ガソリンスタンドのタンク交換でも高額な費用がかかる

 電気自動車(EV)の充電には、200Vの普通充電と、直流電流を使い一気に充電を行う急速充電がある。そのうち高速道路のサービスエリア(SA)や道の駅などで移動途中に立ち寄って短時間で充電をする急速充電設備は、全国に8000基近くある。

 急速充電器の耐用年数は約10年といわれており、2009年に三菱自動車工業からi-MiEVが発売され、翌年日産自動車からリーフが発売されたことで、全国的に急速充電器の設置が急がれてから10年以上が立つ。ことに、政府から1005億円という補助金を得て各地に数多く設置されるようになるのは2013年からとなり、あと数年でその多くが10年を経過する予定で、交換作業が急がれるところだ。

 ことに日産はリーフの普及を目指し、所有者が不便にならないようにと全国の販売店への急速充電器の設置を進めたので、早くもその更新が始まっているはずだ。三菱自も、同様である。

 急速充電器の設置は、その仕様や設置場所によって幅があり、500〜1000万円ほどといわれており、更新による交換の負担は小さくない。しかし、これからさらにEVの普及が促進されようとしているいま、交換の手を緩めるわけにはいかない。また、駆動用バッテリーの搭載量が増えている今日、より高性能な仕様の急速充電器に切り替えるひとつのきっかけにもなるだろう。

 設置に際しては、国の補助金に加え、地方自治体からの補助も行われている。その両方を組み合わせると、全額(10/10)補助となる例もあるようだ。かつて、1005億円の補助金が支給された折、補助金で賄いきれない費用については、自動車メーカー4社(トヨタ、日産、ホンダ、三菱自)が支援した。

 いずれにしても、小さい額ではないが、じつはガソリンスタンドも30年に一度、地下の燃料貯蔵タンクを交換する必要があり、これには3000万円ほどかかるとされている。クルマの利用者は普段あまり気にかけないが、クルマに関わる社会資本は維持管理にそれなりの費用が掛かるものなのだ。

 そしてガソリンスタンドの場合は、EVへの移行だけでなく、そもそもガソリンエンジンの燃費が2割以上向上し、つまりその分の2割相当の売り上げがさがることで、これに30年に一度とはいえ3000万円におよぶ地下タンク交換工事を考えると、投資した金額を回収するだけの収入が得られないこともあって閉店が相次ぎ、もっとも多かった90年代の半数にまで店舗数が減ってしまっている。

 まして、日本は2050年までに脱炭素社会とすることを宣言した。エンジンからモーターへの動きはもはや止められない。

 そのうえで、EVへの充電の基本は自宅での普通充電であることを忘れてはならない。普通充電のコンセントであれば10年に一度の交換も必要がなくなる。何らかの理由で交換する際も、10万円程度(工事費込み。200Vのコンセントだけなら3000円ほど)で済む話だ。したがって、急速充電器を必要以上に増やすことより、日本特有の課題となっている集合住宅の管理組合によるコンセント設置拒否という現状を打開することが、喫緊の課題である。

 こちらの場合は、複数の利用者向けの認証機能などが必要で、普通充電器設備として70万円前後かかる。また、レストランやスーパーマーケット、あるいは勤務先などの立ち寄り場所に、普通充電のコンセントを設置することも急がれる。

 急速充電器を使って満充電(実質的には約80%)にならなくても、継ぎ足し充電を繰り返せばEVはいくらでも走れるのだ。