光熱費が安く、CO2排出抑制につながるZEH

 今回もESG投資の必要性を考えます。ESGのEはエンバイロンメント(環境)、Sはソーシャル(社会)、Gはガバナンス(企業統治)です。前回のコラムに続き、Eを取り上げます。テーマは「住宅」です。

 近年、大手住宅メーカーの販売の主流を占めるのは、光熱費を安く抑えられるZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)です。「ゼッチ」と呼ばれるZEHとは、断熱性能の大幅な向上と、太陽光発電に蓄電池やエネファームなどを組み合わせて、一次エネルギー消費量の収支ゼロを目指す住宅です。

 例えば、積水ハウス(1928)が手がける環境配慮型住宅「グリーンファースト ゼロ」の販売比率は、新築戸建ての87%(2019年度)を占めます。高い性能を誇るZEHの価格は通常の住宅と比べて約500万円高いにもかかわらず、売れている理由は長期の光熱費を考えると得だからです。光熱費は30年間で750万円、50年間で1000万円を超えると言われており、長期で元を取る考え方は長期投資と同様です。

住宅の断熱性能向上の取り組みが遅れる日本

 問題は、環境配慮型住宅の普及は大手では進んでいるものの、多くの日本人は断熱性能の低い家に住んでいることです。1970年代以降、社会問題となった「公害」を克服した日本は環境先進国だと思っていました。しかし、こと住宅となると先進国とは言えないのが現実です。

 特に遅れているのが「高断熱化」への取り組みです。世界において高断熱住宅はCO2削減の切り札との認識で、過去20年間、世界は低断熱の住宅を排除してきました。一方、日本の住宅メーカーの多くは安値競争に走り、断熱性能の向上に真剣に取り組んできませんでした。私たち消費者にも責任の一端はあります。長期収支で見れば光熱費が浮くにもかかわらず、少しでも安く購入しようと低断熱の住宅を購入してきたからです。

 私は日本の住宅に対するの長期のありように深刻な危機感を抱いています。例えば、相続税対策のために農地を売却し、そこに「高放熱」なワンルームアパートを建築し、賃貸で提供することが全国津々浦々で行われています。都心では10〜20平米、地方でも30〜40平米と狭く、中には手抜き工事の違法建築もあって社会問題化しています。

 そうしたワンルームアパートには、新興国などから押し寄せた海外研修生も多く暮らしています。低賃金で長時間労働を強いられ、ウサギ小屋のような住宅に住まわされている海外研修生が抱く日本へのイメージは悪くなるでしょう。ESG投資の基本は「誰も置き去りにしない」こと。それに従うなら、こうした劣悪な労働環境で働かせたり、住宅を提供したりする企業に投資すべきではないと思います。

断熱性能の向上を妨げる「諸悪の根源」とは?

 2016年に政府が定めた省エネ基準は欧州と比べて6倍程度緩い基準で「規制」とは程遠い印象です。これではいけないと有識者が集まり「HEAT20」という基準を策定。G1とG2というグレードを設け、G2を省エネで最高の断熱基準に定めましたが、それでも世界各国の基準より緩いのです。

 断熱性能を示す「U値」は、単位温度差を平米当たりの逃げる熱量で測ったものです。断熱対策で大事なのが窓です。なぜなら、窓からの熱損失が住居全体の熱損失の半分を占めるからです。その窓からの熱損失で「諸悪の根源」と言われているのがアルミサッシの窓枠です。アルミサッシを使っている国は世界で日本ぐらいです。日本ではアルミサッシの窓枠と一重の窓ガラスがスタンダードですが、U値は6です。ドイツの最低基準はU値1.3、フィンランドは1.0、韓国や中国は1.7程度で、日本のU値は世界の常識からかけ離れているのです。

 日本における最高性能は二重ガラスにアルゴンガスを充填した「Low-E複層ガラス」ですが、サッシにアルミを使っては元も子もありません。アルミは熱伝導率の高い物質です。熱交換器のフィンに使用されているぐらいですから、暖房したらすぐ放熱し、冷房したらすぐ熱が入り込みます。例えば、冬の寒い朝に結露が生じたり、水浸しでカビが生えたりするのも、アルミサッシが熱交換して除湿の役割をしているからです。

 断熱性能を高めるには、窓枠を樹脂に変えるだけで大きな効果があります。樹脂の中には経年劣化を防ぐための表面コーティングが施されています。アルミと樹脂の熱伝導率は100倍以上違うので、これだけでも大きな効果が出ます。ハニカム・ブラインドを窓につけるだけでも高い性能が発揮できます。スクリーンを二重にして中に空気層を設けたもので、カーテン並みの価格で買える製品もありお薦めです。樹脂サッシとペアガラス、そしてハニカムブラインドを組み合わせるとUA値は1まで下がります。

EVや自然エネルギーの普及で注目を浴びる蓄電池とキャパシタ

 欧州でEVが広く普及している理由は、蓄電池を単体で買うより、EVを買う方が安いからです。日本も同様です。日産のリーフはEVですが、これを住宅で使う蓄電池とみなすと割安です。テスラのパワーウォールが日本でも販売開始され、蓄電池として極めて割安な部類です。日本でも太陽光発電と蓄電池の組み合わせで電力を賄い、電力会社と契約しない家庭も出てきたのです。

 理想は地域ごとにスマートグリッドを整備することです。小川で微風でもプカプカと浮かぶ低重心のマイクロ風力発電があり、街の至る所に太陽光発電パネルも設置され、エネルギーをコツコツ回収する発電が当たり前になるでしょう。その際に欠かせない技術がキャパシタです。キャパシタに微電力をコツコツと溜め込み、溜まったら蓄電池に流すという方式が当たり前になるでしょう。ヒートポンプも住宅の標準搭載となるでしょう。これは空気熱を回収するためのものですが、電気で温水にします。ガスの出番は少なくなり、割高なプロパンガスの需要は激減する可能性があります。

急騰した電気代が自然エネルギーの普及を加速?

 ZEHの衝撃は光熱費が安くなることだけではありません。灯油やガスを燃やさないため、地球温暖化抑制にも効果的です。EVで蓄電し、ガソリンは燃やさない。エコキュートでお湯を沸かし、ガスは燃やさない。灯油とプロパンは不要になる。これまで日本は光熱費が世界で最も高いのは致し方ないと思われてきましたが、官民一体となって、やる気になれば技術革新で安価になるでしょう。そのとき、日本の産業の国際競争力は高まるでしょう。人件費とインフラコストが高い条件が緩和されるからです。

 今年に入り電気代が急騰しました。スポット価格がkWh20円程度から200円程度まで高騰。電気代は遅れて家計に上乗せ請求されるため2月や3月の電気代は新電力中心に高騰しそうです。背景にあるのはLNG不足です。アジアのLNGスポット価格は1年前の10倍です。背景には石炭からLNG発電の急速なシフトです。LNGのCO2排出量は石炭の半分です。石炭火力を止めてLNGにシフトする動きが加速するでしょう。もちろん、発電コストがゼロに近い太陽光発電や風力発電も普及するはずです。

(DFR投資助言者 山本潤)

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