「3年でやめる若者」は相変わらず3割…それはオジサンが思うような「深刻な事態」なのか?

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4月。新入社員たちのフレッシュな姿を見かける季節だ。大卒新入社員の30%以上が3年以内に離職するという「若者の早期離職問題」が、企業の頭痛のタネになって久しい。時間とお金と労力をかけて採った若手社員が一人前になったとたんに退職されては困ると、多くの企業が定着や引き留めに注力しているが、全体としては早期離職傾向に歯止めがかかっているとはいえない。

なぜ若者は辞めるのか? 様々な指摘がなされているが、元リクナビ統括編集長で、青山学院大学で長年キャリアデザインの教鞭も執る人材育成支援企業(株)FeelWorks代表取締役の前川孝雄氏は、企業はそもそも若者の早期離職は本当に問題なのかから問い直し、人材育成と組織成長のあり方も見直す必要があると言う。なぜここまで若者の早期離職が問題になるのか? からその理由を解き明かし、今後の方向性を提議する。

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大卒新入社員の「早期離職」問題

今から4年前の平成29年3月に卒業した新規学卒就職者のうち、大卒者の32.8%、短大など卒者の43.0%、高卒者の39.5%、中卒者の59.8%が就職後3年以内に離職している(「新規学卒就職者の離職状況(平成 29 年3月卒業者の状況)」(厚生労働省・令和2年10月30日)による)。

平成時代には、ざっくり中卒の7割、高卒の5割、大卒の3割が3年以内に辞めるという「七五三現象」という言葉まで生まれた。大学進学率の高まりとともに、幹部候補生である大卒者の離職率を特に問題視する「3年3割問題」は長く企業の頭痛のタネとなってきてきた。

実際、学歴別で「就職後3年以内離職率」の推移を見ると、大卒は平成7年に32.0%と3割を超えてから、多少の波はあるものの、平成21年の28.8%を除き、ほぼ一貫して20年以上30%超えとなっている。

この間、企業は指を加えて傍観していたわけではなく、ありとあらゆる離職防止・定着のための取り組みをしてきた。定着や引き留めのための「リテンションマネジメント」、さらには船や飛行機に新しく乗り込んできた乗客にサポートを行い慣れてもらうプロセスを指す「オン・ボーディング」という言葉も使われるようになった。

入社から定着までの支援を表す人事用語として派生し試行錯誤が続けられてきたかたちだ。平成半ばにリクナビの統括編集長を勤めた後、人材育成支援の(株)FeelWorksを立ち上げて14年目となる私のもとには、早期離職防止の相談が舞い込み続けて来たため、企業側の切実さも痛感している。

しかし繰り返すが、若者の早期離職傾向は減少しておらず、30%以上に高止まりしている。

「なぜ若者は辞めるのか?」「長く定着させるためにはどうすればいいのか?」…。

こうした経営者や人事の悩みに向き合う一方で、大学でキャリアデザイン論についての教鞭も執り続けて来た私は、そもそも若者の早期離職は本当に問題なのだろうかと考えるようになってきた。さらには、若者の早期離職=問題という固定観念から脱却しなければ、大切な若者を育て、組織成長を共に実現することも難しくなっていくのではないかとすら感じるようにもなっている。

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「早期離職」が問題視される3つの理由

そもそも、なぜ企業は若手社員の早期離職を問題視するのか。理由は3つある。一つ目は、企業の持続成長に向けて、その企業ならではのDNAを受け継ぎ進化させていくために他社の手垢がついていない無色透明な新卒採用者を重視するからだ。自社色に染めたいということだ。中途の即戦力・キャリア採用と新卒のポテンシャル採用では、選考基準はもちろん、担当部署も明確に分けられている場合も少なくない。

二つ目は、莫大な採用と育成投資の回収ができなくなるからだ。採用の2〜3年前から始まるインターンシップに始まり、採用広報・選考・内定・内定辞退防止・研修・OJT・ジョブローテーションなど、一人前のビジネスパーソンに育て上げるには、気の遠くなるような時間とコストと労力がかかる。企業にとって一人前になるまでは投資期間にあたるため、いよいよ投資回収、つまり戦力として活躍を期待するタイミングで早期離職されてしまうと、投資失敗ということになってしまう。

三つ目は、若者は上の世代と比べ、需給バランスとして売り手市場傾向のため、辞められると補充が難しいからだ。読者のなかには若者の早期離職傾向にも山谷があると思っていた人もいるかもしれない。それもそのはず。一般報道などでは、若者の早期離職が大きく取り上げられる時期と、取り上げられることが少ない時期があるからだ。

しかし実際のところ、先述のように、若者の早期離職傾向に大きな波はなく一定して高止まりし続けている。実感と実態のギャップの理由はシンプルで、企業の人材不足感・採用意欲が好況期で上がると注目度も高まり、不況期で下がると注目度も下がるというわけである。

コロナ禍の現在は後者の状態にあり、一部企業では将来不安から若手の離職も低下傾向にあるため、早期離職はあまり取沙汰されなくなっている。ただ、世界で最も少子高齢社会である現代日本では、景気の波に関わらず若者は希少な存在であるため、中長期視野で補充は難しくなる一方である。

魅力が薄れる「日本型雇用」

こうして企業が早期離職を問題視する理由を考えていくと、人材を企業内に囲い込む日本型雇用が前提条件となっていることが透けて見える。日本型雇用とは、アメリカの経営学者であるジェームズ・アベグレンが挙げた「終身雇用」「年功序列」「企業内組合」の三種の神器を特徴とするものである。ここにおける新卒採用とは、労使一体となる「会社村」を作りあげていくメンバーとして新入社員を迎え入れるということだ。日本には、就職はなく就社と言われる所以である。

しかし私が言うまでもなく、こうした日本型雇用は既に瓦解してきているし、時代の変化にも対応しづらくなってきている。そもそもジェームズ・アベグレンが分析したのは昭和の高度成長期を形作った一部の日本企業である。

平成を越えて令和の現代。人生100年時代ともなり、終身雇用を保障できる会社はどれだけあるだろうか。雇用者全体で4割、業種によっては大半が非正規雇用者に頼っている企業もあるなか、終身雇用を標榜できる企業は限られている。

また多くの企業で導入が進みつつあるジョブ型雇用では、新卒でも企業ニーズの高い専門スキルを持つ学生であれば、年功序列を崩して高給与を提供しようとする動きも出てきている。企業内組合の組織率に至っては2割を切って久しく、もはや大勢とはいえない。純粋培養の画一的な人材しかいない組織ではイノベーションも生まれないと、経営戦略として多様性を推し進めようとする動きも盛んだ。

そして何より、こうした昭和に原型が出来た日本型雇用を知らない現代の若者、特に優秀な若者ほど、自分でキャリアを築いていこうとする意識が強くなってきている。終身雇用や年功序列を信じて滅私奉公してきた親世代が、早期・希望退職勧奨の対象になるなど苦労する様子を見ていることもあり、なおさら自立意識が高まり、会社任せでは安心できないという気持ちも強くなっているようにも感じる。

実際、リクルートキャリア「就職プロセス調査」 によると、新入社員の就職の決め手は、2019年卒も2020年卒も1位は「自らの成長が期待できる」となっている。

卒業応援&出戻り歓迎採用へ

では、早期離職を企業はどうとらえればよいのか。結論から言うと、早期離職を問題視する離職防止一辺倒の思考を冷静に見つめ直し、むしろ健全な離職であれば前向きにとらえてみることだ。もちろんパワハラやブラック就労を強いて(もしくは強いたと思われて)不健全に短期間で辞めていくことは避けなければならない。若手が、配属された職場のみで会社全体を判断してしまい、社内での成長・活躍の可能性を知ることなく退職してしまうことも防ぎたい。

でも、若手本人の意向を面談などでよく聴き、ここは離職して次のステージに向かったほうが得策だと判断できれば、応援してもよいのではないだろうか。

人も企業も変化する。新入社員が入社時に描いたキャリアプランも、企業が新卒採用時に描いた育成プランも変化していくものだ。そもそも若いということは、まだ自我が確立していないための移ろいやすさと同義でもある。

人事や上司の「もう辞めるのか」という落胆や仁義にもとるという気持ちになることはわからなくはないが、若手本人の成長と組織としての成長が合致しにくくなり、転職・独立・起業したほうがお互いのためになると考えられるなら、気持ちよく送り出してあげてほしい。

バックパッカーで海外をまわってきたような留学生たちを教育し、ITエンジニアに育て上げ派遣するアレックスソリューションズという会社がある。ビジネスマナーからIT知識・スキルまで教え込み、育て上げたITエンジニアが派遣先の世界的企業に引き抜かれてしまうも少なくないそうだが、代表の大野雅宏さんは意に介さない。

むしろ「社員個人にとってはキャリアアップになりますから、いいことだと考えています。もともとはフリーターなどをしてくすぶっていた人が、世界的企業のエンジニアになるってサクセスストーリーじゃないですか」とまで話す。さすがに、それで経営が成り立つのかと疑問に思って質問したところ、元社員とのOB会(アルムナイネットワーク)を組織し、交流を続けることで、OBが新たな発注元になり業績向上に貢献してくれていると話してくれた。社員の離職を逆手にとる戦略だ。

また副業や兼業を認める会社も増えてきており、4月に施行された高年齢者雇用安定法の改正によって、高齢期の社員を独立させて業務委託契約を結ぶことも、企業の努力義務の選択肢となった。こうした変化の行きつく先には、そもそも何をもって就職とするのか、退職とするのかの境界線も曖昧になっていくかもしれない。

さらには、人生が長くなり変化が激しくなるこれからは、早期離職は今生の別れでもなくなっていくはずだ。企業には出戻り社員を歓迎して受け入れることも奨励したい。転職したことで、もといた会社がいかに恵まれていたかに気づけることは珍しくない。不平不満が多かった若手員が出戻ることで真摯に働くようになるかもしれない。

人も企業も変化するという視野をもっと拡げれば、転職や起業によって経験を積み、数十年後にリーダーとして戻ってくる可能性もある。日本ヒューレット・パッカードやマイクロソフト日本法人でキャリアを積んだあと、古巣のパナソニックに戻り改革に挑む樋口泰行さんなどはその先駆者だろう。

社員を他業界や他社に出向させて経験を積ませて育てる動きも出てきているが、離職者とつながっておけばそんな施策を講じずとも巡り巡って育成になることもあり得るだろう。

「早期離職=問題」とする思考の枠組みを広げるために、極端な提案もしてきたが、大切なのは、個と組織が対等に選び選ばれあうなかで共に成長していくことだ。大切な人の採用と育成に向けて新たな挑戦が増えることで、閉塞感ある働く社会に希望が灯ると信じている。