精神病質(サイコパシー)を持つサイコパスは、通常の人々が持つ感情を発達させることができず、他者への共感を欠き、反社会的な行動に走りがちな人々です。サイコパスは犯罪に関わることが多いものの、中には非犯罪的であり社会的に成功するケースもあるということが知られていますが、「サイコパスの人々と一緒に働く上で生じる問題」についてキャンベラ大学のベネディクト・シェリー准教授が解説しています。

Bullies, thieves and chiefs: the hidden cost of psychopaths at work

https://theconversation.com/bullies-thieves-and-chiefs-the-hidden-cost-of-psychopaths-at-work-149152

サイコパスは人口に対し1%以上の割合で存在しているといわれており、日常生活の中でサイコパスと接触する可能性は決して低くありません。サイコパスの割合が高いグループとしては刑務所の囚人が挙げられており、囚人の15%以上がサイコパスといわれています。また、囚人以外でサイコパスが多いグループに挙げられるのが「大規模な会社組織の幹部」であり、実に3.5%がサイコパスであるとの推定もあるだけでなく、最高責任者に占める割合はさらに高いとみられているそうです。

一般的にサイコパスは恐れ知らずで自信を持っているため、潜在的に能力が高い従業員だという印象を与えて職を得ることができるとのこと。企業のトップに立った古典的なサイコパスの例としては、1990年代初頭に企業の再建屋として名をはせたアルバート・ダンラップ氏の事例があります。

ダンラップ氏は業績が悪化した企業の経営を任されると、大量解雇や工場の閉鎖、事業の売却といった方策で短期的に業績を回復させた人物です。あまりに過激なリストラによって「チェーンソー・アル」という異名をとったほか、多くの恨みを買っていたため常にボディガードを付けていたともいわれています。また、ダンラップ氏は強いサイコパスの特性を持っていたことも確認されています。

ダンラップ氏のように社会的な成功を収めるサイコパスも確かに存在するものの、シェリー氏は「サイコパスは一般的に共感力と良心の呵責(かしゃく)を欠いています。また、彼らは自己中心的で他人を操作しようとし、非感情的かつ不誠実です」とコメント。2020年の調査では、サイコパスが企業内で昇進するにあたって組織的または個人的な損害を引き起こし、経済全体で数十億ドル(数千億円)の損失をもたらしていると示唆されたとのこと。

現実には会社組織がサイコパスを採用することで利益を得られる状況は少ないそうで、採用して組織に配属すると人々が共同で働くための規範を無視し、非倫理的で搾取的な行動に従事するケースが多いとシェリー氏は指摘しています。2017年に出版された「A Climate of Fear: Stone Cold Psychopaths at Work(恐怖の風土:職場における冷酷無比なサイコパス)」の著者であるクリーブ・ボビー氏は、企業内のサイコパスが起こす問題行動を以下のように挙げています。

・組織の再編を利用して自分に対する潜在的な脅威を弱める。

・同僚をいじめて服従させる。

・うわさを広めて競争相手を弱体化させる。

・プロジェクトの権限に「上司への印象操作テクニック」を導入する。

・悪い行動を「下す必要があった難しい決断」として正当化する。

サイコパスは病気ではなくパーソナリティ障害の一種であり、たとえ職場で一緒に働いていても法律が介入することはできません。サイコパスに対し法律的な介入が認められるのは、その人物が誰かを危険にさらす可能性があると認められた場合か、実際に詐欺や窃盗などの犯罪に発展した場合のみです。

シェリー氏は、「場合によっては行動基準を厳しくすることでサイコパスが与える可能性があるダメージを最小限に抑えられるかもしれません」とコメント。同僚や部下に対するいじめや嫌がらせは、労働文化に有害な他の行動に従事している可能性が高いと示す明白なサインであり、そういった問題行動を起こす人物が他者より強い権限を持つことを拒否することが必要だとのこと。

また、サイコパスを採用しないための予防策として、「求職者の主張が真実かどうかを確認すること」が重要だとシェリー氏は指摘。サイコパスは自分が持っていない資格や経験、能力をアピールすることへの抵抗が薄いため、自分が実際には行っていないことを採用面接で主張して「有能な人物だ」と信じ込ませることが得意です。したがって、採用候補者の主張についてしっかりと確認して真実かどうかを判断したり、正直さや誠実さを測るテストを行ったりすることで、サイコパスを採用する可能性を減らせるそうです。

さらに、過去の職場に候補者の評判を聞く際は上司だけでなく同僚や部下にも話を聞くことが大事です。サイコパスは上司によい顔を見せることが得意であり、上司からの評価は高くなる傾向がありますが、同僚や部下はサイコパスが見せる本当の顔を知っているかもしれないとシェリー氏は述べました。