東海道新幹線の営業列車は、すべて自分から傾いています。その目的は、よい乗り心地を保ち、より速く走るため。矛盾のように思えますが、理にかなったものです。ただ実感するのは難しいかもしれません。

自分から傾く新幹線

 東海道新幹線の営業列車はすべて、自分から傾いています。

 意図的にそうしているもので、目的はよい乗り心地を保つため、そしてより速く走るため、です。

 傾いているのに、乗り心地がよく、速い。矛盾のように思えますが、理にかなったものです。


2020年7月にデビューした東海道新幹線のN700S(恵 知仁撮影)。

 より速くカーブを通過しようとすると、乗客にかかる遠心力も大きくなり、乗り心地が悪くなります。

 しかしそのとき、列車がカーブの内側へ車体を傾け、カーブの外側へ乗客を押す遠心力と相殺する具合にすれば、乗り心地を維持したまま、カーブの通過速度を向上させることが可能です。

 東海道新幹線を走るすべての営業列車は、車体をそのように傾けてカーブを通過しています。

 現在、東海道新幹線で使われているN700SとN700系(N700A)は「車体傾斜装置」を搭載。カーブで車体を最大1度傾けることが可能です。

 2020年3月に東海道新幹線から引退した、その装置を搭載していない700系は、半径2500mのカーブで255km/hの速度制限がありました。

 対し搭載するN700SとN700系(N700A)では、275km/hに制限速度がアップ。所要時間の短縮が実現されています。また、カーブの制限速度が高くなるということは、カーブでの加減速が少なくなるわけで、その意味でも乗り心地が向上しているといえるでしょう。省エネにもなります。

実感は難しい「神業」か?

 しかしこの「1度」という傾き、乗って実感するのは難しいかもしれません。カーブではそもそも車体が内側へ傾くよう線路自体が造られているところ、加えて車体を傾ける形になるためです。

 300km/h近い速度で走行しながら、カーブへ進入するとき、16両編成の先頭から順番に車体を傾けていき、また順番に車体を元に戻していくという神業のような動きが、ひそかに行われています。


台車と車体のあいだにある空気バネを膨らませることで車体傾斜を実現(恵 知仁撮影)。

 ちなみに、JR東海が2016年に鳥飼車両基地(大阪府摂津市)で行った親子向けツアーで、平坦な場所へ停車したN700系で車体傾斜を体験するイベントを実施し、その取材をしたことがあるのですが、「1度の傾き」、そこでは明らかに分かりました。

 また山陽新幹線では、カーブが原則として半径4000m以上とゆるいため、車体傾斜装置を使わずとも、乗り心地を保ったまま、そのカーブを300km/hで通過可能。そのため山陽・九州新幹線「みずほ」「さくら」などに使われる薄水色のN700系には、車体傾斜装置は搭載されていません。

 なお車体傾斜装置は、東北・北海道新幹線「はやぶさ」などに使われるE5系とH5系、秋田新幹線「こまち」のE6系も搭載しており、車体を最大で1.5度傾け、半径4000mのカーブを320km/hで、乗り心地を保ったまま通過できます。