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試乗テスト前に納車していたコンバーチブル

text:Martin Buckley(マーティン・バックリー)photo:Olgun Kordal(オルガン・コーダル)translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)

 
ジェンセンC-V8コンバーチブルには、雨漏り意外の不具合も多かった。きしみ音や振動音が各部から生じ、ラジオは入りが悪く、リア・サスペンションは硬すぎた。助手席側の窓はすぐに故障し、開かなくなった。塗装も場所によってムラが目立った。

コンバーチブルはC-V8のMk-IIとMk-IIIが組み合わされた構造で、改良前の1系統のみのブレーキシステムも不満の1つ。トランクリッドには、最新のMk-IIIに与えられていたジェンセンのエンブレムすら貼られていなかった。

ジェンセンC-V8コンバーチブル(1965年)

オーナーのキャリントンは後に、「全体的には非常に優れていた」と述べていたようではある。それでもフォレットは、ロイヤルカスタマーの不満に心を痛めたに違いない。

1965年の初め、C-V8コンバーチブルを量産するかどうかは決定していなかった。しかしキャリントンへ届けられた後、1965年7月にビーティーが行った初めての試乗テストの結果は、将来を閉ざすのに充分だった。

キャリントンはすでに不具合を羅列していたが、ビーティーも多くを発見する。シャシーは振動し、ねじれ剛性の弱さを示していた。排気音も大きすぎた。コーナーではだらしなくロールし、アンダーステアもひどかったようだ。

最終的にソフトトップが交換され、後期型のブレーキを獲得したC-V8コンバーチブルは、キャリントンが1年半所有。約3万3800kmを走らせた。スコットランドまで遠乗りしてもいる。

1967年、ジェンセン・インターセプターが発売されるまで、C-V8コンバーチブルを大切にしていたという。フォレットはC-V8を下取りし、インターセプターをキャリントンへ納車した。2人目のオーナーは、すでに決まっていた。

以前から狙っていた2番目のオーナー

1964年、英国フィナンシャルタイムズ紙でC-V8コンバーチブルの記事を目にしていた、フィリップ・サウソール。オープントップ・モデルの熱狂的なファンで、C-V8にも強い関心を示していた。

彼は独自に調査し、フォレットのディーラーで売られ、キャリントンがオーナーだと把握していた。年に1度程度の割合でクルマを買い換える情報を聞き、そのタイミングを狙っていた。

ジェンセンC-V8コンバーチブル(1965年)

1967年2月、アストン マーティンDB2/4ドロップヘッドクーペを売却。サウソールは念願のジェンセンC-V8コンバーチブルを手に入れる。

LPP766Cのナンバーを取得し、160km/h以上で余裕に走れる巡航性能を楽しんだ。5.7km/Lの燃費ながら、1973年まで毎日のように乗ったという。サウソール家で歓迎されたジェンセンは、娘の運転教習にも駆り出されたらしい。

同時にサウソールは、膨大なC-V8の関係資料を集めた。デザイナーのニールや、前オーナーのキャリントン卿が「素晴らしいクルマでした」。と記した手紙も。

1987年、サウソールは義理の息子にC-V8コンバーチブルを譲る。そのまま保管されていたが、クラシック・オートモビルズを主幹するロバート・ベントレーが、クルマを手放すよう説得したという。

「長期間しまわれていたので、多くの人は存在を忘れていました」。と話すロバート。

「再塗装が必要な状態で、丁寧にレストアを施しました。カーペットなども敷き直しています。機械的な部分は、ほとんど手を付けなくても大丈夫でした」

噂ほど運転しにくくない

美しさを取り戻した、ジェンセンC-V8コンバーチブル。230mmほど全長が長いはずだが、実際に目の辺りにすると違和感はなく、標準のC-V8クーペと並べない限りわからないだろう。

曲線が交差し、水ぶくれしたような面構成で、ニールのデザインは視覚的にうるさい。しかし、全体的にはバランスの取れたプロポーションだと思う。コンバーチブルとしても、きれいに仕上がっている。

ジェンセンC-V8コンバーチブル(1965年)

最初のオーナーのキャリントンは、Mk-IIIスタイルのウッドパネルが貼られたダッシュボードに交換したと考えられている。フードの雨漏りが治っているのかは不明だが、現在のオーナー、サウソールは全方向に優れた視界を評価する。

死角の少なさは、個性的なリアガラス形状をしたクーペのC-V8では得られない。実用性の面でもプラスだ。再塗装されたといっても、C-V8の保存状態は良かった。長年大切にされてきたことが、伺い知れる佇まいだ。

構造的な不具合をジェンセンがどう直したのかは不明だが、C-V8コンバーチブルは噂ほど運転しにくくない。現代の基準でいっても、4シーター・コンバーチブルとして速く文明化されている。

加速はベルベット生地のように上品で滑らか。コラム3速ATは、いつ変速をしたのか分からない。V8エンジンはトルクが太く、3500rpm以上回す必要はない。費やされた努力の評価や、ハンサムとはいい難いデザインとは一致しない、スピード感がある。

高速で走らせれば、流れる空気と気だるいV8エンジンのノイズがドライバーを包む。一方で、ハンドリングはビンテージカーらしい。

ジェンセン兄弟のアイデアは正しかった

ステアリングの応答性は期待以上。しかし低速域ではかなり重く、ジェンセンのオーナーを逃すきっかけになったまま。大きな18インチ・ホイールも一因だろう。

その反面、路面の凹凸を越えても安心感が乱れることはない。ライン取りにも不安感はない。ステアリングは、速度が高まるとともに軽くなっていく。

ジェンセンC-V8コンバーチブル(1965年)

前後重量配分に優れたシャシーでボディロールは少なく、軽いアンダーステアを保ったままコーナーをスムーズに抜けられる。トルクの太いV8エンジンが、脱出を勢いづけてくれる。

ブレーキペダルのストロークは長いが、ディスクブレーキは頼りがいがある。クラシックな構成のサスペンションも、期待以上に静かで乗り心地は穏やか。時折シャシーがきしみ、ボディがカタカタと音を立てるが。

雨が多く緑豊かな島国は、オープントップを楽しむのに素晴らしい環境だといえる。適度に暖かく晴れた貴重な1日を、最大限に楽しもうという気持ちにさせてくれる。

たった1台、プロトタイプとして生まれたジェンセンC-V8コンバーチブル。速いだけでなく、ドライバーを社交的にもしてくれる。

C-V8コンバーチブルの10年後、実用性では若干劣るインターセプター・コンバーチブルが誕生した。登場のタイミングはブランドにとって少々遅かったが、確実な成功を残した。ジェンセン兄弟のアイデアが正しいと、後に証明したのだった。

ジェンセンC-V8コンバーチブル(1965年)のスペック

価格:3491ポンド(新車時)/25万ポンド(3500万円/現在)
生産台数:1台
全長:4915mm
全幅:1702mm
全高:1397mm
最高速度:209km/h
0-97km/h加速:6.7秒
燃費:4.2-5.7km/L
CO2排出量:−
乾燥重量:1511kg
パワートレイン:V型8気筒6276cc自然吸気
使用燃料:ガソリン
最高出力:334ps/4600rpm
最大トルク:58.6kg-m/2800rpm
ギアボックス:3速オートマティック