堀込高樹(Photo by Kana Tarumi)

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昨年末をもって8年間のバンド体制を卒業し、堀込高樹を中心とする「変動的で緩やかな繋がりの音楽集団」となったKIRINJIがついに動き出した。4月14日に新体制の第1弾シングル「再会」を配信リリース。兄弟時代から数えて3度目のスタートラインに立つ堀込高樹に、新体制に踏み切った経緯や、新曲に隠された衝撃のエピソードなどを語ってもらった。

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―新しいアーティスト写真、房総半島で撮影したそうですね。

堀込:南房総市で撮影しました。写真を撮っただけで、何も食べずに帰ってきましたけど楽しかったです。ロケバスでの移動も久しぶりだったし、ちょっとしたレジャー感もあって。

―海沿いに佇む姿を見て、「KIRINJIは高樹さん一人になったんだな」と改めて実感しました。それこそ、お一人での撮影となると……。

堀込:こういう取材の撮影は別にして、アー写となると随分久しぶりでした。『Home Ground』(2005年のソロ作)のとき以来かな。

―やっぱりバンド時代のほうが、アー写の撮影は賑やかでしたか?

堀込:そうですね。でも、大人数で撮るというのもなかなか大変なんですよ。写真も全員が納得するカットを選び出さないといけないので。


最新アーティスト写真(Photo by Kana Tarumi)

―昨年11月にベスト盤『KIRINJI 20132020』が出て、翌月にバンド体制としてのラスト・ライブ「KIRINJI LIVE 2020」がNHKホールで開催されました。まずは振り返ってみていかがですか?

堀込:とにかく、有観客で開催できてよかったです。終わったあと、また(新型コロナウイルスの)感染者数が増えて、またイベントの開催が難しい状況になりましたから。それと僕だけではなく、メンバーにとっても、スタッフにとっても、お客さんにとっても……単純に「楽しい」とか「寂しい」とか、そういったものとは違う、何か独特の感じがありました。「バンド編成として最後」ということよりも、「ああ、やっと出来たなあ」という感慨が大きかったですね。

―ライブ自体は集大成というべき内容でしたが、感傷的なムードは微塵も見せなかったですよね。2013年の兄弟時代ラスト・ライブもそうだったと思いますが。

堀込:そういう湿っぽい空気に耐えられないんですよね(笑)。

―(笑)。

堀込:別に音楽をやめるわけではないし、メンバーともまた一緒にやる機会があるだろうし。

―そもそも湿っぽくなる理由がないと。

堀込:グループで活動していると、メンバーが加わったり離れたりするのは自然なことで、一つの過程として当然訪れるものだと思うんです。

本当のターニングポイント

―新体制の第1弾シングルが出る今だからこそ、高樹さんがリブートをいつ頃に考え出したのか、その背景には何があったのか伺っておきたいです。まず、バンド活動の終了がアナウンスされたのは昨年の1月31日でした。周囲のリアクションはいかがでしたか?

堀込:人によって様々でした。バンドを一つのまとまりやストーリーとして愛でる文化があるじゃないですか。そういう方たちにとってはショックだったようです。でも、「KIRINJI=堀込高樹を中心とするプロジェクト」として捉えていた人たちは、すんなり受け入れてくれたようでした。

―僕も正直、「そうだよね」と思いました。『11』(2014年)の頃はメンバーの個性を活かしながらアンサンブルを奏でていたのが、『cherish』(2019年)では明らかに高樹さんのアイデア主導になっていましたから。

堀込:そうですね。

―だからきっと、バンド編成で活動してきた8年間のどこかで、大きなターニングポイントがあったのかなと思いますが。

堀込:実は『ネオ』(2016年)のツアー後、コトリンゴさんから脱退の相談がありました。ただ僕としては、ツアーの手応えがすごくあった。

―2016年10月の品川ステラボール公演は圧巻でした。

堀込:だから、もう少しバンドに残ってほしいとお願いしました。でも、映画も大ヒットして(コトリンゴが音楽を担当した『この世界の片隅に』)、自分の活動に専念したい気持ちもよく理解できたので、(2017年12月に)脱退することになりました。

特にライブにおいて、コトリンゴさんの存在感は大きくて、いわばアンサンブルの要でした。彼女が弾くピアノのダイナミクスに合わせて演奏が機能していましたから。そうやって3〜4年ぐらい続けて、いい感じにまとまってきたところだったので、残念ではありましたね。

その後はライブは5人編成+サポートでやっていきましたが、中途半端に穴を埋めるような形にはしたくなかったから、アンサンブルの楽しさよりも、ダンサブルなグルーヴを聴かせるスタイルにシフトしました。長尺のソロを聴かせるのではなく、3〜4分の曲が連続して続いていくような感じ。そこから作る曲やレコーディングの方法も変わっていって、それを突き詰めることで完成したのが『cherish』でした。

『11』のような感じを続けていれば、メンバーそれぞれの個性に合わせた音楽を続けられたとも思います。プログラムやシーケンスの割合が増えていくなかで、僕の目指す方向性に合ったものをメンバーに要求していることに対して、「悪いな」という気持ちもありました。


Photo by Kana Tarumi

―でも、これはポジティブな話ですよね。高樹さんが妥協することなく前進し続けた結果ですから。

堀込:申し訳ない気持ちもありますが、「今これを作りたい!」「今これに興味がある!」というものにガッと向き合う瞬発力と、出来上がったものの熱量はダイレクトに繋がっていますから。アイデアがホットなうちに形にしないとダメだと思うんです。

―最近ではMELRAWさんが、『cherish』やライブのゲスト参加で存在感を発揮していましたよね。これからは彼みたいに、今のKIRINJIと相性のいいミュージシャンが参加しやすくなるのかなと。

堀込:MELRAWくんが参加してくれた時点で「あ、次が始まったな」みたいな手応えはありました。夏の配信ライブ(昨年7月の「KIRINJI Studio Live Movie 2020」)でも実感させられましたね。サックスってこんなに場を熱くさせるものなのかって。

思わぬ人物との「再会」

―今回のシングル「再会」ではコロナ禍の状況を歌ってますよね。そもそも本当はバンド活動終了を発表したあと、昨年2月末からツアーを行う予定だったはずで……。

堀込:ライブができなくなって予定が狂いました。

―そこから高樹さんはどう過ごされてたんですか?

堀込:歌詞にも書いたように、常に精神的なリミッターが掛かっているというか、膜に覆われているような感じが続いていました。「抑圧」と言ったら大袈裟ですけど、それまでみたいにワクワクしながら新しい音楽を楽しみ、次の方向性を探っていくような気分にはなれなくて。聴き馴染みのある音楽とか、ジャズやクラシックとか、そういうものに耳が行きがちだったのですが、それを次の作品に反映させるのも違う気がして。

―実際、そういうサウンドにはなっていないですよね。

堀込:『愛をあるだけ〜』と『cherish』でやってきたことが、まだまだ面白そうだと思っているんですよね。自分の作風と現代的なポップスを繋ぎ合わせるような方法論というか。それについては去年からずっと考えていて、もうしばらく『cherish』の先にあるものを作りたかった。

そのつもりで曲を作り始めて、メロディが先にできあがって、自分としては爽やかで素直な曲になった。じゃあ、歌詞はどうしようかなと考えたときに、やっぱり今一番気になっていることを歌おうと思いました。それで、これしかないだろうと。

―コロナ禍で叶いづらくなった、大切な人たちとの「再会」を待ち望む歌詞ですよね。

堀込:友人と偶然会う場面から曲が始まっているじゃないですか(”交差点の向こうに君を見つけて 思わず駆け寄った”)。実は去年の12月、しまおまほさんとバッタリ会ったんですよ。新宿駅の近辺で。

―おお。

堀込:「うわー、久しぶりー!」みたいな。お互いちょっと涙ぐんでしまって。でも、僕はその時、とにかくトイレに行きたかった。

―(笑)。

堀込:「まほちゃん、ごめん! 今いい感じだけど、トイレに行きたくて。年が明けたらご飯でも食べよう。じゃあね!」と言って別れました。そこからまた感染者数が増えたのもあって、それっきりになってしまっているのですが。

―残念ですね。

堀込:でも、それが取っ掛かりになりました。「やあやあ」とバッタリ会うあの感じ、この状況で久しぶりというか、あんまり感じたことのないものだったので。

―かくして感動的な再会のシーンが歌われたあと、サビ終わりの「そんな夢を見た朝」で全部ひっくり返されるという。

堀込:夢オチです(笑)。「こうだったらいいのにな」という理想と、「実際はこうなんだけど」という現実、その両方を描きたかった。どうしようか考えていたときに「そうだ、夢オチだ!」とひらめいて、策を講じてみました(笑)。

エンジニア・小森雅仁の貢献

―新体制のお披露目として、豪華なゲストを迎えて盛り上げる選択肢もあったと思うんですよね。でも「再会」はその逆で、千ヶ崎さんがベースを弾いている以外は、高樹さんの名前しかクレジットされていない。

堀込:今回の曲は、特にゲストを迎えなくてよかった気がします。曲のテーマや歌詞の内容と、一人でコツコツ作っている感じも合っていたので。ここで賑やかしが入ったら「コロナ禍でも楽しくやってるんじゃん!」と思われそうですし(笑)。こういうインナーな感じの、密閉感のあるサウンドでよかったのかなと思います。

―作曲面で参考にしたものは?

堀込:ビル・ウィザースの「Lovely Day」。今年の正月にずっと聴いていました。彼の曲はアガるというか、明るい気分になれる。オリジナルはもちろんすごく好きだし、ホセ・ジェイムズが出したカバーアルバム(2018年作『Lean On Me』)もいいです。

―意外にも昔の曲が挙がりましたね。

堀込:これまた思い出すきっかけがあって、西友で買い物してたらかかっていたんですよ(笑)。西友はあるときから突然、音楽の趣味が我々好みになったじゃないですか。

―わかります、フリーソウルやネオアコみたいな。

堀込:そうそう、プリファブ・スプラウトとか(笑)。それで「Lovely Day」を聴いて、「ビル・ウィザースいいじゃん」となって、家に帰ってから同じ曲を何回も聴くという。そういうのは久々でしたね。「Lovely Day」と「再会」を聴き比べれば、ムードが近いことに気づいてもらえると思います。

―「killer tune kills me」の延長線上とも言えそうですよね。メロウな4つ打ちも含めて。

堀込:テンポ感だったり、イントロのふわっとした感じはそうですね。今回はミックスを小森雅仁さんにお願いしたのですが、それが凄くよかった。最近のヒット曲を誰がミックスしているのか調べたら、小森さんの仕事だらけで(笑)。Official髭男dism、米津玄師さん、藤井 風さん……いい感じの若手の曲をみんな手掛けている。それにラジオから流れてきたときに、押し出しはあるけど耳に痛くはない、とても印象に残るミックスだなと思って、それでお願いしました。

―実際に作業してみて、小森さんはどのあたりが凄かったですか?

堀込:僕のなかでは「時間がない」みたいな、ナチュラルだけど華やかな仕上がりを想定していたのですが、小森さんのミックスは全然違いました。もっとダンス・ミュージック寄りのミックスで、ボーカルの処理もこんなにパリッとさせたことはなかったので、「ここまで行くんだ!」と驚きました。

小森さんはKIRINJIを聴いてくれていて、なおかつ彼自身の打ち出しもはっきりしているので、今回は僕のイメージに近づけるのではなく、彼のジャッジに従うことにしました。普通にミックスしたらシティポップ的な文脈で捉えられそうな曲だと思いますが、小森さんがミックスすることによって、より間口が広がった感じがします。

若い世代から愛される未来

―ちなみに、小森さんが手掛けているような国内の音楽シーンについては、どんな印象を抱いていますか?

堀込:Official髭男dismは出すたびに曲がよくてビックリします。ノリにノってるのが伝わってきます。メロディのセンスが今一番いいと思います。星野源さんやKing Gnuの活躍しかり、今は音楽的にかっこいい人が売れていて、「ここ数年で何が起きたんだろう?」と思いますね。ウカウカしてられないですよ。

―でも、「KIRINJI好きです!」と若いミュージシャンから言われる機会も増えたのでは?

堀込:おかげさまで、最近はかなり多いですね。特に30代よりも下の世代。この間のライブはVaundyくんや、さとうもかさんが観に来てくれましたけど、彼らも20代ですもんね。「親が聴いてました」と言ってくれる方もいますし、「エイリアンズ」がCMに使われたのも関係あるのかもしれない。あとはやっぱりサブスクの影響でしょうね。

―ひょっとしたら、今が一番人気があるんじゃないですか。

堀込:不思議ですよね、昔はこんなに雑誌とかウェブで話題に上らなかったから(笑)。最近はリリースがなくても取材の依頼が来る。ありがたい話です。


Photo by Kana Tarumi

―「関ジャム」のスペシャル(※)はご覧になりました?

※2021年3月3日放送「関ジャム 完全燃SHOW 〜J-POP20年史 2000〜2020プロが選んだ最強の名曲ベスト30〜」

堀込:僕は見れなかったのですが、「紹介されてたよ」という話は人づてに聞きました。「エイリアンズ」がランキングに入ったんですよね?

―16位に選ばれてました。「エイリアンズ」は泰行さんの曲ですが、まさかキリンジがTV番組で、SMAPなどと並んで紹介される未来が訪れるなんて……。

堀込:”あのころの未来に ぼくらは立っているのかなぁ”みたいな。ごめん、思いついたから言っただけですけど(笑)。

―(笑)そういう流れもあって、若い世代を中心にファンが増えている状況は確実にあると思うんですよね。そのなかで、昔のキリンジが再評価されるだけではなく、今のKIRINJIが聴かれていることに手応えを感じる部分もあるのでは?

堀込:昔のミュージシャンの作品と出会って、「今はどんな感じなのかな?」と思って調べてみたら、ベスト盤とセルフカバーばかり出しているみたいなこともあるじゃないですか。それは自分の将来のあり方として、絶対に避けたいと思っています。その気持ちは今も変わりないですね。オリジナル作品で魅力のあるものを出し続けなければ、という気持ちが常にあります。

―このあともリリースは続きそうですか?

堀込:そうですね。年内にアルバムを出すことを目標に曲作りを進めています。

―「再会」に参加したのは千ヶ崎さんだけでしたが、今後は他のアーティストとの繋がりも増えて、サウンドのバリエーションも広がっていくのかなと想像しています。

堀込:これから作るアルバムには、いわゆるポップスから多少逸脱したような曲を入れてもいいのかな、とも思っています。『cherish』ではダンサブルなサウンドに寄せたので、今度はもう少し振り幅を持たせるというか。でも、あえて振り幅を抑えたからこそ『愛があるだけ〜』と『cherish』が高く評価されて、「KIRINJIってこういうふうに聴けばいいんだ」と伝わったのもわかる。だから幅を広げることに不安もありますが、そこはしっかり考えながら作っていきたいです。


KIRINJI
「再会」
2021年4月14日リリース
https://jazz.lnk.to/KIRINJI_SAIKAI


Blu-ray / DVD
『KIRINJI LIVE 2020 -Live at NHK Hall-』
2021年5月26日リリース
予約:https://store.universal-music.co.jp/artist/kirinji/

堀込高樹 plays ”あの人が歌うのをきいたことがない”
2021年5月3日(月)、4日(火)ブルーノート東京
出演:堀込高樹(Vo, Gt) 、千ヶ崎学(Ba)、楠均(Dr)、林正樹(P)
※5/4(火)2ndショウのみインターネット配信(有料)実施予定
※アーカイブ配信視聴期間:5/7(金) 11:59pmまで
ブルーノート東京HP公演ページ:
http://www.bluenote.co.jp/jp/artists/takaki-horigome/