ニトリ×ファミレスは「お、ねだん以上。」になれるか?(筆者撮影)

ニトリがファミリーレストランに進出した。

そう聞けば驚く人も少なくないだろう。コロナ禍のあおりで飲食業界は厳しい状況にある。しかも、ニトリが始めたファミレスはステーキを中心に据えた業態だ。「いきなり!ステーキ」が苦境に立たされている今、その業態を選択する危うさを感じる人もいるかもしれない。

ニトリの本業は好調だ。

ニトリは2021年2月期の決算で、34期連続増収増益になったと報告した。売上高は7169億円、経常利益は1384億円となった。アプリの会員数も伸び、通販事業が好調なこと、海外店舗の拡充などを報告した。昨年話題になった島忠との経営統合においては、積極的に両社の融合を図り、5年間で利益を倍にする計画だという。

その決算報告のなかでも、ファミリーレストラン進出については語られることがなかったが、ファミリーレストラン事業はグループ企業であるニトリパブリックが手掛けている。ニトリパブリックとは広告代理店であったり、ネット通販等のコンサルティングも担ったりするのと同時に、飲食店も展開している。


ニトリに併設する「ニトリダイニング|みんなのグリル」1号店は国道4号線(日光街道)と環状7号線が交わる場所に位置する(筆者撮影)

同社は2021年3月、ニトリの環七梅島店(東京都足立区梅島)の敷地内に、「ニトリダイニング|みんなのグリル」を開店した。さらに神奈川県相模原のニトリモールへの併設も予定している。これから試行錯誤を繰り返しながら店舗数を拡大していくのだろう。

低価格で訴求

私はニトリがファミレス、さらにステーキを中心にしたと聞いて、さっそく行ってきた。ニトリの環七梅島店の敷地内といっても、ニトリの店舗内にあるわけではない。あくまで敷地内であり、大きな駐車場の端にあるイメージだ。

まず目につくのがロードサイドの大きな看板。チキンステーキ500円、チキングラタン500円、ダッチベイビー(スイーツ)200円が強調されている。実際に私が入店しようと並んでいると、後ろのカップルは、この看板にひかれて入店を決めたのだという。


メニューは絞り込んでおり、価格も安い(筆者撮影)

同店には、その他のメニューとしてハンバーグステーキ150g700円、リブステーキ150g990円などで、メニュー自体は絞られている。また郊外店なので、あまり需要はないと思われるがハイボール250円など価格設定はドリンクを含めて低く抑えられている。またサラダ、ドリンク、ライスバーがありセットでも350円ほどだ。

もちろん、コロナ禍ゆえにテイクアウトも可能になっている。面白いのはテイクアウトの価格表示。

●チキンステーキ490円(店内では500円)
●チキングラタン490円(店内では500円)
●リブステーキ980円(店内では990円)
●ハンバーグステーキ680円(店内では700円)


コロナ禍ならではのテイクアウト対応も万全(筆者撮影)

総額表示になったので消費税込みになっている。店内は10%でテイクアウトは8%なので、テイクアウトが安価なのは当たり前なのだが興味深い。

ソロ客や2人組が多い

また、私は混み具合を調べるためお昼時に行ってみたが、店舗内はほぼ満員。客席は50席ほど。待ち時間は15分ほどだった。ただ満員といっても家族連れは1組だけで、多くはソロ客か2人組。客層は会社員や警備員、建設作業者の方々が目立った。

とくに客同士で飛沫を飛ばし合って話している感じではない。また、客席と客席のあいだにはアクリル板が設置されており、感染リスクは低いように感じられた。

さらに気づいたのが、「いきなり!ステーキ」との類似性。私は「いきなり!ステーキ」のゴールド会員であり「いきなり!ステーキ」を応援している。ニトリダイニングの什器やレイアウト、そして客のカバンにかける油ハネ防止カバーまで含めて、「いきなり!ステーキ」と似ている。実際に調べてみると、ここは「いきなり!ステーキ」の居抜きで作られている店舗だという。

ニトリパブリックは飲食店展開をするなかで「いきなり!ステーキ」のフランチャイジーとしても活動してきた。さすがに「いきなり!ステーキ」のノウハウを吸収するためにフランチャイジーになったわけではないだろうが、結果として独自ステーキ・ファミリーレストランの実験につながった。

まだ2店舗なのでオペレーションの効率化も模索段階だろう。またメニューの絞り込みも食材の集中した調達につなげると見られるが、数店舗であれば、実際のコスト削減につなげるのは先になるかもしれない。

しかし、このニトリダイニングの取り組みは、このステーキ・ファミリーレストランの形のままかどうかは別として、方向性としては不可逆なものだろう。


店頭の看板で低価格メニューを訴求(筆者撮影)

来店頻度高め提案力を上げる

1.来店頻度の向上

ビックカメラは日用品やアルコール類、医薬品などを取り扱っている。単なる家電量販店ではなくなっている。家電を購入する頻度が下がったいっぽうで、家電量販店各社は来店頻度をあげるために他ジャンルの品ぞろえを拡充し訴求性を上げてきた。

ヤマダ電機は大塚家具に出資し、住宅関連と家電を融合させた。考えるに、住宅を購入したりリフォームをしたりすれば付属して家具やインテリアなどの需要がある。単独の領域からワンストップで購入できる店舗づくりはいわば必然ともいえる。

ニトリも、家具からはじめ日用品、食器類、アパレルと分野を拡大してきた。前述の環七梅島店では食品スーパーも併設している。イケアやコストコがそうであるように、次に飲食店を併設し、さらに来店頻度を上げる取り組みは想像できるものだ。

2.衣食住全体での提案力向上

現在、ニトリダイニングが併設された環七梅島店では、たとえばステーキフォークやナイフ、ステーキ皿が販売されている。まだラインナップとして数が多いとはいえないものの、店舗で使用している食器類や、食材の提供などが考えられるだろう。

カフェを併設する書店がある。カフェ事業では利益を上げられなくても、お客の滞在時間を上げたり、お客のデータを入手することでコンサルティング事業に役立てていたりする事例がある。

ニトリは衣食住のすべてに関わり、消費者の生活に深く根ざすことを意図している。冒頭であげたとおりニトリは本業が好調であるため、飲食事業では利益を上げなくとも集客の役割だけを担える強みがある。

これも同様に、イケアやコストコでは飲食で提供する食品を店舗で販売している。飲食形態では利益を上げなくても、食品販売や他商品のついで買いトータルで利益を確保する試みだ。

グループ全体の魅力を上げる

メーカーの商品(NB)を販売するのではなく、消費者とダイレクトに関わりそこから独自商品(PB)を開発・販売する流れは加速している。チェーンストアの理論は家具販売だけではなく、応用すれば飲食店経営にも活かせ、それによってニトリグループ全体の魅力も上げていく。まさに実験的な施策だろう。

なお、私が実際にニトリダイニングでリブステーキとハンバーグを食した感想を述べておく。この両方とも、「いきなり!ステーキ」のラインナップでもある。いきなり!と比べて、ステーキの焼き具合の好みを聞いてくれることはないし、量も種類も限られている。

味は価格相当かな、という感じだ。悪い意味ではない。お手頃なので、近くにあったら来店頻度は高まるかもしれない。ただ、遠くまであえて向かうかといわれたら微妙かもしれない。

ニトリのお客はそれこそ老若男女で、ステーキに絞った業態がベストかはわからない。ただそれはニトリが百も承知だろう。だからこそ、ニトリダイニングは大規模な宣伝もせず、テストを繰り返している。この形のままかは不明だが、飲食店などを使って訴求性を上げる方向性としてはおかしくない。

「お、ねだん以上。」と感じるお客がどれほどいるのか注目したい。