観光需要の本格回復はいつになるのか(撮影:今井康一)

わずか2週間の延長でも、観光業界には死活問題だ。ホテル関係者は「3月の観光需要が高まるのは後半の春休み時期だが、21日以降では取り戻せない」と語る――。

菅義偉首相は3月5日、首都圏1都3県が対象の緊急事態宣言を3月21日まで、2週間延長すると明らかにした。コロナ感染者数は減少傾向だが、足元で減少速度は鈍化。小池百合子東京都知事ら4都県知事の要請もあり延長の判断に至ったようだ。

春休みは学生の卒業旅行などが見込め、ゴールデンウイークやお盆、年末年始と並ぶ観光シーズンだ。2月以降、リゾートホテルなどでは「3月後半に予約が一定数入るようになった」といった例や、「Go To トラベルの有無にかかわらず予約を入れるリピーターが増えた」といった声が聞かれていた。

首都圏以外のホテルも厳しいわけ

「自粛生活の疲れでマグマがたまっている。2月は辛抱だったが、週末は結構(予約が)埋まっていた。3月は戻ってくるのではないか」(ホテル関係者)と春休みに期待を寄せる関係者は多かった。だが、年末年始に続き、観光業界がハイシーズンの需要を取り込むことは極めて難しくなった。

首都圏以外の地域は宣言が解除されているため持ち直しの動きも期待されるが、そうもいかない。やはり首都圏、とくに東京の動向が重要だ。2020年のGo Toでも、利用者が爆発的に増加したのは東京が追加された10月からだった。

「当初はGo Toに批判もあったが、東京が加わったことで旅行に行ってもいいんだとムードが一変した」と多くの関係者が語っていた。今回も東京をはじめとする感染者数の増減や、宣言解除の動向が旅行ムードを左右する可能性は高いだろう。

足元の観光業界はあまりに厳しい。観光庁によると、2021年1月の延べ宿泊者数の速報値は1681万人泊(人泊数=宿泊人数×宿泊数で計算。2人で1泊すれば2人泊)だった。2020年1月の4316万人泊から実に61%減となり、Go To トラベルキャンペーン始動前の6月(1424万人泊)に近い水準に戻ってしまった。

要因は言うまでもない。インバウンドの消失に加え、日本人の国内旅行も低調だからだ。12月にGo Toトラベルは停止、年明けに緊急事態宣言も発令され、書き入れ時である年末年始の予約の多くがキャンセルとなった。実際、各社からは「年末以降、低水準の状態が続いている」との声が聞かれていた。

2020年は過去最悪の観光不況

中でも厳しいのは都市部だ。宿泊施設のタイプ別客室稼働率(速報値)を見ると、シティホテルの苦戦が目立つ。2021年1月の稼働率は20.7%と、前年同月比40ポイント超の激減となった。都市部では多くのイベントが中止や延期となり、感染者数も多かったため、出張や観光で避けられている。

そのほかも旅館が12.7%、リゾートホテルが15.0%、ビジネスホテルも33.7%と、それぞれGo To以前に近い稼働率に戻ってしまった。到底、利益を生み出せるような水準ではない。2月も状況は変わらず、1月と同様の推移になったとみられる。

1月の数値と同時に発表された2020年の年間値も散々なものだ。延べ宿泊者数は前年比48.9%減の3億480万人泊。外国人宿泊者数は同84.4%減の1803万人泊で、2007年の調査開始以来最低となった。客室稼働率は全体で34.6%となり、施設タイプ別の数値もそれぞれ最低(2010年に調査対象を10人未満の施設に拡大して以来)だった。

都道府県別では、3都府県で宿泊者数の下落率が前年比60%を超えた。最も減少したのは同63.9%減となった大阪府。東京も同62.3%減となり、インバウンド需要をつかんでいた地域ほど苦戦する結果になっている。

沖縄県も同61.1%減と苦しい。インバウンドと本州からの観光客が激減した影響だ。「2020年8月の県独自の緊急事態宣言が痛かった。12月にはGo Toが停止になり、もうだめだと思った」(沖縄のホテル会社社員)。

見えないGo Toの再開時期

次の焦点となるのは、延長した3月21日で宣言が解除されるかという点に加えて、Go Toの再開時期だろう。

赤羽一嘉国土交通大臣は「さまざまな検討をしているが、今後については感染状況や医療の逼迫状況がどうなるかということに尽きる。そうした意味で、まだどうなるかわからない」などと述べており、明確な見通しは立っていない。

昨秋は軽井沢や箱根など、都市部から車で行ける観光地で、かつ部屋食・部屋風呂付きのプランやヴィラタイプの施設、グランピング施設などに「Go To需要」が集中した。割引上限額の引き下げや旅行地域を限定するアイデアなどが日々取り沙汰されているが、密を避けられるホテルやプランの人気は当面続きそうだ。

1年超にわたるコロナ禍で練りに練った感染防止策、そして自粛中に編み出したデイユースやワーケーション、長期滞在などの多彩なプランやイベントを武器に、再び観光需要を盛り上げることができるか。かつてないオフシーズンの厳冬を越えた観光業界は、春を待つことしかできない。