多くの人は問題にしていないようだが、サッカーを語ろうとした時、こちらには簡単にはスルーできない事象がある。報道の大半は選手ありきだ。誰がよかったとか、悪かったとか、選手の善し悪し話が中心になる。

 今回A代表が戦った韓国戦、U-24五輪チームが戦ったアルゼンチンU-24戦しかり。かく言う筆者も、選手寄りの原稿を書いているが、重要なのはバランスだ。監督采配がまるで話の俎上に上がってこない報道の姿を憂いたくなる。

 選手を選んでいるのは監督だ。代表監督の場合はとりわけである。クラブの監督よりセレクターの色が濃いところに特徴がある。限られた駒で戦わなければならないクラブ監督に対し、代表監督は広い範囲から選手をピックアップすることができる。

 自分の色や好みを反映しやすい職種だ。しかし、そこは意見が割れるポイントでもある。賛成、反対を主張していいポイントだ。そして高年俸だ。日本代表監督となれば、年俸は最大で推定2億円といったところか。森保監督の場合は、五輪チームの監督も兼ねるので、プラスアルファも発生する。4年間、この座を無事に務めれば、それこそ宝くじに当たったような、夢のようなビッグマネーを手にすることができる。

 そのうちの何割かは、選手の登録料でまかなわれている。全国にうん十万人いるその納入者のためにも、メディアはチェック機能を果たす必要がある。少々厳しめになるのは、世界の常識だ。

 しかも今回の2試合には、確かな突っ込みどころが存在した。従来と採用する布陣に、大きな変化があったからだ。A代表も五輪チーム(U-24)も、前回の3-4-2-1ではなく4-2-3-1を使用した。

 それぞれを交互に使ってきたA代表に対し、五輪チームはもっぱら3-4-2-1を使用した。使用しなかった試合は、2019年11月に広島で対戦したコロンビアU-22戦の後半途中からに限られる。少なくとも、過去10数試合、試合開始当初から、これ以外の布陣で臨んだことは一度もなかったのだ。

 ところが、アルゼンチンU-24戦を前に、横内昭展代行監督は「選手の特徴が活きる布陣で戦いたい」と述べた。そしてその答えは4-2-3-1だった。では、これまで3-4-2-1を採用してきた理由はなんだったのかと尋ねたくなる。

 選手の特徴が活きる布陣の「選手」とは、三笘薫個人ではないか。もう一人挙げるならば、旗手怜央だ。彼ら2人を使うためには、彼らが活躍している川崎フロンターレと同じ布陣にした方が無難だと考えたのだろう。選手の特徴が活きる布陣は、そうした意味を持つ言葉だと、勝手に推察する。

 しかし、三笘も旗手もずっと候補選手だった。最後に国内で戦ったジャマイカとの親善試合(2019年12月)にも、2人は招集されていたが、布陣は3-4-2-1だった。そのうえ2人は交代出場だった。そこでは、選手の特徴が活きる布陣を採用してもらえなかった。その間に2人は急成長。というより、川崎の鬼木達監督から、活かされる場所を提供されたのである。

 今回の4-2-3-1への変更と、三笘、旗手の先発起用は、鬼木サッカーにあやかったもの。真似たものと言われても仕方がない。

 それまで発露させてきた自分の色や好みはどこへ行ったのか。森保、横内両氏は、自分の色や好みをあえて押し殺している状態にあるのか。その可能性は100%に近いと考えていい。だとすれば、それは苦悩を意味することになる。4-2-3-1は、両氏にとってよそ行きのサッカーになる。だが、それを言い出すことはできない。

 今後とも不本意な4-2-3-1で行くのか。それとも3-4-2-1と併用するのか。予想は付かないが、4-2-3-1から3-4-2-1へ、あるいは3-4-2-1から4-2-3-1への移行は、スムーズに行きにくい部類に入る。親戚関係にない布陣だからだ。