今の若者が支持する「意外なテレビ番組」の正体
今の若者が支持する「意外なテレビ番組」の正体とは?(写真:xiangtao/PIXTA)
テレビ各局が、主に春・秋の年2回行う改編期という名の、いわば番組見直し時期。中でも春(3、4月期)は例年、比較的大きな改編が行われています。
この3月には、実に31年続いた『噂の!東京マガジン』(TBS系/正確にはBS-TBSへの枠移動)、25年の『メレンゲの気持ち』(日本テレビ系)、22年の小倉智昭司会『とくダネ!』(フジテレビ系)、12年の『火曜サプライズ』(日本テレビ系)、10年の『爆報!THEフライデー』(TBS系)など、長く続いた番組が地上波から相次いで姿を消すことが発表され、話題となっています。
その背景には、ネットなどの他メディア台頭による広告収入の減少に、コロナ禍が追い打ちをかけたことによる制作費の削減が大きく影響しているのは間違いないところ。番組を刷新することで、高額ギャラの出演者、並びにスタッフを切ることができるという図式です。
長寿番組終了の原因は「TV局側の忖度」?
また、もう1つ大きな理由として指摘されているのが、昨2020年4月から全国的に導入されている「個人視聴率」調査の影響です。
従来、視聴率として発表されてきたのは「世帯視聴率」。これは文字通り、世帯を対象としたもの。例えば、ある番組を10世帯のうち、2世帯が終始視聴していれば、20%として換算・発表されるという仕組みでした。
対して個人視聴率が対象としているのは、視聴していた個人。例えば10世帯の総個人数が30人で、視聴していた2世帯の個人数が3人ならば、個人視聴率は10%になるという具合。
さらに個人視聴率調査では、これまで以上に視聴していた人の性別や年齢層なども細かく記録されるようになり、テレビ局側からすれば、より詳細な顧客情報が入手可能に。民放局にとっては、広告を出稿していただくスポンサーに対する営業情報が具体的に呈示できるようになったのです。
先ほどご紹介した、この3月で終了する長寿番組群は、世帯視聴率でいえばさほど悪い数字ではありません。しかし、内容・出演者ともに「若者には刺さりにくい番組」なのも否めないところ。
かつて広告代理店に勤務していた立場から本音を探ると……ある一定の年齢以上の人間は長年親しんできたビールの銘柄や、化粧品メーカー、自動車の車種、携帯電話のキャリアなどを簡単にはかえないもの。
スポンサーはそうした点で柔軟に対応する、若者層に刺したいから若者層も支持する番組に広告を出したい……個人視聴率導入で顕著になった情報を基に、テレビ局側がその点を“忖度”した結果とも推測できるわけです。
テレビ界全体を見ても、テレビ行為者率(日常的にテレビを利用している人の割合を調査したもの)は近年、特に20、30代での落ち込みが激しく、いわゆるテレビ離れが加速しているのは数字のうえでも裏付けられています。
「テレビ=シニア層の見るモノ」となりかねない現状からの脱却、近未来を見据えた策を徐々に講じていく必要性を、テレビ局は感じているのです。
「今の大学生が見ているテレビ」トップ20
こうした現状に対して「では、若者は本当にテレビを見ないのか?」「若者が好むテレビ番組とは、どんなものなのか?」という疑問が浮かんだ筆者は、教鞭を執らせていただいている大学の受講生(3、4年生以上)たちを対象に、昨2020年秋、アンケートを実施した次第。
設問は単純明快に「現在、あなたが定期的に視聴しているテレビ番組を思いつく限り、ランダムに挙げて下さい。※但しドラマを除く」というもの(ドラマを除外したのは、原則3ヵ月単位で番組がかわるため)。20番組以上も挙げた者もいれば、1番組だけという者もいましたが、「テレビを全く見ない」という学生はいませんでした。
対象が60人弱、日大藝術学部の学生であり、コロナ禍で自宅滞在時間が例年より長いという特殊性こそありますが、現在の若者(20〜23歳)の嗜好・傾向程度は測れるのでは。ちなみに概算男女比は、男性35%:女性65%でした。
では、その集計結果(トップ20/27番組)を発表してまいりましょう。
同率で19位が9番組ありました。率で言うと、全体の8.3%の学生が挙げた番組になります。
19位『ZIP!』(日本テレビ系)
19位『ネタパレ』(フジテレビ系)
19位『関ジャム」(テレビ朝日系)
19位『バイキング』(フジテレビ系)
19位『櫻井有吉THE夜会』(TBS系)
19位『くりぃむナンチャラ」(テレビ朝日系)
19位『セブンルール』(フジテレビ系)
19位『日向坂で会いましょう』(テレビ東京系)
19位『グレーテルのかまど』(NHK Eテレ)
『関ジャム』や『櫻井有吉THE夜会』『日向坂で会いましょう』など、アイドルが出演する番組が強いというのが見て取れますが、驚いたのがNHK・Eテレの『グレーテルのかまど』がランクインしたこと。視聴率的には群を抜いて低いはずですが、MCが人気俳優の瀬戸康史で、スイーツにまつわる番組であるという点が支持を集めているようですね。
続いて、13位も同率(10.4%)で、6番組。
13位『ミュージックステーション』(テレビ朝日系)
13位『全力!脱力タイムズ』(フジテレビ系)
13位『news ZERO』(日本テレビ系)
13位『乃木坂工事中』(テレビ東京系)
13位『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日系)
13位『バナナサンド』(TBS系)
ここでもアイドル番組の『乃木坂工事中』や、櫻井翔も出演する『news ZERO』がランクイン。実は、筆者が事前に上位に来るであろうと本命視していたのは『全力!脱力タイムズ』。演出のユニークさや、毎回旬なゲスト(俳優やアーティスト)が出演していることなどから、若者層の支持が高いと予想していましたが、惜しくもトップ10入りならず。また『バナナサンド』は、レギュラー放送化されたのが昨年7月ながら、すぐにランクインしたのも驚きでした。
続いて11位も同率(12.5%)で2番組。
11位『嵐にしやがれ』(日本テレビ系)
11位『スッキリ』(日本テレビ系)
『嵐にしやがれ』は、昨年末に嵐の活動休止に伴って番組終了となりましたが、貫禄のランクイン。『スッキリ』は、19位の『ZIP!』同様、午前中の番組ですので、ある種、通学前の視聴習慣がついているとも予想した次第。
トップ10の発表!
では、いよいよトップ10の発表。9位も同率(14.6%)で2番組です。
9位『ロンドンハーツ』(テレビ朝日系)
9位『あちこちオードリー』(テレビ東京系)
安定した人気を誇る『ロンドンハーツ』は予想通りのトップ10入りでしたが、『あちこちオードリー』のランクインには驚愕。関東地区では火曜25時35分スタートという、ド深夜番組ですから(祝!3月31日より23時6分スタートに昇格)。ゲストで出演していた蛍原徹(雨上がり決死隊)が「この番組を見ていない芸人は芸人じゃない」と言い放ったほど、いわゆる“業界視聴率”が高いと言われている番組ですが、こうした傾向が若者の支持を集めるという推測も成り立ちますね。
7位も同率(16.7%)で2番組。
7位『月曜から夜ふかし』(日本テレビ系)
7位『世界の果てまでイッテQ』(日本テレビ系)
この2番組も予想通りのトップ10入り。両番組とも、一昨年の調査でも上位にランクしていました。
本稿もいよいよ佳境に入ってきました。トップ5の発表。5位もまた同率(18.8%)で2番組です。
5位『VS嵐』(フジテレビ系)
5位『しゃべくり007』(日本テレビ系)
『VS嵐』も『嵐にしやがれ』同様、嵐の活動休止により、昨年末に終了(嵐の相葉雅紀MCの『VS魂』としてリニューアル)しましたが、堂々ランクイン。数年前のSMAP解散時と同じような視聴者心理が働いたようですね。
そのSMAPの『SMAP×SMAP』(フジテレビ系)の裏番組として、かつては後塵を拝していた時期もあった『しゃべくり007』は、今では安定して若者の支持を集めていることがわかります。
続いて、20.8%の支持を集めた4位は……。
4位『有吉の壁』(日本テレビ系)
レギュラー放送化が昨年4月ですが、いきなりの高支持。かつての『お笑いウルトラクイズ』(日本テレビ系)の流れを汲む“若手芸人ムチャぶりお笑い番組”ですが、やはりこうした路線は鉄板という証しかもしれません。若者層に弱い19時台の番組ながらの4位ですから。
2位は同率(22.9%)で2番組。
2位『アメトーーク』(テレビ朝日系)
2位『テレビ千鳥』(テレビ朝日系)
安定人気の『アメトーーク』は予想通りの上位ランクインですが、『テレビ千鳥』は予想外。平日の深夜から徐々に放送時間帯を上げ、昨年10月に日曜22時台のプライムタイムに枠移動したという“苦労人番組”ですが2位は驚き。千鳥の人気ぶりがうかがえます。
今の若者が「最も支持する番組」は?
お待たせいたしました。第1位の発表です。支持率は27.1%!!その番組は……
1位『水曜日のダウンタウン』(TBS系)
今年4月で放送開始から丸7年となる人気番組が堂々の1位でした。さまざまなバネラーが持ち寄る“説”を取材し、VTRにて検証、それについてトークするというシンプルな構成ですが、安定した人気を誇っているんですねぇ。数多あるダウンタウンがMCを務める番組中で唯一ランクインし、しかも全体の4分の1以上が支持する1位というのも興味深かったです。
さて、ここまでのトップ20(27番組)のラインナップを見て、ある点にお気づきになった方もいらっしゃるでしょう。
そうです。毎週発表されている「世帯視聴率」トップ20の常連番組である『ポツンと一軒家』(テレビ朝日系)、『サンデーモーニング』(TBS系)、『真相報道バンキシャ!』(日本テレビ系)、『踊る!さんま御殿!!』(日本テレビ系)、『秘密のケンミンSHOW極』(日本テレビ系)、『人生の楽園』(テレビ朝日系)、『プレバト!!』(TBS系)、『鶴瓶の家族に乾杯』(NHK総合)といった番組がランクインしていないこと。
当然の如く、アンケート集計時にこの点を注視していたのですが、実は上記の番組を挙げた学生はいずれもゼロ! その人気がシニア層に支えられている傾向が少なくとも、このアンケート上では明らかになったのです。
シニア層の見るモノになりかねない現状のテレビ界。もちろん、テレビは若者層だけが見ればいいというモノではないものの、一応、番組制作側の人間であり、シニア層である筆者にとって、いろいろと考えさせられる集計結果でした。