多くの人が知らない競馬の「深い闇」…競走馬の大半が「殺処分」されている?

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別名「桜肉」とも言われる馬肉は、低カロリー、低脂肪、低コレステロール等の理由でヘルシーなイメージが強い。鶏、豚、牛ほどではないが、居酒屋や旅館などでメニューに加わっていることはよくある。

〔PHOTO〕iStock

一方、ペットとして人間と共生している犬や猫と同様に馬も人間の生活とともに存在してきた歴史がある。工業化が進み、鉄道、自動車などのエンジンやモーターで動く乗り物が登場するまでは、馬は人間の重要な移動手段であった。また、農耕やモノの運搬にも利用され、戦時中は騎馬隊など軍用に使用された。戦後は急速に使役用の馬は飼育数を減らしたが、「夢とロマン」を追いかける競馬に使われる競走馬が増えた。

馬は人間の感情を敏感に察知すると言われ、犬や猫とともに人間に愛される動物(コンパニオンアニマル)でもある。現在、馬の利用は大きく分けて、競馬と競馬以外の娯楽産業(乗馬、観光、サーカス、動物タレントなど)に加えて食用もある。

世界的に見れば、犬や猫を食する文化を持つ地域があり、コンパニオンアニマルすなわちペットとして犬猫を考える人が多い日本人から見れば、残虐・非道といった見方が一般的であるが、逆に日本のクジラ、イルカを食する文化を批判する海外の人たちもおり、軋轢を生んでいる。

人間と動物との関係は難しいものがある。魚を平気で食べている人が金魚を飼っているのは通常の光景だ。犬猫のペットフードに牛や鳥肉が使われていてもなんとも思わない人も多いだろう。

馬はどうであろうか。コンパニオンアニマルなのか、人間が食用にする経済動物(産業動物)なのか?

馬肉はどこから来ているのか?

馬と言えば、競馬を頭に浮かべる人は多いだろう。競馬は動物愛護の分野とみる向きと、人間の賭け事のために馬を虐待していると考える立場もある。中央競馬と地方競馬を合わせれば、それに携わる人の数は膨大で、一大産業と言えるだろう。

そして、ベールに包まれているのが、競走馬として繁殖させられながら、その能力が備わっていなかった馬や、引退馬の「その後」である。競走馬の大半が「その後」、食用等を目的として処分されているというウワサも聞く。実際はどうなのであろうか。

馬肉の生産はどこで行われているのか?

国内の食用馬肥育場(写真提供:アニマルライツセンター)

日本国内で飼養されている馬の総頭数は、農水省生産局畜産部畜産振興課の資料によれば、2018年度統計で75,597頭だ。馬の種類として、軽種馬、重種馬、小格馬、在来馬があげられている。

軽種馬は主な品種としてサラブレッド、アラブの2種があり、主に競走馬として利用されている。重種馬の主な品種としてはペルシュロン、ブルトン、ベルジャンの3種があるほか、これらの品種を掛け合わせたペルブルジャンという交配種が知られている。体重は1トンを超えることもあり、主に重い荷物の運搬や農耕に用いられ、食用にも向いているとされる。小格馬はポニーなどの体格の小さい馬だ。在来馬は古くから日本にいる馬種で洋種馬などの外来種と交配することなく現在まで日本で残ってきた馬種で合計8種類の馬がいる。

前記の農水省の統計資料では、軽種馬43,210頭、重種馬4,978頭、小格馬562頭、在来馬1,654頭となっており、その合計は50,404頭だ。総計75,597頭との差25,193頭が統計上不明の馬だ。同課によれば馬の包括的な統計データはなく、このように不明な部分があるのが日本の馬をめぐる統計情報の特徴だ。統計上不明の馬は乗馬と食用の肥育馬と思われる。

一方、同資料によると食用のための馬の屠畜数は2018年で9,761頭だ。同年の馬肉の供給量は12,724トンで、国内生産は3,850トンだ。その差8,874トンは輸入肉だ。カナダなどから国産馬肉の数倍の量の馬肉が輸入されている。屠畜された9,761頭が国内生産3,850トンの肉になっていると考えられる。

ただし、この中には生体輸入された日本で肥育した馬が含まれている。日本では初めから食用専門に肥育される馬はきわめて少なく、海外から馬が生体輸入され、熊本、青森、福島などの馬産地で肥育されている。2018年でみるとカナダから3,872頭、フランスから806頭の計4,678頭が輸入されている。概ね生まれてから2年ほど肥育された馬が日本に輸出され、上記の馬産地でそれから数年肥育されて食用に屠畜される。

生きた馬が食用として輸入されている実態も知られていない。馬刺しとして馬肉を好む日本が大量の馬を海外から輸入している中で、輸送中の環境を問題視するガーディアン紙の報道もあった。また、過去にはPETA(動物の倫理的扱いを求める人々の会)が日本の馬屠畜場での処分前の怯える馬たちの動画を公開し、話題にもなった。日本での馬の食用実態は海外でも注目されている。

輸入馬がすぐに屠畜さるのではないので、正確ではないが、屠畜頭数9,761頭−輸入数4,678頭=5,083頭ほどが日本で生まれた馬の数であることは推測される。

前述のように、はじめから食用に繁殖・肥育される馬は日本ではきわめて少ないことが指摘されているので、ほぼこれらの馬は他の用途の馬が屠畜されていると考えられる。ではどこから来るのか?

競走馬や乗用馬は殺処分されているのか?

アニマルライツセンター岡田千尋代表理事は「国内で食用に屠畜される馬の多くは、競馬や乗馬の廃用馬と、生体輸入された馬だ」という。生体輸入の頭数は統計上明らかであり、また用途は食用とされているので、これは確かだ。

では競走馬や乗用馬(乗馬クラブなどの馬)が食用に屠畜されている実態はあるのだろうか。

アニマルウェルフェア(動物福祉)推薦のための政治活動を行う堀越啓仁衆議院議員(立憲)が最近、農水省担当者に競走馬の食用等のための処分の実態を聞いたところ、そうしたことはあるが、統計資料はないと回答を得たという。

これについて、統計の行間や過去の報道から推測してみる。

日本馬事協会の統計情報をみてみよう。競走馬の登録抹消数とその事由だ。

2018年に中央競馬では5,346頭が登録抹消となっており、その事由を多い順でみると、地方競馬(61.9%)、乗馬(18.1%)、繁殖(12.8%)、斃死(2.5%)となっている。それ以外の事由項目として使役馬、研究馬、外国競馬、その他があるが、割合はわずかだ。

地方競馬をみると、登録抹消は4,258頭で、その事由は、乗馬(35.8%)、時効(28.5%)、斃死(14.8%)、繁殖(10.5%)、中央競馬(8.8%)、その他(1.6%)となっている。時効は中央競馬にない事由で、「馬登録を受けてから、引き続き1年以上地方競馬の競走に出走しなかったことから抹消したもの」である。

これらの登録抹消事由に食用等のための肥育馬や屠畜という項目はない。地方競馬での時効による登録抹消後のことは分からない。また、乗馬用に出される馬が多い。中央競馬、地方競馬を合わせると2018年に乗馬用に転用された競走馬は2,491頭になる。

前出の岡田氏は「一般に、日本には乗馬クラブが大小1,000近くあり、大学等の馬術部などをあわせて乗馬人口は約100万人ともいわれる。しかしそれは競馬界が表向きに言っていることで、毎年2,500頭もの引退馬を吸収できるほど、乗馬の需要は大きくないという疑問がある」と述べる。

青木玲著『競走馬の文化史』には以下の記述がある。

「(登録抹消された馬の行き先で)一番多いのは『乗馬』である。しかし、その大半が遠からず肉用になることは、関係者の間では暗黙の了解事項なのだ。もちろん、本当の乗馬になる馬も少なくないが、全体から見たら一部に過ぎない」

2016年7月1日付全国農業新聞の記事「荒廃地生かし、馬の養老院」では「日本では毎年7,500頭が競走馬として生産されるものの、うち6,000頭はレースに使用された後は、一部は繁殖馬や乗馬用に転用されるが、大部分は処分される。役割を終えた馬は、肉用として処分される」と記述している。

2002年1月10日付産経新聞記事「クビになった競走馬たち 不況で食べられちゃう」では、町田市内の肥育牧場の経営者に取材している。記事では、「馬房には、勝てない競走馬、暴れて乗馬に向かない馬ばかり10頭前後がいる。大麦や麦の皮だけを半年間食べさせて太らせるためだ。馬の枝肉のうち3分の1は硬くて食用に向かない。生のまま都内のペットショップに卸している。メンチなどに精製されて犬のえさになる」という経営者の言葉を紹介している。競走馬はあまり食用には向かない場合も多く、ペットの飼料などになる場合も多いようだ。

競走馬は早ければ2歳でデビューし、ほとんどは8歳までに引退する。成績が極めて良ければ種馬・繁殖馬になるが、25〜30年といわれる寿命をまっとうできる馬はごく一握りのようだ。

2016年8月31日付中日新聞記事「馬耳朗報」は「登録抹消された後 関係者『相当数食用』」の小見出しを付け、「登録抹消後に食用の馬肉になっているものは相当数いる。一度、乗馬用になった後に殺処分になる馬もいる」という農水省担当者の話を紹介し、「競馬業界の関係者の間では、9割は馬肉になっているとも言われる」としている。

さすがに、競走馬としての登録抹消直後に処分する訳にはいかず、岡田氏が言うように、多くが乗馬用として乗馬クラブなどに引き取られるようだが、日本では乗馬人口もそれほど多くなく、名ばかりの乗馬クラブなども存在し、そこに引き取られた馬が肥育場などを経て食用などとして処分されている実態があるようだ。

「9割は馬肉になっている」との報道もある競走馬

鶏、豚、牛などの肥育状況はテレビなどで報道されることはあっても馬についてはほとんど見かけない。やはり、馬をコンパニオンアニマルとしてイメージする視聴者に配慮しているのであろうか。また、競走馬等が食用として処分されている実態もベールに包まれている。

馬を愛する人たちとしてメディアに出ることも多い騎手や調教師たちはこうした状況をどう思っているのであろうか。

競馬界にも取り組みはあるが…

過去にはメディアで競走馬の余生を送る場を確保するために奔走する調教師の姿が紹介されたこともあるし、競馬場の入場料の一部をそうした活動に使うべきだという意見も聞く。

競馬界にも取り組みはある。重賞レースで勝った馬など人気のあった馬の余生をファンに見てもらおうと月額1〜2万円の助成金を出す「引退名馬繋養展示事業」が競馬関連団体により行われている。しかし対象は2百頭ほどのようで全体からみればわずかだ。

日本中央競馬会(JRA)は「引退競走馬の養老・余生等を支援する事業」として毎年、引退馬の養老等の取り組みを行っている団体等に活動支援奨励金を出している。その対象は毎年数十団体程度だという。JRAはこの他にも、引退競走馬のセカンドキャリア促進に取り組んでいるとしている。

犬や猫と違って、引退馬を誰かが引き取って余生を過ごさせることは簡単なことではない。

この問題はそもそも競馬とは何なのか、馬はどのような存在であるべきなのかという根本問題にかかわってくるし、競馬の主催者、馬主、調教師の責任分担の問題もある。

消費者としては、SDGsやエシカル消費が叫ばれる今日、豊かで便利な生活を支えている裏側について知ることは重要だ。その上でどう行動するかは個々人の判断だ。