これから有望な「最高の仕事」とはなにか。世界各国で働いてきた著述家の谷本真由美氏は「アメリカの『最高の仕事ランキング』では、1位はデータサイエンティスト、2位は統計専門家、3位は『大学教員』だった。これは仕事の未来を象徴している」という--。

※本稿は、谷本真由美『日本人が知らない世界標準の働き方』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。

写真=iStock.com/metamorworks
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

■アメリカの最高の仕事ランキング「この13年で編集者は最下位に」

仕事の未来はどのように予測したらよいのでしょうか?

「仕事の未来」に関する様々な書籍が出ていますが、私が薦めたいのは、(1)数年にわたって仕事の動向を「定点観測」(定期的に観測する)しているレポートと、(2)数値データを収集して調査研究した学術研究です。

(1)の定点観測したものとしては、『The Jobs Rated Almanac: The Best Jobs and How to Get Them』(iFocus Books)という書籍があり、同書は、2015年度版で730ページ近くある分厚い辞書のような本で、電子書籍版も出版されています。1988年から、仕事について、各種の評価を定点的に実施しています。

アメリカにおける最高の仕事と、最低の仕事、それらの中間年収や仕事の将来性、どうやったら就職できるか、という情報をまとめたものです。この書籍の一番面白いところは、30年近くにわたって、定点観測しているため、時代の移り変わりにより、仕事の報酬や将来性の推移がわかることです。

例えば、2002年には編集者の仕事というのは、上から数えて31番目に良い仕事でしたが、2014年には139位です。2015年にはさらにランクが低下し、なんと最下位の200位になってしまいました。

デジタル革命とインターネットの普及により、出版業界の収益構造は悪化し、編集者の仕事がどんどん減っているのがその理由です。同書は、近年の仕事の変化は、主に、通信技術の変化により引き起こされている、としています。

■ストレスや収入の伸び、労働時間を含め、全体的に評価

このような変化は、決してアメリカ独自のものではありません。グローバルに起きている変化とリンクしています。

また、仕事の推移を丹念に見ていくと、親や親戚など、かつては現役だった人々が置かれていた仕事の環境や、そのやり方というのが、今では大きく変わってしまっている、ということがよくわかります。かつては有用だったかもしれない大先輩たちのアドバイスも、職業選択に関しては、今はまったく役に立たないのです。

また同書の良い点は、職業ランキングが漠然とした「人気度」で作成されているわけではなく、「就労環境」(感情的な環境、物理的環境)、収入、仕事の需要の伸び、収入の伸び、失業の可能性、ストレスなど、仕事自体の質も含め、全体的に評価されている点です。

職業や会社の名前にとらわれてしまい、その仕事が、自分の生活をどのように変えるのかには、注意を払わない人が多いのですが、ストレスや労働時間は、その仕事の継続性と深く関わるので、将来性を考える上で、十分に考慮しなければなりません。

■「大学教員」の需要がますます高まる理由

これからの仕事のことを考えるにあたり、アメリカではどんな仕事が「良い仕事」とされているのか見てみましょう(図表1)。

これは1〜10位のランキングですが、ランキング30位程度までを見ても、上位を占める仕事の傾向がはっきりしています。

最も将来性があり、ストレスが少なく、なおかつ収入も良いのは、「数値やデータを扱う仕事」「IT関連の仕事」「医療関連の専門職」の3つのカテゴリーです。つまり、専門性が高く、知識産業や医療などの付加価値の高いサービス業は、今後も伸びる可能性が高く、かつ、就労環境も良いわけです。

「大学教員」が入っているのが意外かもしれませんが、これは情報化が進む中で、より高スキルを身につける必要が高まっているためです。コロナ禍後はスキルの高度化がさらに必要になっているので需要は益々高まるでしょう。

デジタル化が進むので、教員は必要ないだろうと思われる方がいるかもしれませんが、高度に細分化したスキルを教育するにはデジタルな形であっても、カスタマイズした指導やカリキュラムの作成が必要です。

「機能訓練師」はリハビリを指導する仕事ですが、これは先進国はどこも高齢化していることと大いに関係があります。実はアメリカも高齢者が増えているので、機能訓練の需要が高まっています。このような訓練はデジタル化できませんので、どうしても対面で指導する必要があります。

「ITセキュリティアナリスト」も日本では馴染みがない方が多いかもしれませんが、IT化が進むほど安全なシステム運用の必要性が出てきます。コロナ禍でデジタル化がさらに進みましたので、この職業の需要は益々高まります。

「オペレーションズリサーチアナリスト」は馴染みがない方が多いかもしれませんが、これは製造や流通、サービスなどの工程を企画、設計、調査、改善する仕事です。デジタル化が進み、コロナ禍で自動化や合理化が進んでいますから、ものを運ぶ仕組み、製造する仕組み、サービスを提供する仕組みを考えたり精査する人の需要はさらに高まります。

■「物理的な接触が必要な仕事」の需要は低下

最近話題のAIが「職業名」として入っていませんが、「AIの下地となる作業をする職業」がランキングに入っていることに気づかれたでしょうか? データサイエンティストや数学者がまさにそれで、AIを設計したり仕組みを作る職業の需要はさらに高まっていきます。

またこれらのランキングは2020年のコロナ禍以前に作成されたものですが、コロナ禍でデジタル化が急速に進んでいるので、「数値やデータを扱う仕事」「IT関連の仕事」「医療関連の専門職」の需要は益々高まります。

谷本真由美『日本人が知らない世界標準の働き方』(PHP研究所)

2020年後半には、amazonを始めとするIT系大手の収益は大幅に増加し、コロナ後の世界の勝ち組となったことからもわかります。一方で、小売業などの「物理的な接触が必要な仕事」の需要は低下する一方です。

また3つのカテゴリーの他に、日本の人が注意してこの表を見るべき点は、企業名ではなく、あくまで「職業」分類でランキングが作成されている点です。

日本の「仕事」ランキングは、通常企業名でのみランキングされ、まるで「企業ミシュラン」のようになっていますが、常識的に考えた場合、企業の業態や市場の動きが変われば、企業内で仕事の需給に変化があるのですから、しごく当然の話です。

北米や西側欧州では、同じ企業内でも職種により報酬も待遇も変わるので、ランキングが職業別に作成されるのは当たり前のことです。

■欧州大学の修士号の専攻リスト「約3割はビジネス&経済」

理数系や技術系の報酬が高く、条件も良いのは、アメリカだけではなく、イギリスでも同じです。

図表2はイギリス統計局による様々な職業の年収の中間値です。最も高いのは裁判官など法律関係の仕事ですが、ついで、電気工学技師、金融機関管理職、金融機関のマネージャーなどの報酬が高くなっています。

欧州の学生や、欧州に留学する学生は、このような「良い仕事」の傾向を機敏に感じ取っているようです。若者の失業率が高いため、それだけどんな仕事をするべきか、真剣に考えているのでしょう。

欧州や、その他の国では、日本と異なり、大学や大学院での専攻が就職に直結していることが少なくありません。そのため、大学や大学院での専攻は、将来つきたい職業に関連したものにする人が多いのです。

以下は、欧州の大学で、英語で提供されている修士号の専攻のリストですが、約3割はビジネス&経済で、ついでエンジニアリング&技術だというのが興味深いです。

ビジネス&経済:28%
エンジニアリング&技術:21%
社会科学:13%
自然科学:9%
人文&芸術:8%
生命科学&医療:6%

つまり、「最高の仕事ランキング」で示されたように、数学系や技術系の仕事は需要があるので、希望する学生が多く、授業を提供する大学院が多いのです。

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)
著述家、元国連職員
1975年、神奈川県生まれ。シラキュース大学大学院にて国際関係論および情報管理学修士を取得。ITベンチャー、コンサルティングファーム、国連専門機関、外資系金融会社を経て、現在はロンドン在住。日本、イギリス、アメリカ、イタリアなど世界各国での就労経験がある。ツイッター上では、「May_Roma」(めいろま)として舌鋒鋭いツイートで好評を博する。
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(著述家、元国連職員 谷本 真由美)