軍部が行動を起こす前からクーデターの噂は広まっていた。 ミャンマー国軍が全権を掌握した2月1日未明、米国人ソフトウェア開発者のソフィ(仮名)は、労働組合で働く夫でミャンマー人のアウン(仮名)と幼い息子と共に自宅にいた。

「クーデターで混乱するミャンマーで、いま起きている「インターネットの遮断」の深刻度」の写真・リンク付きの記事はこちら

国家顧問のアウン・サン・スー・チーや大統領のウィン・ミンをはじめとする政府高官を拘束したミャンマー国軍指導者は、このとき検閲という乱暴な手段に出た。インターネットを遮断したのである。

制限されたのは携帯電話のデータ接続だけだったので、息子と早起きしていたソフィは、まだ自宅でインターネットにアクセスできた。そしてクーデターの第1報を、ソフィーは友人が見せてくれた『ニューヨーク・タイムズ』の記事で知ったのである。

インターネット監視団体「NetBlocks」の報告にもある通り、ミャンマー国軍が全権を掌握してからのこの数週間、インターネットは頻繁に遮断されている。抗議活動が高まりを見せるなか、インターネットは全面的に遮断されたり、Facebookとそのメッセンジャーのような個別のサーヴィスが制限されたりしてきたのだ。ほとんどのミャンマー人にとってFacebookはインターネットそのものであり、人々がニュースに接したり友人とチャットしたりする主要な手段になっている。

NetBlocksによると、インターネットはこの12日間にわたって規則正しく午前1時から午前9時まで遮断されたという[編註:2月26日現在。下記のNetBlocksのツイートによると、現在も断続的に遮断が続いており、16日目に入った]。人権団体「Access Now」は、定期的な遮断は「軍事政権が罪をとがめられることなく権力を濫用しやすくするもの」であると指摘している。

Confirmed: Internet has been shut down in #Myanmar for the sixteenth consecutive night as of 1 am, as the military continues to systematically target the free flow of information online 📉

Network data show connectivity down to 14% of ordinary levels.

📰https://t.co/Jgc20OBk27 pic.twitter.com/CUYj34n9is

- NetBlocks (@netblocks) March 1, 2021

インターネットの遮断は国際的な非難を浴びている。これによってミャンマーは、当局の支配を強めるためにインターネットを遮断している30カ国を超える国々の仲間入りを果たしたことになる。

ミャンマーの人々はまた、インターネットの遮断が夜間の逮捕や抗議活動への参加者の暴力的な取締りの隠蔽に利用されているのではないかと、おびえている。遮断が始まった当初、ミャンマーに進出している通信事業者のTelenorは、当局から同社に下された命令を次々と公表していた。いまではそれも「不可能になった」と、同社は説明している。

インターネットが遮断されたことで、家族や友人が連絡をとり合うことができなくなり、仕事をすることも難しくなった。しかし、より致命的なのは、遮断がミャンマー国内の恐怖感を高めていることだ。

クーデターが続くなか、ソフィは最近息子を連れて米国へ帰国したが、アウンはヤンゴン中心部にとどまって何万人という同胞とともに抗議活動に参加し続けている。毎晩インターネットが遮断され、米国とは時差があることで、ふたりの会話には制限と困難が伴う。

こうしたインターネット遮断下における生活は、いったいどんなものなのか。ソフィとアウンのふたりが語った。

クーデターの始まり

ソフィ クーデターが起きたとき、わたしたちは自宅のマンションにいました。わたしが息子の世話をするために早く起きると、アウン・サン・スー・チーが拘束されたという『ニューヨーク・タイムズ』の記事を、米国にいる友人がメッセージでわたしに送ってくれていたのです。わたしはそれ以前に、もしわたしから連絡がなくてもわたしは無事だからと、ある人に伝えていました。みんな本当におびえていて、家からは出ませんでした。

アウン わたしはFacebookで多くの組合労働者たちとつながっています。これらの人々は、みんなオフラインでした。ほんの20分前に話をしていた家族もオフラインになっていました。インターネットでは何も見ることができず、電話でコミュニケーションをとることができませんでした。

だから外で何が起きているのか知るために、バルコニーへ出ていかなければなりませんでした。近所の人がケーブルテレビを観ているのが見えました。わたしたちはケーブルテレビを利用していないので、何が起きているのかと道路越しに大声で尋ねたのです。

ソフィ 何もわかりませんでした。あまりに携帯電話に頼り切っていたので、何もできないのです。それでも近所の人と話を始めました。

最初の週末は完全に遮断されていて、みんなインターネットにつながらないし、誰も携帯電話がつながらない。こうしたなか、脇道や表通りのほうから抗議活動の声が聞こえました。ATMと銀行も閉まっていて、大きな影響がありました。ほかに現金を手に入れる方法がなかったからです。

アウン 軍事政権は、何が起きているのかをほかの人たちに知られたくなかったのです。インターネットの遮断はクーデター当初の一時的なものだろうと、わたしたちは考えていました。情報が広がらないようにするためにインターネットを遮断しているのだ、とね。しかし、軍部がその後も定期的にインターネットを遮断し続けるとは想像していませんでした。

「つながらない」ことの不安

ソフィ みんな完全にFacebookに頼り切っています。Facebookが“ニュース”そのものですし、Facebookを通じてほかのみんなと会います。そして、Facebookは通話の手段でもあります。みんなFacebookのメッセンジャーで通話しますから。誰かと知り合いになると、電話番号を教えてもらうのではなく、WhatsAppとFacebookのアカウントを教えてもらいます。インターネットを遮断すればコミュニケーションを切断できると軍部が考えたのも、理解できます。

そこで、誰もが仮想プライヴェートネットワーク(VPN)に活路を求めました。わたしはテック業界で働いているので、すでに有料のVPNサーヴィスを利用していました。でも、テクノロジーにあまり詳しくない人がたくさんいて、そういう人はとにかく目に付いたVPNをダウンロードしました。人々はそれらの無料のVPNを使って利用の上限に達してしまうと、どれを使えばいいのかわからない状態に陥ってしまったのです。

アウン 国軍は毎晩午前1時から午前9時までインターネットを遮断しています。こうなる前は、もし外の通りで怪しい行動をとっている人を見かけたり、怪しいクルマがほかの居住区へ入っていくのを見かけたりしたら、Facebookでみんなに知らせることができました。みんなの電話番号を知っているわけではないので、自分の居住区の人たちとコミュニケーションをとる唯一の手段がFacebookだったのです。いまはみんな、ヴォランティアで街角で監視をしています。自分たちの街を自分たちで守らなければならないのです。

ソフィ そんなふうになって、とても怖かったです。20分おきに誰かが鍋やフライパンを叩いて音を鳴らします。そして誰かひとりが鍋やフライパンを鳴らしたら、その通りに住む全員が鍋とフライパンを鳴らすのです。そうなるとバルコニーに駆け出して、何が起きているのか確認しなければなりません。

インターネットが遮断される前は、じっと座ってスマートフォンとにらめっこして、できるだけたくさんのページを読み込むんです。ひたすらスクロールして、できるだけたくさんの情報を読み込みます。あとでじっくり読めるようにするためであり、遮断される直前に街で何が起きているのか知りたいからです。

どうして遮断しなければならないのかという疑問が常に湧いてきます。なぜ午前1時から午前9時までなのか。軍部はわたしたちに何をさせまいとしているのか。夜の間に何をするつもりなのか。

アウン 軍部はこの状況に人々を慣れさせようとしているのだと思います。遮断されている時間は大半の人は寝ていて、インターネットをしている人はほとんどいません。一般市民に影響の少ない時間を選んでいるのです。軍部はいずれ、時間を変更して延長し始めるだろうとわたしは思います。

とはいえ、いまでも影響はあります。夜の遅い時間でもインターネットはビジネスにとって重要です。国際的な銀行システムと貿易にかかわる仕事をしている人々にとっては、特ににそうです。知人のなかにはリモートワークをしていて、インターネットが遮断されたことで会議に出席できなかった人たちがいます。米国時間や英国時間で勉強している子どもたちのなかには、何もできなくなった子どもがいます。

わたしはしょっちゅう海外とつながらなくてはならないので、仕事でインターネットが必要です。組合員からはインターネットを介して給与や健康、福祉の問題でわたしたちのところに問い合わせが入ることがありますから。わたしはときどき夜勤で仕事をし、組合員からのメッセージをFacebookでチェックしなければならないことがあるのです。

守られるべき重要な権利

アウン 午前9時になると、わたしはすぐにFacebookを開きます。夜の間に何が起きたか調べなくてはなりません。家族からのメッセージをチェックし、電子メールをチェックし、職場のFacebookページをチェックします。そしてニュースを読み始め、前の晩に起きたことに関する海外の報道に目を通します。

ソフィ 自分に何が起きているのか世界に知らせることができないとき、軍部にどんなことができるのだろうかと思うと怖くなります。家に来てわたしを逮捕して、携帯電話を取り上げることができるのですから。そして何が起きたか、誰も知ることがないのです。

数日前にミャンマーを出て以来、どうやってふたりで会話をするか、そのやり方を残った夫と調整しようとしています。夫と連絡がとれない時間が何時間もあるのです。夫が無事に帰宅したのか、それとも街のどこかで足止めされているのか知るために、わたしは何時間もじっと待たなければなりません。

Facebookで話せなかった場合に備えた対策も立てていて、そのときは別のアプリを試すことにしています。もしそのアプリでも話せなかったら電子メールを送りますし、国際電話も試します。携帯電話用のプリペイドカードを買い込んだんです。インターネットが遮断されたら、通話時間をチャージできなくなりますから。

アウン 息子が起きている日中に話をしたいですね。こちらは夜ですが、わたしは気にしません。息子に電話したいのです。息子の顔が見たいのです。ソフィは息子が起きてしゃべったり遊んだりしている動画を撮ってわたしに送ることしかできませんから。

ソフィ インターネットの遮断は、あまりうまくいっていないと思います。この国はまだテクノロジーに慣れていない人が多いのですが、それでも人々はコミュニケーションをとる方法を見つけています。

アウン ほとんどの人は深夜の遮断の影響を受けていないので、政府はわたしたちをこの状況に慣らそうとしているのだと思います。これは大変なことであると、国民は知る必要があるのです。インターネットはこの国の将来にとって非常に重要です。わたしたちは北朝鮮になりたくありません。インターネットへのアクセスは、誰にとっても守られるべき重要な権利ですから。

※『WIRED』による検閲の関連記事はこちら。

お知らせ:
毎週木曜はオンラインイヴェント「Thursday Editor's Lounge」開催!

3月25日(木)は、『WIRED』日本版 最新号「FOOD: re-generative」発刊イヴェント! 「生態系を拡張する? 地球のためのガストロノミーをめぐって」と題して、岡田亜希子(シグマクシス)、鎌田安里紗(エシカルファッション・プランナー)が『WIRED』日本版編集長の松島倫明と語る。詳細はこちら。