【小泉 カツミ】53歳独身女性が「事故物件」の1LDKマンションを即買いした驚きの理由 理想の住まいを探し求めた結果…

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キレイな物件を探していた

東京・西新宿。オフィスビルや専門学校などが立ち並ぶ繁華なエリアに建つ築20年の中古マンションの一室。もともと1LDKの物件だったが、ワンルームにフルリノベーションし販売したところすぐさま買い手がついた。しかしこの物件、実は訳ありの「事故物件」だったのだ。

女性が購入したマンションの内観

「私は、去年の12月から新宿エリアで中古マンションを探していました。いろんな物件をもう15件くらい内見して来てたんですね」

そう語るのは、物件を購入したIT関連企業に勤める新井聡子さん(仮名・53)である。独身の新井さんは、これまで新宿に近い中野のマンションに住んでいた。そのマンションのローン返済が終わったために、そこを賃貸として貸し出し、自分はもっと勤務先に近いマンションに住もうと考えたのだ。

「私の条件は、西新宿の職場に自転車で通えるくらいのエリア。予算は3000万円ほどで間取りはワンルームか1LDK。でも、その条件だと、見つかるのは築50年くらいの古い物件ばかりなんですね。もう少し築浅(建築時期が新しい)だったとしても、広さは20平米くらいしかなかったり……。西新宿エリア限定だと理想的な物件になると、すぐに1億円とかになっちゃう。予算に見合ったキレイな物件を見つけるには、もっと遠くへ行かないきゃいけなくなるんですよ」

これまで内見してきた物件は、部屋自体はそれなりにリフォームが施されてはいた。ところが、やはり築50年となると、いくら外装工事を行ったとしても、建物の古めかしさまではどうしようもない。

「友達が遊びに来たときに、どうしても『ああ、古いなあ』と思われちゃうでしょう。だから、できればせめてもう少し新しい物件がないかなと思っていました」

偶然の出会いと奇跡の条件、だが…

とはいえ、なかなか「これぞ」という物件に出会うことはない。

(探すだけ探してみて、どこかで手を打つしかないのかな--)

そう新井さんは諦めかけていた。

そんな2月下旬のある日のこと。

依頼していた不動産会社に紹介された新宿区の物件の内覧予定の日だった。物件の室内の写真や間取りや概要はだいたいわかっていた。

(何だかここもイマイチだな)

新宿区とは言っても、西新宿からは遠い場所だった。

朝、新井さんは何となくパソコンを開いて、不動産サイトを検索してみた。

女性が購入したマンションの内観

「今さらなんだけど、『もっといい物件ないのかな』と思って。そしたら、偶然この物件を見つけちゃったんです。広さは33平米で築20年。それまで住んでいた中野のマンションよりは少し狭いくらい。価格は予算オーバーの3150万円でしたが、どうせローンを組むのでそれくらいはかまわなかった。それより何より、室内の写真が載っていて、それがめちゃくちゃキレイで、もうびっくりしちゃって。すぐさま内見を予定していた不動産屋さんに、『今日の内見はナシにしてもらって、この物件の申し込みをしてください。買いますから』とLINEで連絡したんです」

担当者からは「その物件を見なくていいんですか?」と聞かれたが、「いや、見なくていいです。その物件買ってください」ときっぱりと伝えたのだ。

新井さんは、以前にもいい物件を見つけた時、躊躇している間に他の人に先を越された経験が何度かあった。だから、この時は同じ悔しさを味わいたくはなかったのだ。
さらにこの物件にはもう一つ奇跡的な条件がついていた。

「それはペット可だったんですよ!」と新井さんは笑う。

女性が購入したマンションの内観

女性が購入したマンションのバスルーム

「いろいろ探していて、結構いい物件はあったんだけど、ペット可となると突然なくなるんですね。私はこれまで6回物件を購入してきたんですけど、ペットがいなかったからまあまあ理想の物件を購入できていたんですね。ところが、今回は猫を飼いはじめていた。ペット可の物件となると、10件あるうちの1件あるかないかになっちゃうんです。だからこれはまさに『奇跡』だと思いましたね」

予算、広さ、築年数もクリア、フルリノベーションしてまるでモデルルームのような部屋、インテリアのベッドやテーブル、ソファなど家具付きでの販売、さらにはペットも可。まるで理想的なマンション購入と言えるだろう。

しかしこの物件にはもう一つ特殊な条件があった。それは「事故物件」であるということだった。

「事故物件」でも気にならない

筆者は、この物件がリフォームされる以前に一度訪れている。それは、神主によるこの部屋の「お祓い」に立ち会うためだった。

以前の住人は、40代の男性。西新宿のオフィスに勤めるビジネスマンだったらしいが、長くうつ病を患い、会社を休んでいたとのことだった。死因は病死だった。近隣の住人から「異臭がする」という通報があり発見に至ったのだが、 死後6ヶ月が経過していたという。

40代男性が孤独死した現場写真

それを新井さんは、どう思ったのだろう。

「最初、不動産屋さんに『買いつけしてください』と頼んだ時は、そのことは知らなかったんです。後で聞いたら、物件情報のところに『容認事項あり・詳細はお問い合わせください』という文字は書かれていたらしいんですが、詳しいことはわからなかった」

その後、不動産会社の担当者から「事故」の内容を聞かされたのだが……。

「ああ、そうですか、という感じでしたね。物件の内容が、どんなに探しても見つからないようなものだったし、それも西新宿で会社のすぐそばでね。すべての条件を満たしているこの物件を今回断ったら、今後何年探しても見つからないだろうと思いました」

40代男性が孤独死した現場写真

まったく嫌な感じは持たなかったのだろうか。

「人が亡くなったことよりも、まだ40代で死後6ヶ月経っていたと聞いた時は、なぜ見つからなかったのか、可哀想にと思いましたね。どうして家族や友達が見つけに行ってあげなかったのか、連絡を取り合っていなかったのか、そこが不思議でした。もし私がここで死んでいたら、まず親が見つけてくれると思います。毎日母親とLINEのやりとりをしていますから。けれどもこの方は、物件を相続したお母様が施設に入所していたと聞いて、そういう事情があったのかと納得しました」

また、新井さんには「死」に対する特別な経験もあったために、さほど気にはならなかったらしい。彼女は、介護士1級の資格を持ち、3年間介護業界で働いていた経験もあったのだ。

「訪問介護もしていて、デイサービスにも週末行ってました。そこで、昨日まで一緒に話していた方が突然亡くなる、という経験をしていたんですね。亡くなったと聞いて『えー! 昨日まで一緒に笑っていたのに』とショックを受けていたんですけど、それがしょっちゅう続くとだんだん『死』が身近なものになってくるんです」

人は誰しも「死」は避けられないものなのだ。

「殺人事件があったというのなら、もう少し違ったかもしれませんが……。自殺だったとしても、毎月2000人以上が自殺している現代ですからね。おそらく気にはしないと思います。みんな必ず死ぬわけだし、うちの両親ももうすぐでしょうから……」

25年ローンで購入

この物件を販売したのは、事故物件専門不動産サイト「成仏不動産」を運営する株式会社MARKSだった。担当者の有馬まどかさんが言う。

「事故がなく、一般的なリフォームが行われた物件の場合、あのエリアでは約3200万円が相場になっています。弊社が施工したようなデザイン性の高いリフォームの場合は、約3500万円前後が相場になるでしょう。今回は、事故物件ということもあり、1LDKを大胆にワンルームにし、床材や水回りなども素材にもこだわってリフォームを施しました」

特殊清掃が施されたリフォーム前の状態

新井さん以外にも問い合わせはあったのだろうか。

「物件情報を不動産のポータルサイトと弊社の成仏不動産に掲載しました。約1週間で10件以上の問い合わせがあり、そのうち3組のお客様に内見していただきました。1組は男性の単身の方、2組は女性の単身の方でした。そんな中、今回ご購入いただいた新井様から、ご内見せずに申込を入れたいというお話をいただきました。

一番手ということで受付けまして、契約前にご内見いただき、無事ご契約にいたりました」

特殊清掃が施されたリフォーム前の状態

新井さんは、この物件を25年ローンで購入した。

「ローンが終わるまで賃貸にしたり、売買したりはできません。どちらにしてもそんなつもりはありません。これだけの理想の物件ですから、ずっと住み続けますよ」

幸福な「新住人」と出会えたことで、「事故物件」はその名前に終止符を打った。亡くなった「前住人」にとってもこれはきっと救いになるに違いない。

女性が購入したマンションのキッチン