされてる方々には感謝しかない」
「今まで支えてくれた方々いるからナイスネイチャのために参加できるし 穏やかそうなナイスネイチャを見ていられる 本当にありがとうございます」

沼田さんはこうした反響を受けて、今後の活動への意気込みをこう語る。

競馬引退後にセカンドキャリアのためのリトレーニングや、今回のように繁殖を終わった馬たちの、最終ステージへのサポートなど、引退馬の課題は多くあります。沢山の方が見守ってくださることで、これまで以上にたくさんの馬が、次のステージで安心して生きることが出来るようになります。コロナ禍で、大勢の方が集まる活動は自粛しておりますが、今はネットを通して馬のすばらしさを伝えて行きたいと思います」

そして支援してくれた人々に深く感謝した。

「今回大勢の方々からのご寄付を頂き、感謝の言葉しかありません。本当にありがとうございます。皆さまのお気持ちを大切にしながら、1頭1頭の引退馬を確実に最後までサポートできるよう、繋げていきます」

(J-CASTニュース編集部 瀧川響子)