撮影/松山勇樹

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麻雀界の猛者が集まったMリーグという舞台において「魔王」というニックネームで恐れられ、今季の個人成績MVPと最高打点の2冠を獲得する圧倒的な強さを示した佐々木寿人。28歳でのプロデビューという遅咲きのスターの半生と、その強さの秘密に迫った。(前後編の後編)

【写真】麻雀を打っている時のような鋭い眼差しでインタビューに答える佐々木寿人

――今では麻雀ファンの誰もが知る存在の佐々木さんですが、プロになった動機はどのようなものだったんですか?

佐々木 それはもちろん麻雀が大好きだったからなんですけど……。17歳の時ですね。それまでゲームでちょっとやったくらいでルールも何もわからないくらいだったんですけど、初めて友達の家で麻雀をやって「こんなに面白いものがあるのか」と感じたんです。何が良かったんだろう、触れてみた感じとか、牌の絵の美しさか……とにかく運命的な出会いだと感じて、後にも先にもそんなことないんですけど、あまりの面白さに興奮してその日は寝れませんでした。

それで大学に進学してアルバイトをしようと情報誌を見たら、麻雀屋さんのコーナーがあった。「好きなことやりながら給料ももらえるなら、こんなに理想の仕事はないな」と思いましたね。地元が仙台で、バイトしていたのが市内の全国チェーンの雀荘だったんですけど、そこでの成績が良かったから「東京の店に来てみないか」と誘われたんです。

――上京にあたって逡巡するようなことは?

佐々木 ありましたよ、おっかないですもん(笑)。僕なんて田舎もんですし、東京に出てからも「こんなところは住む場所じゃない!」って思っていましたね。店が新宿歌舞伎町にあったからなおさらです。でもその雀荘で、今も同じチームで闘っている前原雄大さんに出会ったんです。

――出会うから前原プロのことを知っていたんですか。

佐々木 はい。当時「月刊プロ麻雀」という雑誌があって、そこですごく面白いコラムを書かれていたので。その雑誌には日本プロ麻雀連盟の成績表なんかも載っていたんですけど、前原さんは一人だけケタが違う強さを誇っていたんですよ。興味があったから、前原さんの打っている後ろで見ていたんですけど、きれいな麻雀じゃないのに「これが本当に勝つための麻雀だな」っていう納得感を感じたんですよね。上がりに向かって一番最短だし、力強かった。店にはほかのプロの方も何人か来てはいましたけど、「この人は強い」って思う人は少なくて。前原さんはそのうちの数少ない1人でしたね。

――しかし、その前原さんからも「プロにならないか」と声をかけられたけど、なかなか決断には至らなかったとか。

佐々木 プロになったって、別に給料がもらえるわけじゃないんですよ。それもあって初めて誘われてから4、5年は断っていました。

――麻雀プロは賞金の出る大会やリーグ戦はあっても、いわゆる年俸制の契約というのはMリーグが初めてでしたからね

佐々木 まあ将来の不安については数年間考えて、最終的には「何とかなるだろ」と思って入りました(笑)。

――プロデビューは比較的遅かった佐々木さんですが、麻雀業界ではアマチュア時代から知られた存在だったこともあり、早くから麻雀プロの花形である放送対局にも出られていましたね。

佐々木 そうですね。多分、連盟のなかでは僕が一番チャンスを多く頂いた人間です。その実感がありますね。期待して頂いていたと思います。

――その後、次々に結果を残されて今の佐々木選手があるわけですが、麻雀が強くなるための練習方法はどんなものなのでしょうか。

佐々木 やっぱり打荘数を増やして、局数をとにかくこなすことですね。序盤の手牌の組み立て方を大事にしつつ、あがりを逃すことが極力ないように、最短であがりを取れる打ち回しを回数をこなして体に叩き込みます。それを、三人麻雀で徹底的にやるんですよ。

――Mリーグで初めて麻雀に親しんだ人には、麻雀が3人でも成立するゲームだと知らない方もいると思います(※使用する牌の数を減らし、特殊なルールで行うことができる)。なぜ三麻が強くなるために効果的なんですか?

佐々木 1人少ない分、手番が回ってくるのが早いんですよ。僕自身、決着の早い勝負が好きなこともありますけど、切羽詰まった局面が、かなり数多く訪れるんですよ。一度あがりを逃すと対戦相手に必ず先にあがられる、そういう局面は圧倒的に三麻の方が経験できるし、それは四人麻雀にもかなり生きてくると思うので。僕はもう、最近は練習では三麻以外はほとんどやってないですね。

――それは佐々木さん独自の理論なんですか?

佐々木 そうですね、あくまで自分にとっては、です。三麻をやるとバランスを崩す、っていう人もたくさんいるので。ただ、一打一打で間違えた選択をしないことや、自分の麻雀にとって重要なスピード感、反射神経を鍛えるにはこれが一番だと思っています。

――今季Mリーグの成績もそうですが、佐々木さんは今年2月、所属団体の最高峰タイトル・鳳凰位も獲得されました。今の言葉を聞いて、強さにあやかろうと三人麻雀を打ちたくなるファンも多いと思います。佐々木さん自身、このタイトルに対する思いは大きかったですか?

佐々木 はい。実際、プロ入りしたのも鳳凰位を獲りたいがためなんですよ。プロ入りをためらっていた時に当時の鳳凰位タイトル戦を直接観戦して、「こういうところで闘いたい」という風に思ったのが最後の後押しになったので、間違いなく一番欲しかったタイトルです。

――鳳凰位は将棋の名人戦のように、リーグ戦で昇級を続けて、最上位のA1リーグでさらに1年近く闘わないと挑戦権が得られない、そんなタイトルだそうですね。

佐々木 入会が06年なんで、14年くらいかかったことになるのかな。リーグ降級したことも、A1リーグに上がり損ねたことも、もちろん停滞も当然したし、振り返るとやっぱり長いことかかりましたね。勝ってホッとはしたんですけど、連盟のトップに立ったんで、そこには責任感も生まれますよね。特に、他団体も絡む対外試合では負けられないなと。これまで以上にそういう思いはありますね。

――名実ともに日本プロ麻雀連盟を引っ張るトッププロとしての意識を新たにしたわけですね。では最後に、今後の目標についても教えてください。

佐々木 Mリーグの優勝を狙うのは当然として、鳳凰位もひとつの大きな目標ではありましたけど、これで終わりではないので。防衛というか、今後もずっと勝てるようにしていきたい。当然、まだ獲りたくても取れていない個人タイトルもたくさんありますから、どん欲な思いで挑み続けていきたいですね。【前編】「優勝しか意味がない」今季MVP Mリーグの“魔王”佐々木寿人が語る信念