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ちゃんと「バンテリンドーム」って歌おう!

いよいよ今日、中日ドラゴンズの本拠地バンテリンドームナゴヤがオープン戦デビューを飾るというタイミングで、何とも残念な報せが飛び込んできました。中日伝統の応援歌「燃えよドラゴンズ!」の歌詞において、従来「ナゴヤドームにつめかけた」と歌われてきた部分が、新たな本拠地の名前を盛り込まず「戦う中日 夢強く」というまったく違う歌詞に変更されることになったのです。

↓えええええええええええええええええ!素直にバンテリンドームでいいのに!


こちらは「燃えよドラゴンズ!」を作詞作曲された山本正之さんが手がけた変更だとのことで、その意味では「正統な」新バージョンと言えるもの。中日ファンもそうでない方も、これからはこの「戦う中日 夢強く」で歌い上げていってもらいたいと思います。作者が決めたのですから、変更について賛成も反対もありません。是非もなしの決定です。

↓山本さん立ち会いのもと水木一郎さんが新バージョンをレコーディング!

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作者の決定ですから反対はしませんが、率直に残念であるとは思います。「燃えよドラゴンズ!」は時代に先駆けて地域密着の市民球団の像を描いた、素晴らしい応援歌です。その根幹を成す部分が今回の変更によって弱く脆いものになってしまいました。これは邪推ですが「絶対にバンテリンとは言わないでくれ」という依頼か、「絶対にバンテリンとは言いたくない」という意志か、どちらかがあったのではないかとさえ思います。それぐらい残念で予想外の変更です。

そもそも応援歌というのは、誰かを応援する歌です。歌で描かれる状況は応援される対象(球団、選手)の勇ましく力強い姿であり、ファンはその歌を通じて対象を讃えるのです。多くの応援歌・球団歌はそうした情景になっています。巨人の球団歌「闘魂こめて」では、ジャイアンツのたくましさを讃え「ゆけゆけそれゆけ」と後押しをします。ソフバンの球団歌「いざゆけ若鷹軍団」では力強くはばたく若鷹軍団を讃え「いざゆけ」と後押しします。

日ハムの「ファイターズ賛歌」などは「進めファイターズ 勝利の男」と対象は男であると明示し、女性ファンとは完全に区分けされた別物として歌われています。それはイイとか悪いとかではなく応援歌とはそういうものなのです。ファンから球団・選手に贈るエールとして、ファンが歌うことを前提に、球団・選手を褒めて讃えて盛り上げる歌とすべきなのです。

しかし、中日の「燃えよドラゴンズ!」は違います。

「Get Wild」と双璧を成すほどに数多くのバージョンが制作され、歌詞も変更を重ねてきた「燃えよドラゴンズ!」ですが、1番については基本的な構造を変えずに現代まで歌い継がれてきました。その1番の描き出す情景はファンそのものです。球団・選手を歌ったものではなく、この歌は名古屋という街を熱く燃やすドラゴンズファンを歌ったものなのです。

↓一回「燃えよドラゴンズ!」を聴いてからつづきを説明します!


遠い夜空に こだまする
竜の叫びを耳にして

ナゴヤドームにつめかけた
僕らをじぃ〜んと しびれさす

いいぞ がんばれドラゴンズ
燃えよドラゴンズ!



オープニング、そこには夜空が広がっています。遠いというからにはまだまだ距離があります。そこに何らかの音がこだましています。耳を澄ませば「ゴォォォン」という竜の声。姿は見えません。遠くの夜空にこだまする音を感じているだけです。その音を聞き、胸が高鳴ります。気持ちがはやります。いてもたってもいられなくなります。

やがて、その叫びを耳にしたものはナゴヤドームを目指します。つめかけるのですから、たくさんの人があちらこちらから我も我もと集まってきています。自然発生的です。「遠い夜空にこだまする竜の叫びを耳にしてナゴヤドームにつめかけた人々」こそが、一体の存在である「僕ら」の正体です。同じ音を聞き、同じ場所に集う同志です。それはドラゴンズファンそのものです。

彼らが見たものはおそらく球場で展開されるドラゴンズの野球でしょう。しかし、野球のことはまだ描かれません。「僕らはじぃ〜んとしびれ」ています。野球を見たという視覚による影響だけではありません。「じぃ〜んとしびれさす」の表現は、目よりもむしろ耳と全身で感じている様子です。コンサートで爆音を全身で感じるときのように、同志たちの声によって、音叉のように全身を振るわせるのです。共鳴するのです。

そして最後のフレーズで歌われるのは「僕ら」の声です。大歓声、大声援でドラゴンズを応援しています。しかも、ただ応援するだけではありません。「いいぞ」「がんばれ」は遠くのスターに向ける言葉ではなく、仲間に向けて支え合う言葉です。叫ぶのはファンであるけれど、それは一方的に捧げるものではなく共に戦う声です。この声こそが「竜の叫び」です。大歓声が街に轟き、その声が新たな同志を呼び寄せ、叫びによって共鳴した「僕ら」はドラゴンズと共に戦う竜になるのです。

夜空⇒竜⇒ナゴヤドーム⇒僕らと情景が大から小へとじょじょに絞り込まれていくなかで、街全体が凝縮され結合されていく。ファンの声がまた新たなファンを呼び寄せ街をひとつにする。一般的球団歌が「それいけ」「いざゆけ」「進め」と球団を頂点へと進ませるのに対して、この歌は「つめかけ」ています。街とファンが球団に近づいているのです。それは後年日本のスポーツ界が目指すことになる「地域密着」の姿です。名古屋があって、名古屋に住む人々がいて、ドラゴンズがある。「燃えよドラゴンズ!」はそのことを高らかに歌い上げる素晴らしい応援歌なのです。

その情景がどこでもない名古屋の話であることを確定させるフレーズこそが「ナゴヤドームにつめかけた」です。これがあるから、この街が名古屋であることが確定するのです。この部分があるから他地域への遠征でも、そのご当地に密着した歌詞に改変して歌うことができるのです。地域密着の情景を完成させる重要なフレーズがそこにある。この概念の肝がそこにある。どうしてそこを変更してしまうのか、まったくもって僕は理解に苦しみます。変えちゃダメなとこでしょ!作者でも!「ヤッター」のところを「ヤラレター」に変えるみたいな話だと僕は思いますよ!

↓バンテリンドームもみんながつめかけるのを待っていただろうに!

どの球団も早口で頑張ってるんですよ!

「西武ライオンズ」⇒「埼玉西武ライオンズ」とか!

「ダイエーホークス」⇒「ソフトバンクホークス」とか!

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プロ野球の球団歌で一番となればやはり阪神の「六甲おろし」かなと思いますが、「燃えよドラゴンズ!」も勝るとも劣らない素晴らしい歌です。それがどうでしょう、今回の変更によって軸が定まらないピンボケの歌になりました。あまりにピンボケなので「ははーん、球団か応援団か与田が勝手にいじったな?」と思ったくらいです。

遠い夜空に こだまする
竜の叫びを耳にして

戦う中日 夢強く
僕らをじぃ〜んと しびれさす

いいぞ がんばれドラゴンズ
燃えよドラゴンズ!

これを素直に読むと「遠い夜空にこだまする竜の叫びを耳にして戦う中日」となります。遠くで竜が叫んでおるなーと思いながら試合をやっているドラゴンズ、になってしまう。つづくフレーズも「ナゴヤドームにつめかけた僕ら」であればファンだなと伝わるものが、「戦う中日 夢強く 僕ら」では何のことやらわからんでしょう。そこが前後つながらないから、急に「僕ら」が出てきて「お前は誰だ」という疑問がわいてしまう。単純に「中日にしびれている」というだけの情景になってしまう。あと、どうでもいいですが「夢強く」は何を言ってるのかよくわかりません。「夢の中では強い」って意味ですかね!

「中日」と「ドラゴンズ」で同じものをバラついた呼び方で言っているのも気になりますし、もともと「地域密着」につながる言葉が入っていた場所に「親会社の名前」が入るという構造も名古屋市民としては寂しかろうと思います。もとの歌詞ではファンと球団との一体感が明瞭だったのに、つめかけなくなったぶん少し距離感も遠のいた気がします。変えてよくなったと思う部分が、僕にはありません。

1番で名古屋の街とファンを歌い、2番から次々に選手の名前を挙げ、終盤では「トラを殺して」だの「くじらを食べて」だの「にっくきジャイアンツ」だの「息の根止めて」だの今なら全部コンプラで引っ掛かりそうなフレーズを並べ立てる構造も、名古屋確定の歌だからキレがあったのです。名古屋民としては「我以外全部下民」という意識をアピールできますし、他球団からすれば「やっぱ名古屋民ヤバイのぉ」と眉をひそめる格好のネタでした。

やはり、どんな事情があろうとも「バンテリンドームにつめかけた」で歌って欲しかった。そうすべきだし、そのほうが作品としてよかった。とにかく「夢強く」というのが何のことやら意味がわからないので、そこだけでも「夢遠く」とかにしたほうがいいんじゃないかと思います。そしたら「しびれさす」もショックによる麻痺かな?って理解できますからね。これは邪推ですが、球場名を金で売ったぶん応援歌で名前を取り返そうとしたのではないでしょうか。売っちゃったものが取り返せるはずなんてないのに!

これまで何十年も守ってきた部分を、バンテリンドームになった途端に変更する。それはせっかく名前を買ってくれたバンテリンに対しても失礼かなと僕は思います。それで怒るような器の小さい会社ではないでしょうが、ちゃんと事前の説明があったうえでの歌詞変更であってほしいと思います。「あぁバンテリンドームにはつめかけさせたくないんだね」って気持ち、どんな理屈を並べたてられようとも完全には拭い去れないと思いますが、せめて説明くらいはしてほしいですからね!


「そんなにつめかけてない」現実に合わせたという意味では正ですが!