過去から現在を含めた日本人サッカー選手で、各ポジションでナンバーワンと言える選手は誰なのか。トップレベルを経験した元選手が語る。今回はボランチのランキングを発表。元ジュビロ磐田の福西崇史さんに、これはという10人を選んでもらった。

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柴崎岳(写真左)や中村憲剛(同右)など、福西氏はパスに長けた選手を中心に10人のボランチを選んだ

10位 柴崎岳(レガネス)

 ボランチのセンスをすごく感じる選手で、ゲームのなかで今どうすべきかがよくわかっていますよね。シンプルに捌かなければいけない時、ボールを運ばなければいけない時、そういう状況に応じた判断がうまいと思います。

 2018年ロシアW杯では、日本代表チームの中心として活躍しました。彼を経由することで日本はリズムが出ていて、縦パスでのスピードアップであったり、相手を引き寄せて裏を狙うパスであったり、攻撃のスタートでの彼の存在は大きかったと思います。

 スペインではチームスタイル的に、彼の良さが生きない場面が多い印象ですね。自分の立ち位置を確立できて、もっとボールを触れれば活躍する場面は増えるはず。まだまだ成長すると思うので楽しみですね。

9位 中村憲剛(元川崎フロンターレ)

 キックの質、ボールの受け方、ターンの仕方、止めて蹴る技術、どれもがハイレベル。とくにキックの種類が多くて視野が広く、状況判断も優れているので、パサーとしてのイメージが強いボランチだと思います。捌き役でもあり、仕留めることもできるし、展開力もある。多彩なパスコントロールでゲームを支配できる選手ですね。

 近年の川崎フロンターレは本当に強力なチームで、どのチームもあのパスワークをさせないために研究しています。でも中村選手を中心に、そこをさらに上回るクオリティでやってきましたよね。相手の裏を突くところでは、中村選手の存在感が際立っていました。

 監督の判断であったり、タイミングもあったと思いますが、彼の実力であればもっと代表で中心となってもおかしくなかったボランチだったと思います。

8位 小野伸二(北海道コンサドーレ札幌)

 伸二がボランチなのかどうかは、僕もすごく考えるんですよね。本当に彼が生きるのはトップ下とか、もっと前のポジションだと思います。ただ、どこでプレーしていても、とにかく伸二は見ていて楽しい選手です。

 トラップ際は相手が寄せにいくタイミングの一つではあるんですけど、彼はそこでミスをしない。寄せる隙がないので、いつ取りにいこうかといつも頭を悩ませていました。そんな華麗なプレーを見て、ピッチで戦っている僕らも見惚れてしまう瞬間がありましたね。

 パス一つにしても、よくメッセージ付きのパスなんて言われますが、本当に優しいパスでした。パスの質はもちろん、気持ちいいタイミングで返してくれるので、コントロールもしやすいし、次のプレーにも自然とつなげることができるんですよね。一緒にプレーしてなにより楽しい選手でした。

7位 小笠原満男(元鹿島アントラーズほか)

 満男のいちばんの特徴は、負けん気の強さ。局面での勝負もそうですけど、チーム全体に"自分がやる"といった姿勢を見せる、非常に影響力のあるボランチでした。

 視野が広くて、ロングフィードの精度も非常に高い。クサビのパスを果敢に入れて、ゲームを動かしていこうとする気概のある選手。リスクを負いながら、(ボールを)失ったとしても最後は自分が取ればいいというくらいの仕掛け方をしていました。

 対戦した時に印象的だったのは、試合の開始直後からキーマンになりそうな相手選手に対して、ガッツリと潰しにいくところ。それは相手の要所を潰す意味もありますけど、味方に対してこれくらい行けよというメッセージでもあったと思います。

 そしてチームが劣勢に立たされた時も味方を鼓舞し、奮起させる。その姿を見せられるのが満男でした。

6位 長谷部誠(フランクフルト)

 日本代表のキャプテンのイメージが定着している長谷部は、ヨーロッパでプレーするようになってから守備も覚えて、オールマイティなボランチになった印象です。今ではバランサーとして、フランクフルトの最終ラインでも存在感を発揮していますよね。

 若い頃に浦和レッズと対戦した時は、荒削りではあったけど嫌な選手でした。ボランチの攻撃参加は、走り込んで最後に受けることが多いと思うんですけど、彼の場合はボールを持って運ぶ能力も非常に高いものがありました。

 フィジカルの差があるブンデスリーガで彼が成功できている要因の一つに、コーチング能力があると思います。周りを的確に動かして取らせたり、アタックさせて最終的に自分が奪う。コーチングによって周りを生かし、自分も生かされるというのは、彼の非常に長けた能力だと思います。


福西氏が「ボールの取り方がうまかった」という、服部年宏

5位 服部年宏(元ジュビロ磐田ほか)

 服部さんは、サイドバックやセンターバックなどいろんなポジションを任される人でしたけど、ボランチをやった時の守備力がすごく印象に残っています。

 その守備がマニアックというか、うまいんですよね。マネようと思ってもなかなかできない技術でした。実際に服部さんに「どう取ってるんですか?」と聞いたこともあります。そうしたら「誘っておけば相手が足に当ててくれるじゃん」とか、そんな感じで服部さんにしかわからないんだなと思いましたね。

 ジュビロ磐田の黄金期のなかで、服部さんは前の選手を的確にサポートしてうしろから見守ってくれる存在でした。「Nボックスシステム」(※)で個性溢れる攻撃陣が自由に力を発揮するためには、服部さんのボランチでのバランス感覚が欠かせませんでした。縁の下でチームを支えてくれたのが服部さんです。

※Nボックスシステム...名波浩を中心に、周囲に4人のMFをボックス型に配置したシステム。流麗なパスワークを武器にした

◆01年ジュビロに伝説の「N-BOX」誕生。そこには夢とロマンと儚さがあった>>

4位 山口素弘(元横浜フリューゲルスほか)

 モトさんは、日本で守備的MFが、「ボランチ」と言われるようになってきた時代の選手の走りですよね。ボランチの位置からの展開力やいいタイミングで飛び出す攻撃参加のセンスで、流れのなかの要所で存在感を発揮。チームに影響力を与えられる存在でした。

 また、ダブルボランチやアンカー(守備的MF1枚)など、その時々に求められるバランスをうまく取って、今、チームの重心がどこなのかを決めることができる、バランス感覚に優れた選手でもありました。

 モトさんと一緒にプレーした経験はないんですが、対戦した時はよく目が合いましたね。「ここにもいるな」とか、「ここも意識されているな」とか、こっちが仕掛けにいこうとする時、いつも"見られている"というのを感じていました。攻撃だけではなく、守備においても非常に視野の広いボランチでした。

3位 稲本潤一(SC相模原)

 彼は"ダイナミックなボランチ"というイメージがピッタリの選手ですよね。守備ではボールを取り切れる1対1の強さがあって、攻撃でも得点能力が高い。ランニング距離の長さや、飛び出すタイミングのうまさもありました。ロングフィードの精度も高くて、いろんなことをダイナミックにできる選手です。

 ボランチの攻撃参加は結構体力を使うので、僕は極力抑えるタイプでした。でも彼はハードな守備をしたあとに、何度でも前線に飛び出していけるんですよ。対戦する時はそれについていかなければいけないので、守る側としては本当に厄介でした。

 そして日韓W杯後にアーセナルに移籍した時は「うわ、すげえな」と単純に驚きましたね。当時は海外に移籍すること、しかも若いうちから行くのが少ないなかで、あれだけのビッグクラブに引き抜かれたのは衝撃でした。世界からも認められたボランチです。


名波浩の味方も相手も見えている視野の広さに、福西氏は驚いた

2位 名波浩(元ジュビロ磐田ほか)

 名波さんはあの左足やゲームメイク、FKなど、攻撃に関しては言うまでもありません。ジュビロや代表で周りに非常に気を使ってくれて、僕らがプレーしやすい環境をつくってくれるボランチでした。

 ジュビロでは僕の性格とかできること、やりたいことを理解してくれて、今、僕がなにをしてほしいかをすぐに察知して、気づいた時にはやってくれているんですよね。チームの潤滑油になりながら、引っ張っていってくれるリーダーでした。

 守備に関してあまりイメージはないかもしれないですが、ひとりで取りにいくといより、周りを動かしながらほかの選手に取りにいかせるという判断力が優れていて勉強になりましたね。

 一緒にプレーしてとくに印象に残っているのは、「しゃべらなくていい!」と言われた時です。僕が攻撃参加する時に声を出しながら上がっていたら「もう見えてるから」と。相手に気づかれるから声は出さなくていいと言われました。

 そうした味方だけではなく、相手もよく見えている視野の広さには驚くことが多々ありました。Nボックスでもわかるとおり、ジュビロ黄金期はもちろん、代表でも常に中心選手でした。


福西氏が、能力や存在感など総合的に見て1位に選んだのは、遠藤保仁だ

1位 遠藤保仁(ジュビロ磐田)

 ヤットは一緒にプレーしてやりやすかったし、誰と組んでも一定の力を発揮し合えるサッカー観を持ってるボランチですね。

 ボランチに必要な基本技術のレベルが高いから、安心感があります。あと周りの選手の良さを引き出しながらカバーをすることもできる。もちろん、ゲームメイク能力にも長けているので、チームへの貢献度は非常に高いです。

 チームが良い流れの時は、ヤットの出る幕はあまりないかもしれない。でも何か変化が必要な流れの時こそ、彼の存在感は大きくなります。素早い判断でチームをコントロールしたり、ゲーム自体をコントロールしたり、そうした全体をコントロールして流れを引き戻す能力が本当に優れていますね。

 実際に対戦する時もすごく嫌な存在でした。ひとりで何かをしてくるタイプではないんですけど、決定的な場面のどこかで関わってくる。ラストパスもそうだし、代名詞のFKも本当に脅威でした。守備でも複数で取りに行く時に彼のコントロールは利いていましたし、攻守にわたって要所に必ず彼が立ちはだかってきましたね。

 そして代表で歴代トップの152試合出場は、本当に偉大な数字だと思います。どの監督になっても必要とされる選手で、その期待に応えるパフォーマンスを発揮し、なおかつコンディションを維持してきたということ。

 ケガをせず、41歳になった今でも現役でいられるのはすばらしいですね。能力や存在感など、総合的に見てもヤットが歴代1位のボランチだと思います。

福西崇史
ふくにし・たかし/1976年9月1日生まれ。愛媛県出身。新居浜工業高校から1995年にジュビロ磐田入り。ボランチのポジションで活躍し、チームの黄金期の主力としてプレーした。日本代表では02年日韓W杯、06年ドイツW杯に出場。国際Aマッチ64試合出場7得点。その後、FC東京、東京ヴェルディでプレーし、2009年に現役引退。現在は解説者として活躍中。