イラスト:星野イクミ

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長く生活を共にして、「暗黙の了解」が増えた家族だからこそ、実は密なコミュニケーションが大切です。人生相談の連載を持つ劇作家の鴻上尚史さんが、読者から寄せられた相談に答えます。家族の制止を聞かない父についてのお悩みです。(構成=篠藤ゆり イラスト=星野イクミ)

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■《 相談3 》

家族の制止聞かず、雀荘通いの父

85歳になる実父が年々頑固になり、困っています。

昨年大病をして今も治療中なのに、新型コロナウイルス感染の危険があるなか、「俺が行かないとメンバーが揃わないから」と言って、「三密」状態の雀荘に毎日のように出かけるのです。

家族が止めても、「老い先短い俺から、唯一の楽しみを奪うのか」「楽しいこともできないくらいなら、感染して死んだっていい」「俺はかからない自信がある」などと聞く耳を持ってくれません。

うまく説得する方法はあるでしょうか

(50歳・パート)

■《回答(鴻上さん)》

双方に歩み寄ろうとする姿勢がないと、口論にしかなりません

大病もしているお父さんが、なぜ家族に止められても雀荘に行ってしまうのか。「麻雀が楽しいから」以外にも、僕は理由があると思います。85歳にもなると、周りには亡くなっている人も多いですよね。そんななかで麻雀仲間が3人残っているのは、いわば「奇跡」のようなことだと思うんです。生きて一緒に麻雀ができるありがたさを、お父さんも感じているのでは。そのことを頭に置いたうえで、一緒に考えてみましょうか。

この問題は、人生の最晩年をどう過ごしたいか、という終活の問題でもあると思います。自分の生きたいように生きるか、それともできるだけ永らえるようにつらい治療を受け入れるか。

だから、どちらが〈正しい〉〈正しくない〉という、わかりやすい話ではないんです。もしお父さんを家に閉じ込めている間に仲間の誰かが亡くなったら、「あいつと最後の麻雀を一緒にやりたかった」と、一生悔いが残ってしまうでしょう。

相談者は「説得したい」と書いていますが、これは「外に行かせないことが100%正しい」という前提に立っていますよね。相手の心情を無視している、とも言えます。お互いの一致点を見出すつもりがないという意味では、あなたもお父さん同様頑固なのではないですか。

双方に歩み寄る姿勢がないと、売り言葉に買い言葉で、感情的な口論になるだけ。だからお父さんも、「俺はかからない」などと豪語してしまうのでしょう。

家族を取るか、仲間を取るかという二択ではない

そんな状態でいくら口うるさく言っても、効果はありません。ほかの家族も交えてじっくり話し合うしかないと思います。ただし、家族を取るか、仲間を取るかという二択ではなく、大人の解決法を用意しておくこと。たとえば「週に3日は友達と過ごしてもいいから、4日間は家にいて」と、妥協点を探る方法もあります。

ここで気をつけたいのは、結論を出すまでの過程です。仮にお父さんが、「俺は家族より友達のほうが大事なんだ」という結論に至ったとします。感情的な口論の末、捨て台詞のように言われたら、あなたは受け入れがたいと思ってしまうでしょう。

でも、十分に言葉のキャッチボールをして、考え抜いた末に出てきたものだったら、どうですか。お父さんなりの葛藤や逡巡を経ての結論です。家族もその意見を尊重してあげたほうがいいと思いますよ。

人は、常に「快適」なことを選びたがる生き物です。お父さんにとって、友達といるほうが快適なら、「麻雀」に代わるものを一緒に考えるのも手でしょう。雀荘という密な空間が不安なら、仲間と外を散歩したり、お弁当を食べたりすることを提案するとか。家ですることがないのなら、何か仕事を作ってあげるとかね。そこは、お母さんと知恵を絞りましょう。

血のつながった家族であっても、価値観が違うのは当たり前。平時にはやり過ごせても、今回のコロナ禍のような非常時には耐えられない、許せないと感じることもあるんです。「こう言えば出かけなくなる」という魔法の言葉などありません。時間をかけて話し合い、落としどころを探ってください。