現行「レジェンド」は2015年に発売された5代目モデル(写真:本田技研工業)

ホンダは、「Honda SENSING Elite(ホンダ センシング エリート)」を搭載した新型「レジェンド」を2021年3月4日に公開。翌3月5日に販売を開始した。

レジェンドは、ホンダのフラッグシップモデルとしてつねに最新技術が投入されている。5代目となってから2度目の大幅改良が行われた今回も例外ではなく、自動運転レベル3が実用化されたホンダ センシング エリートが搭載された。

これにより、国交省が世界で初めて自動運転レベル3の型式認定をしたクルマという栄冠を手にしたことになる。「エリート」の名は、現在ホンダ車で展開されているホンダセンシングのなかでも「Elite=精鋭・優れた技術の象徴」としてつけられたものだという。

レベル3は「条件付自動運転車」

今回、世界初搭載された自動運転レベル3とは、いったいどのようなものなのだろうか。

国土交通省は2020年、産官学の有識者と関係者で構成される「ASV(先進安全自動車)推進検討会」において、自動運転レベル0から5までの定義や呼称を決定した。各レベルの概要は以下のとおり。

■レベル1「運転支援」
システムが前後・左右のいずれかの車両制御を実施

■レベル2「高度な運転支援」
システムが前後および左右の車両制御を実施

■レベル3「特定条件下における自動運転」
特定条件下においてシステムが運転を実施(当該条件を外れる等、作動継続が困難な場合は、システムの介入要求等に対してドライバーが適切に対応することが必要)

■レベル4「特定条件下における完全自動運転」
特定条件下においてシステムが運転を実施(作動継続が困難な場合もシステムが対応)

■レベル5「完全自動運転」
つねにシステムが運転を実施

レベル3は「条件付自動運転車」と分類され、特定の走行環境条件を満たす限定された領域において、自動運行装置が運転操作のすべてを代替するとされる。

そして、ホンダ センシング エリートに搭載される「トラフィックジャムパイロット(渋滞運転機能)」が、国土交通省より自動運行装置として型式指定の取得を受けた自動運転レベル3の条件付自動運転車に適合する初のシステムにあたるのだ。


渋滞運転機能によりレベル3走行状態にあることを示すメーター(写真:本田技研工業)

高速道路渋滞時など、一定の条件下でシステムがドライバーに代わって運転操作を行うことを可能としている。

具体的には、「ハンズオフ機能付き車線内運転支援機能」で走行中に渋滞に遭遇すると、一定の条件下でシステムがアクセル/ブレーキ/ステアリングを操作。先行車の車速変化に合わせて車間距離を保ちながら同一車線内を走行/停車/再発進してくれる。

自動運転レベル2と異なるのは、ドライバーが前方を注視することなく、ナビ画面でテレビやDVDを視聴したり、目的地の検索をしたりといったナビ操作をすることが許されることだ。

自動運転レベル2までの技術は、あくまでも“運転支援の技術を搭載した車両”という概念で、自動運転車にカテゴライズされるものではない。その事実からも、この新型レジェンドこそが条件付きではあるものの、世界初の自動運転車となるのである。

ただし、自動運転の作動条件から外れる場合や、何らかの影響で検知ができない場合などは、システムがドライバーに操作要求をし、運転の責任がドライバーに移る。ここが“条件付自動運転車”たる部分だ。

ホンダ センシング エリートの仕組みを簡単に説明しよう。

3次元の高精度地図や全球測位衛星システム(GNSS)の情報を用いて、自車の位置や道路状況を把握。さらに多数のセンサーで周囲360°を検知するほか、車内のモニタリングカメラでドライバーの状態をも検知する。

こうして得たさまざまな情報をもとに、メインECUが認知/予測/判断を適切に行い、アクセル/ブレーキ/ステアリングを制御するのだ。また、ホンダ センシング エリートには、トラフィックジャムパイロットのほかにも高度な運転支援機能が搭載される。


ブルーに光るインジケーターがシステムが運転を行っていることを表す(写真:本田技研工業)

ハンズオフ機能としては、高速道路や自動車専用道でドライバーがハンドルから手を離した状態でもシステムが運転操作を支援する、「ハンズオフ機能付き車線内運転支援機能」や「ハンズオフ機能付き車線変更支援機能」、「ハンズオフ機能付き高度車線変更支援機能」が提供される。

ただし、アダプティブ・クルーズコントロール(ACC)と車線維持支援システム(LKAS)が作動中に一定条件を満たしていることが、作動の条件だ。

2重3重に考慮された緊急時の動作

ドライバーが、システムからの操作要求に応じ続けなかった場合は、左車線へ車線変更をしながら減速・停車を支援する緊急時停車支援機能も搭載する。

トラフィックジャムパイロット・ハンズオフ機能の終了時に、システムからの操作要求に応じなかった場合は、警告音を強め、シートベルトに振動を加えるなど、視覚、聴覚、触覚によってドライバーに操作要求に応じるよう促し、それでも操作要求に応じない場合は、ハザードランプとホーンで周辺車両への注意喚起を行いながら、減速・停車を支援するようプログラムされている。

心配なのは誤作動だが、リアルワールドでのシチュエーションを想定しながら約1000万通りのシミュレーションを実施し、さらに約130万kmにもおよぶ高速道路での実証実験を繰り返し、万が一いずれかのデバイスに何らかの不具合が生じた場合の安全性・信頼性にも配慮しているという。

ホンダ センシング エリートを搭載する「Hybrid EX・Honda SENSING Elite」には、当該システムのほかにもいくつかの専用装備が与えられた。

外観ではブルーアクセサリーランプと専用アルミホイールを採用。数多くのセンサー類を目立たないように内蔵し、自動運行装置搭載車であることをさりげなく主張しているという。


ブルーのLEDアクセサリーランプが外観上の特徴(写真:本田技研工業)

インテリアでは、配置/大きさ/色/明るさなどにこだわったHonda SENSING Elite表示灯と12.3インチ フル液晶グラフィックメーターを採用し、システムの作動状態、走行状況、操作要求がドライバーへ直感的に伝えてくれる。

ボディカラーは6色、内装色は3色から選択可能となっており、このあたりはフラッグシップらしいラインナップだといえるだろう。

実験要素の強い100台のみのリース販売

新型レジェンド Hybrid EX・Honda SENSING Eliteの価格は、1100万円(税込み)。これは、ホンダ センシング エリート非装備モデルより375万円高となる。世界初の自動運転レベル3として高いか安いかが、評価のわかれ目となるだろう。

ただ、気になるのは、販売台数が限定100台のみで、そのすべてがリース販売という点だ。この点について、新型レジェンド開発責任者の青木仁氏は次のように説明する。


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「まずは100台限定でのリース販売という形式をとることで、一人ひとりのユーザーに丁寧なアフターサービスを行い、クルマを利用する中できちんとしたメンテナンスを行っていくことを重要視しています」

言葉遣いは丁寧だが、テスト販売の要素が強いことが伺える。100台のユーザーの使用状況や反響を見て、今後の展開へとつなげていくのだろう。

とはいえ、世界初のレベル3自動運転車を発売したことは、ホンダが目指す「事故ゼロ社会」に向けた大きな第一歩であり、完全自動運転車の登場に向けた布石となったことは間違いない。

この技術を一般に普及させていくには、コストが大きな壁となることは明らかだが、この10年でレベル2に相当するシステムの搭載が当たり前となったように、レベル3が身近な存在になっていくのではないか。