言葉もしぐさも「過剰包装」しがちな日本人。「殻」を破るコツは?(写真:GARAGE38/PIXTA)

日本を代表する一部上場企業の社長や企業幹部、政治家など、「トップエリートを対象としたプレゼン・スピーチなどのプライベートコーチング」に携わり、これまでに1000人の話し方を変えてきた岡本純子氏。

たった2時間のコーチングで、「棒読み・棒立ち」のエグゼクティブを、会場を「総立ち」にさせるほどの堂々とした話し手に変える「劇的な話し方の改善ぶり」と実績から「伝説の家庭教師」と呼ばれ、好評を博している。

その岡本氏が、全メソッドを初公開した『世界最高の話し方 1000人以上の社長・企業幹部の話し方を変えた!「伝説の家庭教師」が教える門外不出の50のルール』は発売後、たちまち12万部を突破するベストセラーになっている。

コミュニケーション戦略研究家でもある岡本氏が「日本人がやりがちな『させていただきます』の多用と『言葉の過剰包装』の問題」について解説する。

今の日本は「敬意のインフレ」があふれている

4月、新年度が始まりました。入学や入社など人生の門出の時期ですが、4月がスタートというのは世界でも珍しく、海外では、ほとんどが1月もしくは9月が新学年の始まりです。なんでも、明治19年(1886年)に国の会計年度が「4月〜3月」になったのに合わせて、4月入学になったのだとか。


まさに、この19世紀後半に期を同じくして、今、日本を“席巻”している「ある言葉」が誕生しました。それは「させていただく」。

先日、ネット上で話題になっていた、世の中『させていただく』だらけ 敬意のインフレをどう捉えるべきなのかという記事で、法政大学の椎名美智教授が、興味深い解説をされていました。

椎名教授によると、「『させていただく』は本来、許可や恩恵をもらう『他者=あなた』を前提とした言葉で、『あなたの許可を得て、ありがたいことに〜をいただく』ということ」だそうです。しかしそれが、「そうした文脈と離れて、最近は、相手や他者がいなくても使われるようになってきている」と指摘。

結果として、最近は「敬意のインフレーション」や「敬意のマスターベーション」が起こっていると分析しています。

「それだけ現代人は、自分が丁寧であることを示したいと思っているし、対人配慮に心を砕いている」とのことですが、これは、日ごろ「社長や役員の家庭教師」として、コミュニケーションのコーチングをしている私も日々実感しています。

『話し方で大損している』と感じる人の三大口癖」の記事の中でも紹介したように、今、日本は「〜と思います」「〜させていただきます」の「ハイパーインフレ」状態といえます。

日本人は「体」にも「過剰包装」が染み付いている

例えばプレゼンを始める前には、多くの人が次のような話し方をします。

・「本日は、〇〇についてお話しさせていただきたいと思っておりますので、何とぞよろしくお願いいたします
・「早速、始めさせていただきたいと思っております
・「内容でございますが、〇〇についてご説明させていただいた後に、××についてお話を差し上げさせていただきたいと思います

「お話します」「始めます」「説明します」だけで何ら問題ないのに、なぜか「余剰な言葉」がたくさんまとわりついてくるのです。

私の知人が「言葉の過剰包装」と形容していましたが、とりあえず下手に出ておけば、事を荒立てずに済むという「問題回避志向」や他者に合わせておこうという「同調圧力のあらわれ」という側面もあるように感じます。

こうした「言葉の過剰包装」は、よそよそしさを生み、コミュニケーションの相手との間に距離を作ってしまうと同時に、歯切れが悪く、まどろっこしくなります

ですので、リーダーシップや強さを示したい場面では、なるべく使わないようにとアドバイスしているのですが、油汚れのようにしつこくまとわりついてなかなか取れません。

日本人の「過剰包装」は、実は「ラッピング」や「言葉」だけではなく「体」にも染み付いているといえるのです。

私がコミュニケーション修業のために渡米したとき、数多くの「鉄人」に師事したのですが、その中のひとりに「ボディランゲージの専門家」がいました。

「ポーカーのチャンピオン」だったという彼は、人の「表情」や「動き」を読み、ゲームを有利に進めるという特技を生かして、「ジェスチャー」や「魅せ方」を教える学校を開いていたのです。

その教えの中で、最も印象的だったのは、「リーダーシップや強さは『その人の占める空間の大きさ』で決まる」という考え方でした。「背はピンと伸ばし、身振り手振りで、なるべく大きなスペースを取りなさい」というわけです。

トランプ前大統領などを思い起こしていただければ、わかりやすいでしょう。

彼は身長190センチの巨漢ですが、アコーディオンを弾くように手を左右に大きく開くしぐさを多用していました。威風堂々とふるまうことが強さを印象付けるのだ、という認識なのです。

へりくだりすぎる「日本人のボディランゲージ」

そんな姿を見慣れた私にとって、驚きだったのが、「自分を過剰なまでに小さく見せ」「へりくだる」日本人のボディランゲージでした。

例えば、帰国の飛行機の中で見かけた、ひざまずき、客と目線を合わせて話をするCA。さらに、日本到着後、リムジンバスに乗ろうとすると、係員が身をすぼめ、深々と頭を下げるではありませんか。成田から都心まで1000円ぽっきりの格安バスです。そこまで丁寧にしてもらうのは申し訳ない気がしました。

「ファーストクラス級」の「おもてなし」に慣れきっている日本人からすると、違和感はないかもしれませんが、世界から見ると極めて異例です。はたして、CAやバスの係員は、つねに客に「奉仕」する立ち場の人間なのだろうか、とふと考えてしまいました。

そもそも、彼らの第一義的な責務は「安全運行を提供すること」であり、客との間に上下関係などはないはずです。

一連の所作が、客が上で、人々は仕える身という「主従関係」を固定させることにならないだろうか。そんな疑問がわいてきたわけです。

コンビニや店先で、極度に悪質なクレームを入れる「モンスターカスタマー」が話題になりますが、「お客様は神様」という神話がまかり通り、横柄な態度をとる客は少なくありません。

そうしたクレーム対策もあり、日本のカスタマーサービスは「とにかく下手に出ておくべき」「謝っておくべき」「へりくだっておけば安全」と、どんどんと過剰になっているきらいがあるように感じます。

まるで「名刺は相手より下に出せ」という謎マナーで、どちらが下に出すかを競争しているような「萎縮」モードに社会全体が包まれ、言葉はまどろっこしく、所作は仰々しくなっていくというわけです。

居心地のいい「殻の中」にとどまる限り、成長は望めない

そうした心と体の「過剰包装」の中で、日本人は「殻」に閉じ込められ、自分の本音や本心を出せなくなってきているように思えてなりません。

英語で、「think outside the box(箱から飛び出して考えよう)」や「get out of comfort zone(コンフォートゾーンから抜け出よう)」と言われますが、自分の心地いい「殻の中」にとどまり続ける限り、成長は望めないということです。

椎名教授は「『させていただく』シェルター」と形容していますが、誰もが「ヤドカリ」のように自分の殻に閉じこもれば、人とのつながり作りも難しくなります。「過剰な包装紙」を破り、胸襟を開き、ぶつかり合うことで、絆もイノベーションも生まれやすくなるはずです。

では、どうすればいいのか。この「シェルター」から脱出することは容易ではありませんが、ちょっと「コミュニケーションのカタチ」を変えるだけで、飛び出す自信や勇気が湧いてくるものです。

まずは、次の「3つの変化」から始めてみてください。

【変化1】口癖を直す

1つめは、口癖となっている「思います」「させていただきます」は本当に、必要かどうかを考え、なるべく減らしてみるということ。

【変化2】ボディランゲージを大きくする

2つめは、「自分を小さく見せるボディランゲージ」ばかりになっていないか、観察してみることです。例えば、日本人がお得意のしぐさのひとつに「股間の上で手を重ね合わせる」というポーズがあります。

これは、じつは海外では「イチジクの葉のポーズ」と言われ、要注意の姿勢です。アダムとイブが大切な部分を葉で隠していたことに由来しており、大切な部分を隠し、防御している、つまり、人に心を開いていない、と取られるわけです。肩がすぼまり、前かがみになりやすく、あまり自信がない状態にも見えてしまうのです。

ですので、自信をもっとアピールしたいのであれば、手はおへそのあたりで組むか、両脇に垂らした状態か、もしくはジェスチャーを入れ、肩はなるべく広げるのが、グローバルのスタンダードです。

【変化3】「パワーポーズ」を試してみる

3つめは、大事なプレゼンの前などに、体を大きく見せる「パワーポーズ」を試してみる、ということです。

ハーバード大学のエイミー・カディ教授が唱えた学説ですが、スーパーマンのように手を大きく上げるなどのポーズなどを取ることで、ストレスホルモンが下がり、精神を安定させるホルモンが分泌されるというものです。

この学説には異論もありますが、縮こまりがちな日本人であれば、誰もいない場所で、体を大きく広げ、自分の可動域を拡張してみるのも悪くないでしょう。

小さな一歩で「自分の殻」は破ることができる

カディ教授曰(いわ)く、「Fake it, till you make it(本物のまねをしているうちに、本物になれる)」。つまり、「パワフルに振る舞うだけで、本当にパワフルになれる」ということ。

自信があるフリをすれば、自信は後からついてくる」というわけです。逆に言えば、「肩を落とす」「うつむく」といった自信のないしぐさばかり続けている限り、なかなか自信も湧いてこない、ともいえます。

ちょっと手を広げ、背を伸ばし、肩を張ってみる」。まずは、そんな小さな一歩からコミュニケーションのカタチを変えれば、「自分の殻」を破ることができるのです

ぜひ「世界標準の話し方&コミュニケーションのスキル」を身に付け、堂々とした話し方と自信を手に入れてくださいね。