中井貴一 撮影:渡邊明音

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新生PARCO劇場のオープニング・シリーズの最終章となる舞台『月とシネマ―The Film on the Moon Cinema―』。

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主演の中井貴一さんと作・演出のG2さんによる、旧PARCO劇場の2016年公演『メルシー!おもてなし〜志の輔らくごMIX〜』以来2度目のタッグが実現。

古き良き昭和の香りがただよう映画館を舞台に、笑いをまぶした心温まる人間ドラマが展開する。

稽古も佳境に入る中、中井さんに、作品のこと、久しぶりに立つPARCO劇場への思いなどを伺った。

5年ぶりのPARCO劇場で伝えたかったこと

――中井さんは旧PARCO劇場のクロージング・シリーズ公演『メルシー!おもてなし〜志の輔らくごMIX〜』以来、5年ぶりのPARCO劇場への登場になりますね。『メルシー!〜』に続いてのG2さんとの舞台作りに期待がかかります。

昨年1月のオープニング・シリーズのお披露目の時に、たぶん僕たちのこの公演だけ、内容が決まっていなかったと思います。

そこから「どういうものにしようか」とG2さんと打ち合わせをしていきました。でも世の中の状況がどんどん悪くなっていって…。

僕自身は、ウイルスが怖いのではなく、ウイルスによって人間の心が殺伐とすることが一番怖い、と感じていたんですね。

僕らが今、演劇で何が出来るのかを考えた時に、自分たちのやりたいことだけをやるのではなく、人の心を殺伐とさせない何かを…、1時間でも2時間でもいいから、心を動かす何かを作れないか、そんな気持ちが強くあったんです。

G2さんに「体全体がホワ〜っと温かくなって、よかったね〜と思う、そんな作品が作りたい」という話をして。ジワ〜っと何かに包まれて劇場を出る、そんな作品を今回はとくにやりたい。そう話したら、G2さんが今回の企画を考えてくださいました。

昭和という時代のノスタルジックな匂いがする映画館を舞台にしたお話。

何だか最近よく「昭和ってよかったですね」って言われるんだけど、確かに振り返ってみると、いろんなものが良い意味で緩い時代でした(笑)。

緩かったためにダメだったところもあったけれど、その緩さに人が救われたところも実はたくさんあったと思うんです。

その緩さみたいなものを、昭和の映画館を舞台にした物語から発信できないかな、ということで話がまとまりました。

――コミカルでありミステリータッチにも感じられる展開から、家族の存在、人と人との繋がりといったテーマが浮かび上がる作品ですね。

テーマに関してはまだこれから稽古で立体化していくことで、もっと削ぎ落とされてクリアになっていけばいいなと思っています。

僕としてはやっぱり今の世の中の空気、その影響が大きいと感じていて。

令和に入ってから、「国は何をしてくれる?」と多くの人が言うようになった。

国家が国民を守るのは当たり前、それはそうかもしれないけれど、そんなものなのかな…と。

もっと主体的に、自分たちで自分たちの命を守ろうと思うことが普通じゃないか、僕はそんな気がするんです。

国があって国民がいるんじゃなく、国民がいるから国家があるという考え方に変えていかなきゃいけないだろうと。

社会を構成しているのは、それぞれの家族ですよね。家族という単位が大事なんだってことを、ここ3年くらいずっと思っていて。

家族を描く時に、作劇の場合、幸せな家族の話よりも、何か葛藤を抱えているそれぞれの家族がそこに存在していく、それが大事かなと。

今回のホンは、役者が呼吸を入れることでどんどん膨らんでくれるんじゃないかと思っています。

「喜劇」のホンの中に「悲劇」を探す

――中井さんが演じるのは、その昭和の映画館経営者の息子であるフリーの映画プロデューサー。どんな人物でしょうか。

僕たちのいる業界の話ですから、そういったプロデューサーは何人も知っています。

G2さんが「僕は映画のことは何も知りません」と言うので、じゃあ僕が取材をしていろいろ聞いてきて、お教えしますと。

作劇として必要な部分は残しながら、整合性のあるプロデューサー像を作ったという感じです。

プロデューサーって結構、口の上手い詐欺師タイプが多いので(笑)、あえて小難しく何かを参考にしなくても役作りは出来たかなと思います。

――G2さんの稽古場の雰囲気、共演の方々の様子など教えていただけますか。

今は稽古真っ盛り、ここからが正念場というところですが、G2さんは人間の心の移り変わりといった点を細か〜く演出なさっていますね。『メルシー!〜』の時とはまた違った細かさを感じています。

今回、70代、50代、30代、20代と各世代が揃っていて、本当に面白いですよ。G2さんの言っていることが、20代の人たちに通じてない時があったりして(笑)。

実際に言ったものとは違いますが、「棚からボタ餅」みたいな言葉に、20代の二人が「???」となって、「……棚からボタ餅って何ですか?」ということが実際に起こっているんですよ。見ていてすごく面白い(笑)。

以前は考えたことはなかったけれど、今はもうこんなに世代が離れているんだなあ、と感じます。

貫地谷(しほり)さんがちょうど中間の世代で、僕らと若者たちのつなぎ役をしてくれているので助かっています。

本当に初日どうなるんだろう!?ってドキドキ、ワクワクしている感じですね。

――公式サイトでG2さんが「中井さんを始め、コメディの達者な役者が揃いました」とコメントされています。ご自身ではコメディを演じることについて、どのように意識されていますか?

僕は、“あざとく笑わせる”ことは好きじゃないんですね。お客様が舞台を観ながらほくそ笑む…、そんなふうに進んでいくのがいいなと思っているんです。

僕が舞台をやる時の絶対条件は、“お客様が舞台の中で生活している人々を覗き穴から見ている、そんな舞台でありたい”。

皆が一生懸命に生きていて、ちょっとちぐはぐだったり滑稽なことが起きたりして、それを外から見て、皆が笑っている…、そんなふうに作りあげられたらいいなと。

僕が喜劇のホンをいただいた時に、一番最初にやる作業は、そのホンの中の悲劇を探すことです。

悲劇のホンをいただいた時は、喜劇を探すこと。それを必ずやるんです。

そのコントラストがあればあるほど、余計なことをやらなくて済む。

今回のこの『月とシネマ』は、実は喜劇ではないと僕は思っているんです。

悲劇ではないけれど、子が親を思う気持ち、そういった感情がベースにあるので、それを引き出すためのスパイスとしてコメディがあると思っているんですよ。

お客様をいかにリラックスさせるか。緊張を解きほぐした中で起こる悲劇と、緊張している中で起こる悲劇では、悲劇の在り方が全然違いますよね。そこが舞台の良さなんです。

生の空間でいかにお客様の気持ちを作り上げて、物語を進めていくか。今回はそういった作品になっていると思います。

今、この時期に舞台に立つということ

――今回の作品における、中井さんご自身の挑戦とは?

それはやっぱり、“この時期に演劇をやる”ということでしょう。

実はものすごく不自由が多くて、以前はそんなことしなかった、ありえなかったようなことを出演者は背負って、演じなければならない。

そして今後も、もしかしたらこの形態が常識になってしまうかもしれない…、そんな物理的な苦悩が実際にあるので、今回はそれをどう乗り越えていくかが大きな課題だろうなと思っていますね。

でもお客様もいろんなものを背負いながら観に来てくださるので、それに見合う、満足していただけるものを作り上げようとしています。

――中井さんも観客となって、PARCO劇場オープニング・シリーズをご覧になりましたか?

はい、『大地(Social Distancing Version)』も観ましたし、『藪原検校』も。

劇場に来ると、お客様の様子を見てしまうんですよ。皆、大丈夫なのかな?って。危険を冒してまで来てくれてありがとう!という気持ちになって(笑)。

『大地』のカーテンコールで、お客様が「待ってました!」という熱い思いを込めて拍手されるのを見て、何も関係ないのに涙が止まらなくなりましたからね。あの人、何で泣いてるんだろう?と思われたかもしれない(笑)。

本当に、お客様に感謝の気持ちでいっぱいになりました。

――今度はその拍手を舞台上で受け止めることになりますね。これまでも中井さんは『コンフィダント・絆』や『趣味の部屋』などの傑作をPARCO劇場から発信して来られました。あらためて新生PARCO劇場に立たれるお気持ちを聞かせてください。

昨年10月にWOWOWで放送された「劇場の灯を消すな!」というプロジェクトで、三谷幸喜さん演出の朗読劇をPARCO劇場でやらせていただいたんです。

『大地』のセットがある舞台に乗らせていただいて。新しくなった劇場は、もっと「あ〜こうなったのか〜」という感じに変わっているかと思ったら、その時の感触は「わ〜、変わらないじゃん!」(笑)。

舞台に乗った感じが、以前と全然変わらないんですよ。それがすごく嬉しかった。

こんなふうに温かみを残したまま、新しいものに生まれ変わっていくのは素敵だと思いました。

劇場ってとくに、究極のアナログだと思います。目の前で人が芝居するんですから。

だから、ここから先、このPARCO劇場の持つ温かみをどのように継続していくか。それが僕ら俳優たちの仕事なんだろうなと思いますね。

【公演情報】

日程:※開幕日未定

会場:PARCO劇場

料金:11000円(全席指定・税込)

作・演出:G2

出演:中井貴一、貫地谷しほり、藤原丈一郎(なにわ男子/関西ジャニーズJr.)、矢作穂香、村杉蝉之介、たかお鷹

※新型コロナウイルスの影響により、4月17日(土)〜28日(水)までの公演が中止となりました。詳細はPARCOの公式HPでご確認下さい。