センチュリーに次ぐ車格を与えられた

 水素を燃料とするFCV(フューエル・セル・ヴィークル)ミライが、フルモデルチェンジを受けて誕生した。初代がデビューしたのは2014年だから、約6年間の開発期間を経て新型に移行することになったわけだ。

 この6年間で、自動車を取り巻く環境が様変わりした。世界各国が脱炭素化を旗印に、エコカーに秋波を送る。異口同音に、数年後には電気の絡まない自動車の販売を禁止すると宣言している。つまり、時代はEVにまっしぐら。その余波が水素燃料自動車への期待となってのしかかる。

 それを予見したように、ミライはガラリと雰囲気を変えて登場した。ボディは大幅に拡大した。全長は4975mm、全幅は1885mm、全高は1470mm。レクサスLSのフラットフォームを流用していることでもわかるとおり、堂々たる体躯を持つに至った。トヨタブランドとしてはセンチュリーに次ぐサイズ。クラウンよりも格上の位置が与えられたのである。

 新型ミライの使命は、社会への浸透である。先代は初めての量産水素燃料自動車だったこともあり、ケーススタディとしての色彩が強かった。市場に技術をアピールする狙いがあった。数より存在である。だが新型は、一般への普及がミッションのよう。現実的に水素車は、トラックやバスと親和性が高いものの、乗用車としての可能性を秘めている。喫緊の課題であるCO2削減のためには街中にミライを溢れさせる必要があり、一般への浸透が課題なのだ。

 そのために新型ミライは、航続可能距離を850kmまで伸ばした。水素の充填時間はガソリンの給油とほぼ変わらない。航続距離が短いEVは、逆に充電時間が長い。水素ステーションさえ身近にあるのならば、走行中に一切のCO2を排出しない水素燃料電池車は特殊なクルマではないのだ。

乗る限りは特殊なことはない上質で静かな「高級車」

 それが証拠に、コクピットドリルに特殊なことはない。イグニッションを入れ、セレクターレバーを「D」にエンゲージさせればそれだけで走る。走りそのものも洗練されている。乗り心地もよく、何にもまして静粛性の高さには腰を抜かすほど。

 水素と酸素の化学反応で得た電力で走るわけだから、つまり走りはEVと同様に低速から力強い。それでいてボディの遮音性は高く、高級車らしい佇まいである。

 水素燃料自動車だからミライに乗るのではなく、高級車としてのミライを手にしたらたまたま水素燃料自動車だった……というように、そもそもクルマとして完成されているのである。

 大きなバッテリーや水素タンクを積まねばならないから、スペースには制約がある。後席や荷室が広々しているとは思えないが、高級車としての資質は高い。それでいて、710万円からというから大勉強である。補助金で補うことを考えれば、あるいは世界のどの高級車よりコスパに優れていると思えるのだ。

 ちなみにミライには、大気清浄機が内蔵されている。漂うPM2.5や粉塵を吸って走るのである。走行中に一切のCO2を排出しないばかりか、走れば走るほど空気が浄化されていく。走る空気清浄器でもあるのだ。

 各国の政治家が唱えるほど、EVが脱炭素化の救世主だとは思えないが、こんな夢のようなクルマがデビューしたのも脱炭素化の流れだとしたら、CO2削減に躍起になるこの風潮も悪くはない。