過去から現在を含めた日本人サッカー選手で、各ポジションでナンバーワンと言える選手は誰なのか。これを同じトップレベルを経験した目線で、元選手に語ってもらう。今回はセンターバックの分野で、かつて浦和レッズや湘南ベルマーレ、レノファ山口でプレーした坪井慶介さんに、これはという10人を選んでもらった。

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坪井氏から見て、欧州で活躍する吉田や冨安には「すごい!」の一言

10位 山口智(元ガンバ大阪ほか)

 ガンバ大阪の黄金期を支えた山口さんは、対戦して本当に嫌なセンターバックでした。宮本恒靖さんとシジクレイと3バックを組むことが多かったと思いますが、3人のなかでは目立たないタイプだったかもしれない。でも僕は、山口さんがいちばん効いているといつも思っていました。

 嫌なところで潰してくるし、そうかと思えばクリーンにボールを奪うこともできる。試合のなかで僕は山口さんのマークについていて、点を取られたこともあります。DFとして対峙して改めて「やっぱりこの人は強いな」と感じましたね。

 それから遠藤保仁やフェルナンジーニョ、二川孝広など、攻撃的なガンバのなかで、チームのバランスをうまく取る山口さんを見て「渋いなぁ」と、いつも参考にしていました。僕にはない足元の技術も持っていたので、嫉妬も含めて10位で(笑)。

9位 吉田麻也(サンプドリア)

 日本人のセンターバックとして、これだけ長く海外のトップレベルでプレーできるのは、ただただ"すごい"の一言に尽きます。攻守にわたるセットプレーの強さやディフェンスラインの統率力、チーム全体でのリーダーシップなど、田中マルクス闘莉王と似ているタイプのDFという印象ですね。

 日本人のセンターバックが海外で長くプレーして成功するのは、コミュニケーションの部分や体格差の面で、僕は難しいと思っていましたが、彼はそれが可能なことを証明してくれました。パイオニアとしても尊敬に値する選手だと思っています。

 もちろん、代表でも100キャップ以上というのは並大抵の数字ではない。監督が代わっても評価されて、選ばれつづけるのは彼の能力の高さを物語っていますね。

8位 森重真人(FC東京)

 森重はDFとしての能力がトータルで高く、なんでもできる選手というイメージ。そのなかでもとくに評価しているのが、攻撃面での足元の技術です。

 今年頭に行なわれたルヴァンカップ決勝ではボランチで出場していましたが、センターバックの前にもうひとりセンターバックがいるような存在感がありました。足元のテクニックも存分に発揮していて、改めて良い選手だと感じましたね。

 それから判断力も非常に優れていて、個人レベルでもそうですけど、チームとしても(ボールを取りに)行くか、行かないのかの判断が抜群。それはセンターバックとして大事な能力の一つだと思います。

7位 冨安健洋(ボローニャ)

 デカくて、速くて、強い。それに加えて足元もうまい。もうすごいとしか言いようがないです。周りの人が「冨安がすごい」と言い出してから彼のプレーを初めてちゃんと見た時は、噂に違わぬすごいパフォーマンスでびっくりしたのを覚えています。

 彼のプレーで僕が好きなのは、状況判断もしっかりしているところですね。あれだけのスピードがあれば、ちょっと遅れても対応はできてしまうんです。それゆえポジショニングが雑になる選手もいたりしますが、彼は細かな修正をサボることがありません。

 インターセプトを狙えるポジションだったり、相手のボール保持者の状況によってカバーリングに入れる位置を取ったり。そういったことをしっかりと判断しているので、まだまだ伸びしろはたくさんあると思います。

 僕にはクリスティアーノ・ロナウド(ユベントス)やズラタン・イブラヒモビッチ(ミラン)と対戦するなんて想像もできないですが、そうした一流選手たちとの対戦経験は貴重だと思うし、羨ましいかぎり。これからもっと成長すると思うので、期待して見守りたいと思います。

6位 松田直樹(元横浜F・マリノスほか)

 マツさんはセンターバックとしての守備能力やフィード能力は、歴代のなかでもトップクラスの選手だったと思います。

 でも何より印象に残っているのは、マツさんがピッチにいるのといないのとでは全然違ったということ。DFはあのポジションで存在感によって違いを出せるかがすごく大事で、マツさんはその点においてもずば抜けた選手でした。

 僕は若い頃、ピッチのなかで声を出すことが少ない選手でした。でもマツさんのコーチングだったり、味方を鼓舞する声だったりを目の当たりにして、必要なことなのだと思い知らされましたね。しかも常に声を出すのではなくて、チームが必要とする時に必要な声を出せるのがマツさんでした。

 DFとして自分の仕事を粛々とこなすのも大事ですが、プロとしてピッチに立つ以上、それだけではダメなんだとマツさんは教えてくれました。


坪井氏が長くコンビを組んだ闘莉王は、「ゲームの流れを読む力」に優れていた

5位 田中マルクス闘莉王(元浦和レッズほか)

 浦和レッズで長く共にプレーした、闘莉王を入れないわけにはいかないですね。僕は現役の頃、DFは点なんて取れなくていいと言っていましたが、じつは闘莉王のことを「お前はいつも上がって、点取れていいよな」と羨ましく思っていました。

 彼はDFとしてスピードがあったわけではないけれど、そのぶん判断が抜群に良いんですよ。レッズの試合をよく見てきた人は「闘莉王また上がってるよ」とか、「あいついつも前線にいるよな」とか、そう思っていたかもしれない(笑)。

 でも彼が上がるタイミングを間違えることはなく、周りの選手もしっかりカバーする意識を共有できていたから、守備に穴が開くことはありませんでした。「いま自分が上がることでチャンスになる」という、ゲームの流れを読む力は彼の秀でた能力の一つです。

 自分も攻撃に参加しようと、試合のなかで1、2度上がる時がありましたが、いつも「ツボ、今は行くな!」と止められていましたね(笑)。でも僕が彼を止めることは一度もありませんでした。

 それから彼の足元の技術も、レッズや日本代表にとって間違いなく強みでした。チームとしても個人としても彼のフィード能力には大いに頼っていました。隣にいて、そうした彼のストロングをどう生かすかをいつも考えていましたね。

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4位 中澤佑二(元横浜F・マリノスほか)

 佑二さんも、言わずと知れた日本を代表するセンターバック。フィジカルやヘディングの強さは歴代の代表DFのなかでも最高クラスだと思います。守備ではドシッと構えて跳ね返し、対人の強さは抜群。攻撃でもセットプレーで何度も点を取り、攻守において並外れた存在感がありました。

 やはり代名詞の"ボンバーヘッド"は強く印象に残っています。驚異的な跳躍力からあの長い髪を振りかざして叩くヘディングはとにかく強烈。そうした派手さだけではなく、ヘディングのセンスや飛ぶタイミングも本当に巧みでしたね。

 現役の頃は口にはしませんでしたけど、自分にはないものをたくさん持っていたので、闘莉王と同様に佑二さんのことも羨ましいと思っていました。代表ではお互いのストロングが違うので役割がはっきりとしていて、佑二さんと組むのは本当にやりやすかったですね。

3位 薩川了洋(元横浜フリューゲルスほか)

 横浜フリューゲルスや柏レイソルで活躍された薩川了洋さんも、とくに印象に残っている選手のひとりです。僕よりも身長が低い選手ではありましたけど、そんなことは関係なく、当たりの強さは人並み外れたものがありました。とにかく速くて屈強で、対人での守備では桁違いの強さを持つDFでした。

 僕自身もスピードや地上戦での対人守備をストロングにしていましたが、薩川さんを見た時は「ちょっとこの人はレベルが違うな」と面食らってしまいましたね。

 同タイプのセンターバックということで、薩川さんから参考にするプレーは本当にたくさんあり、いつかお会いして一度話を聞いてみたいと思っている先輩です。

2位 鈴木秀人(元ジュビロ磐田)

 スピードタイプのDFでいちばん憧れていたのが鈴木秀人さんでした。僕はデビュー当時から、Jリーグのなかでかなりスピードには自信がありましたが、初めてジュビロでの秀人さんのプレーを見て「こんなに速いセンターバックがいるのか!」と衝撃を受けたのを覚えています。新人だった僕はその時に、プロのレベルの高さ、世界の広さを思い知らされました。

 秀人さんはタックルも本当に優れていましたが、とにかく速いので(相手の前に)身体を入れて奪うことができるDFでした。そうした時の間合いの取り方など、駆け引きはすごく参考にしていたプレーです。3位の薩川さんと秀人さんは、僕と同タイプのセンターバックの先輩として尊敬する方で、ランキングを考えるうえで外せないふたりですね。


井原正巳はセンターバックとして日本代表最多出場数を誇る

1位 井原正巳(元横浜F・マリノスほか)

 幼い頃からプレーを見て育ったこともあり、ランキングを考える時に真っ先に頭に浮かんだのが井原正巳さんでした。日本代表のキャップ数を見ても122試合というのは本当に偉大な数字で、間違いなく日本サッカー界を代表するレジェンドです。

 僕が新人で浦和レッズに入団した2002年は、井原さんの現役最後の年でもありました。たった1年だったけれど、井原さんの姿からプロとはなんたるものかを学ばせていただきました。一緒にプレーできたのは大きな財産です。

 井原さんは普段物静かな人でしたが、試合になると必要な時に必要な声がけができる人で、背中からリーダーシップを感じる本当に頼れるセンターバックでしたね。

 若い頃の井原さんは守備の能力が高く、クレバーでありながら強いセンターバックというイメージ。でもレッズで一緒にプレーした時は35歳で、身体能力を生かすよりは優れた判断力や周りを的確に動かして、守備陣に安定感をもたらす存在でした。

 新人の僕にとっては学ぶことだらけで、井原さんが隣にいるだけでこんなにも安心して自分のプレーに専念できるのかと、いつも感じていました。僕のなかで不動のセンターバック1位です。

坪井慶介
つぼい・けいすけ/1979年9月16日生まれ。東京都出身。四日市中央工業高校、福岡大学を経て、2002年に浦和レッズ入り。俊足を生かしたDFとしてチームの数々のタイトル獲得に貢献した日本代表としても国際Aマッチ40試合出場。その後、湘南ベルマーレ、レノファ山口でプレーし、2019シーズンを最後に現役引退。現在はタレントとして活躍中。