NAロードスターの海外でのモデル名は「MX-5 Miata」。青空のもと、マツダR&Dセンター横浜で並んだ2台の「MX」は、実に相性がよい(筆者撮影)

マツダの初代「ロードスター(NA)」と、マツダ初の量産型EV「MX-30 EVモデル」。この2台を、マツダR&Dセンター横浜(横浜市神奈川区)の駐車場で並べてみた。

なぜそうしたかというと、マツダ広報車のNAにじっくり乗り、その足でMX-30 EVモデルの公道試乗会に参加して「2台は似ている」と直感的に思ったからだ。この考え、けっして筆者の勝手な妄想ではなかったことが、その翌日にわかった……。

まずは、マツダの電動化戦略から話を進める。


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基盤となるのは、2017年に公開した「サステイナブルZoom-Zoom宣言2030」だ。

その中では、電動化については国や地域の交通や住宅など社会事情、電力供給システム、さらに人とクルマとの関係を踏まえて適材適所でパワートレインを設定し、2030年にはマツダが生産するすべてのクルマに電動化技術を搭載するとしている。

つまり、マツダ独自の燃料理論を用いてすでに世界市場で高い評価を得ているSKYACTIVエンジンを進化させ、新規設定の電動化ユニットを用いるというわけだ。

ラージクラスはFR(後輪駆動車)へ

具体的には、SKYACTIV-Xやマイルドハイブリッド車に搭載されるeSKYACTIV-Gを、マツダがスモール商品群と呼ぶC/Dセグメントに随時導入していく。

さらに車格が上の「マツダ6」「CX-5」「CX-8」などラージ商品群については、これまで筆者がマツダに対して直接、行った各種取材を基に考えると、エンジン横置きのFF(前輪駆動車)は現行モデルで終了し、2022年をめどに登場すると予想されるマツダ6から、エンジンを縦置きFR(後輪駆動車)へと転換すると予想される。


FF(前輪駆動)を採用する現行型「マツダ6」(写真:マツダ

その中で、マツダからはすでに正式に画像が公開されている縦置き4気筒エンジンを搭載したプラグインハイブリッド車の存在が、明らかにされている。

こうした各種ハイブリッド技術はマツダ独自の開発となり、以前に「アクセラ(マツダ3の前身)」でトヨタから供給を受けたトヨタハイブリッドシステム(THS)のような考え方は、今のところ計画にないようだ。

ただし、マツダの丸本明社長が今期第3四半期決算のタイミングで、今後の事業戦略として電動化のスピードアップとモデル拡大を示唆しており、アメリカでの共同製造事業などを進めるトヨタからハイブリッド車やプラグインハイブリッド車のOEM供給を受けることも、広義においてマツダのマルチソルーション戦略として十分ありえると、筆者は考えている。

では、マツダのEV(電気自動車)はどうなっていくのだろうか。

2019年の東京モーターショーで登場した「MX-30」は、EVとして世界公開された。

担当主査の竹内都美子氏は、「わたしらしく生きる」という商品コンセプトを強調。マツダとして初の量産型EVとなるMX-30は、以前に「RX-8」でも採用した観音開き型ドアを持ち、インテリアの一部にはマツダのヘリテージであるコルク事業をモチーフとしたコルク材を使用するなど、次世代マツダを象徴するモデルである印象を国内外に広めた。


コルク材を採用するなど、独創的なデザインの「MX-30」のインテリア(筆者撮影)

先に示した国や地域でのマルチソリューションの観点から、ヨーロッパCO2規制を考慮してヨーロッパ市場向けに2020年夏からEVモデルとして発売開始した。

パナソニック製の電池セルを使った電池パックの電気容量は35.5kWhで、満充電での航続距離は国際基準であるWLTCモードで256km。各国の電動車に対する購入補助金や税額控除などのインセンティブもあり、SKYACTIV-Xの普及率が高いヨーロッパではMX-30 EVも好調な滑り出しを切っている。

一方、日本市場向けには2020年10月に、マイルドハイブリッドのeSKYACTIV-G搭載モデルが発売された。

EVでも「人馬一体」は感じられる

羽田空港を対岸に臨むホテルを起点とした、MX-30の報道陣向け試乗会に参加した感想として、筆者は「得体のしれないクルマ」という表現をした。

「わたしらしく生きる」という商品コンセプトのもと、マツダとして新しい挑戦をしようという気持ちと熱意はわかるのだが、これが本来のMX-30の姿なのかどうかが、なんとなくつかみきれなかったからだ。


観音開きが特長的な「MX-30」のデザイン。横浜市内にて(筆者撮影)

それから約4カ月が経ち、次世代マツダについて考えるため、マツダのモノづくりの真骨頂である“人馬一体”を具現化した初代ロードスター(NA)にじっくり乗り、そしてMX-30 EVモデルを試乗した。すると、MX-30 EVモデルでも、はっきりと人馬一体を感じ取ることができた。

そのうえで、試乗した翌日の夜、竹内主査をはじめ、MX-30 EVモデルの開発に関わったマツダの開発陣とオンラインで意見交換をした。その際、改めてわかったことがあった。

まず、MX-30は各種パワートレインを並行して開発してきたが、あくまでも基本はEVであること。そして、一般的に多様なパワートレインを搭載するモデルでは、「EV=派生車」という位置付けだが、MX-30はここが大きく違う点だ。

運動性能に大きく寄与している「エレクトリック・Gベクタリング・コントロール・プラス」の開発責任者によると、近年のマツダ車に搭載されているGベクタリング・コントロールは、そもそもEV向けとして開発したという。

実験車両としては、2010年代にアメリカ・カリフォルニア州のZEV法(ゼロエミッション・ヴィークル規制法)への対応を中心として、日本では官公庁向けにリース販売した「デミオEV」を使ってきた。


「デミオEV」は、日本では2012年から地方自治体や法人に向けてリース販売された(写真:マツダ

そのため、MX-30 EVについてはこれらの知見が最大限活かされている。

こうした運動制御の専門家の目からは、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの内燃機関はエンジン回転数域によって各種制御が変わることや、エンジンの振動やエンジン自体の揺れなどがあり、相対的に「EVのほうが運動制御はやりやすい」と指摘する。

結果的に、上下左右の加速度Gの変化に対してシームレスな動きが実現できており、これがドライバーに対する自然な操作感覚につながっているのだ。

MX-30 EVとNAロードスターが似ている理由

また、マツダはEVで、車両が停止状態から走り出す際に“いかにスムーズに動くか”を追求した。

この領域では、各種のギアが強いトルクで組み合うときに音や振動が出やすく、一般的なEVでは、あえて強いトルクで発進加速の強さを主張することにより、この領域での課題に対処する場合が多いとマツダは見ている。その指摘のとおり、MX-30 EVモデルの発進はゆったりと滑らかだ。


モーターなど電動ユニットの隣に大きなスペースがあり、ここに2022年発売予定のレンジエクステンダー用ロータリーエンジンが搭載される(筆者撮影)

回生ブレーキについても人の感覚を重視するため、あえてフットブレーキでの回生力を主体として、ブレーキの踏み応えと減速Gとのリニア感を高めたという。このような、EVならではのさまざまな制御によって電動化による人馬一体が実現し、MX-30 EVモデルは、ドライバーにとって「しっくりくる電動車」となっているのだ。

さて、オンライン意見交換の最後、竹内氏に「MX-30 EVモデルとNAは、どこか似ている気がする」と聞くと、ハッとした表情で次のような裏話をしてくれた。

「実は、私自身がNAオーナーで、MX-30のデザイナーもNAオーナーだ。MX-30開発を始めた5年ほど前、ふたりでNAのオープンカー感覚をクローズドボディのクルマで実現できないかという話をしていた。MX-30にNAのDNAがあってもおかしくはない」