セブン&アイ・ホールディングスはアメリカでのコンビニ事業の買収遅延により、期末決算の発表と同時に予定していた中期経営計画の開示を延期し、決算説明会も開催しなかった(記者撮影)

4月8日、日本を代表する小売り企業の決算資料がひっそりとホームページ上にアップされた。

セブン&アイ・ホールディングス(HD)は同日、前2021年2月期決算を発表した。売上高に当たる営業収益は5兆7667億円(前期比13.2%減)、営業利益は3663億円(同13.7%減)と、減収減益で着地。新型コロナウイルス感染拡大の影響により、中核事業である国内のセブン-イレブンの売り上げ低下が響いた。

もっとも営業収益・営業利益とも従前に公表していた会社計画は上回り、決算内容に大きなサプライズはなかった。異例だったのは、期末決算にもかかわらず、通常なら井阪隆一社長らが出席して行われる決算説明会が開催されなかったことだ。

新中計の発表が二度目の延期に

セブン&アイHDは決算発表に先立つ4月2日、「新中期経営計画および 2022 年 2 月期業績予想の公表延期について」というリリースを配信。期末決算と同時に予定していた新中計と今期の業績予想の開示を延期し、決算説明会も開催しない方針を明らかにしていた。

今年3月までにアメリカの石油精製会社から買収予定だったコンビニ同業のスピードウェイ事業について、アメリカ連邦取引委員会による認可手続きが遅れ、買収が完了していないことが理由という。

もともとセブン&アイHDは2020年4月に中計を発表予定だったが、コロナ禍を受けて1年延期した経緯がある。今回、さらに公表が先延ばしされた格好だ。

買収が遅延しているスピードウェイには、セブン&アイHDのM&A案件では過去最大の210億ドル(約2兆2200億円)を投じる。コンビニの寡占化が進んでいないアメリカでの事業拡大を、新たな中計で今後の成長戦略の1つに掲げることは間違いないだろう。一方で決算説明でも、新中計の中身でも、注目されていたのが業績低迷の続く「お荷物事業」の処遇だ。

セブン&アイHDは、傘下にコンビニから銀行まで幅広い企業が属する。中でも規模が大きく、集中的にリストラなどの構造改革を進めてきたのが総合スーパー(GMS)のイトーヨーカ堂と百貨店のそごう・西武だ。今回の決算を見ると、両社の明暗は大きく分かれた。

イトーヨーカ堂の決算は、営業収益1兆809億円(前年同期比8.8%減)、営業利益77億円(同19.3%増)と減収増益だった。売り上げではテナントの賃料が減少したほか、スーツや入学式用のお出かけ着など衣料品の販売も大きく落ち込んだ。だがコスト面では、2020年夏頃までチラシ配布を自粛した影響などにより、広告宣伝費が減少した。

イトーヨーカ堂は店舗改革で効果

増益となったのは、広告自粛などといったコロナ禍の特殊要因だけによるものではない。セブン&アイHDの説明によると、2016年から約60店舗で行ってきた改装を中心とした店舗改革の効果が、営業利益を11億円押し上げた。

たとえば、2020年9月に改装した「イトーヨーカドーたまプラーザ店」(横浜市)では、以前は収益性が低く品ぞろえをしていなかった紳士服や寝具などを復活させた。食品から日用品まで生活に必要なものをまとめて買える店として消費者から認知され、店舗全体の売り上げは改装前と比べ1割アップした。


セブン&アイHDの井阪社長は2019年10月に行われた決算説明会で、イトーヨーカ堂やそごう・西武の構造改革の方向性について語っていた(撮影:今井康一)

ここ数年、イトーヨーカ堂は店舗改革と並行して、首都圏の一都三県以外での閉店を続けてきた。直近でも5月に北海道・旭川店(開業は1980年)、8月に静岡県・沼津店(同1978年)を閉鎖予定だ。

イトーヨーカ堂の三枝富博社長は東洋経済が2月に行ったインタビューで、「止血としての閉店は8割方できている」と説明した。

ただ、旭川店や沼津店のように築年数が古い地方店はまだ複数残る。改装店舗の改革効果が見えてきた一方、投資が行われていない店舗の一段のリストラがあるのかが気になるところだ。

対照的に、経営不振が深刻化しているのがそごう・西武。営業収益は4404億円(前期比26.6%減)、営業損益にいたっては67億円の赤字(前期は1.7億円の黒字)に転落した。

コロナ禍で客数が大きく減り、主要店舗は軒並み減収。旗艦店の「西武池袋本店」も、外出自粛の影響により売上高が前期比24%減の1385億円に激減した。特に落ち込み幅が大きかったのが、売上高が4割減となった「西武渋谷店」。渋谷店はコロナ禍以前、店舗売上高のインバウンド比率が1割を超えていたため、訪日客需要の蒸発による打撃が大きかった。

そごう・西武の2021年2月期の既存店売上高は、2019年に消費税増税後の反動減があった10月を除き、すべての月で前年実績を大きく下回った。宣伝装飾費などの経費削減のほか、「そごう徳島店」をはじめとする不採算店舗を5店閉店したものの、売上高の激減にはあらがえなかった。

もはやリストラ余地も乏しく

長引く経営不振で店舗整理を続けた結果、現在のそごう・西武の国内店舗数は10店と、2006年のセブン&アイHDによる買収時から3分の1にまで縮小した。


コロナ禍での外出自粛が打撃となり、そごう・西武の旗艦店「西武池袋本店」の前期売上高は2割以上減った(撮影:今井康一)

売り上げの減少が続く「西武秋田店」と「西武福井店」は、店舗面積を縮小して改装を進めている。もはやリストラでの収益改善余地も限られるだけに、コロナ禍でも堅調な販売を見せる富裕層向けビジネスの拡大など、具体的な売り上げ確保策の打ち出しが急務だ。

セブン&アイHDは、アメリカのスピードウェイ事業買収を6月までに完了させ、その後に新たな中期経営計画の発表を予定している。

2020年2月期を最終年度としていた前回の中計では、イトーヨーカ堂もそごう・西武も、掲げた利益目標を大きく下回る結果となった。成長事業の見通しだけでなく、お荷物事業の再建の道筋をどう示すのか。中計発表時に開かれる会見での、経営陣の説明に注目が集まる。