宮野真守、花澤香菜……気がつけば“人気声優”がテレビドラマに続々出演するワケ

Win-Winの関係
宮野真守(37)、梶裕貴(35)、花澤香菜(31)、花江夏樹(29)──この4人の共通点を訊けば、少なからぬ人が「声優」と答えるだろう。
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ならば、この4人が最近、テレビ業界で注目を集めている理由はお分かりだろうか。
こちらの答えは、「近年、人気のテレビドラマに出演し、好評を博した声優」というものになる。具体的に見てみよう。
宮野真守にとって、声優の代表作と言えば、「DEATH NOTE」(日本テレビ・2006年10月〜07年6月など)の主人公・夜神月が筆頭に挙げられるようだ。
だが彼は実写映画やテレビドラマにもこだわりを持ち続け、2020年には大人気ドラマ「半沢直樹」(TBS系列・同年7〜9月)に出演を果たした。

役どころは金融庁の検査官。片岡愛之助の“怪演”で人気が出た黒崎駿一の部下という設定だ。
お約束として、黒崎に急所を掴まれるシーンもしっかりと放送され、バラエティ番組でも鉄板エピソードとして披露された。
三浦春馬との“縁”
梶裕貴は「進撃の巨人」(TOKYO MX・13年4月〜9月など)の主人公、エレン・イェーガー役が有名だ。
20年9月、ドラマ「おカネの切れ目が恋のはじまり」(TBS系列・同年9〜10月)の放送がスタートした。これに梶は出演している。
主演・三浦春馬(1990〜2020)の遺作となったこともあり、通常のテレビドラマより社会的な関心も集めたことは記憶に新しい。
梶は第1話のゲストスターとして登場。視聴者の注目度も高かっただろう。おまけに役は三浦春馬の“ライバル”だった。
正確に言えば、「玩具メーカー御曹司『猿渡慶太』(三浦春馬)の元カノ『聖徳まりあ』(星蘭ひとみ)の婚約者である『山鹿眞一郎』」を演じたのだ。
そもそも「進撃の巨人」は、映画版「ATTACK ON TITAN/ATTACK ON TITAN エンド オブ ザ ワールド」[樋口真嗣監督(55)・東宝]の前後編が18年に公開されたが、その主演は三浦だった。
SNS上では「嫌な役だったけど、楽しめた」と好意的な評価が多数を占めた。
地方ドラマで活躍
花澤香菜の場合は代表作を挙げるより、「鬼滅の刃」(TOKYO MX・19年4〜9月など)の甘露寺蜜璃役が現在進行形で話題になっている。
声優としてはトップクラスの人気を誇り、歌手としての活動もある。テレビドラマに出演する時間を捻出するのは大変だろう。
とはいえ、もともとは子役として、ドラマにも出演した実績もある。調べてみると、意外なドラマとの縁があった。
それが2012年から名古屋テレビ放送(メ〜テレ)が放送している「名古屋行き最終列車」シリーズだ。
1年に1回のシリーズ放送で、1話完結のスタイルを採っている。面白いのは、今年放送されたストーリーの1年後が、翌年の放送で描かれるという凝った構成なのだ。
全国的な知名度は低いかもしれないが、ファンは多い。14年と15年には日本民間放送連盟賞でテレビドラマ部門の優秀賞を2年連続で受賞した。地元視聴者に愛されるだけでなく、クオリティも評価されている。
花澤は18年に初出演し、昨年まで3作に出演を重ねた。今年も彼女の主演エピソードは2月20日に放送された。
今後も増加
最後の4人目となる花江夏樹も「鬼滅の刃」に出演しており、竈門炭治郎役を演じた。そして彼の場合は出演したテレビドラマも話題作だ。
現在、放映中の「オー!マイ・ボス!恋は別冊で」(TBS系列・火曜・22:00)のゲストスターに抜擢された。俳優としての本格初挑戦ということもあり、芸能メディアが記事にしたほどだ。
花江は第2話で漫画家役を演じ、第3話でも回想シーンで出演した。ネット上で検索すると反響の大きさが垣間見え、番組側としては「してやったり」の展開になったようだ。
民放キー局のドラマスタッフは、「今後も声優さんが地上波のテレビドラマに“進出”する機会は増していくのではないでしょうか」と予想する。
「そもそもテレビドラマのキャスティングは、役者さんだけを揃えるのではなく、別ジャンルの人気者に出演を依頼するのが基本です。
うまくいくと、ドラマが活性化するんです。プロ顔負けの演技なら話題になりますし、演技はイマイチでも独特の存在感を発揮してくれることもあります」
お笑い芸人の歴史
では、どんな“異業種”からスカウトされたケースが多いのだろうか。例えば渡辺文雄(1929〜2004)は電通のサラリーマンから役者に転じた変わり種だ。映画やテレビドラマで名演を披露したが、こんな例は稀だろう。
やはり演技と愛称がいいのはお笑い芸人とミュージシャンのようだ。
「芸人出身の名優となると、それこそ枚挙に遑がありません。渥美清さん(1928〜1996)、伊東四朗さん(83)、ビートたけしさん(74)とキリがないでしょう。
この傾向は今でも続いており、例えば『ボス恋』でもミキの亜生さん(32)と、なだぎ武さん(50)が出演しています」(同・関係者)
そして、もう1つの流れがミュージシャンだ。
「最近ではNHKの朝ドラ『スカーレット』(2019年)で松下洸平さん(33)がブレイクし、続く『エール』(20年)では森山直太朗さん(44)や野田洋次郎さん(35)の出演が話題になりました」(同・関係者)
だが、抜擢された芸人やミュージシャンが演技の才を示すと、オファーが殺到してしまう。新鮮さを求めての起用だったにもかかわらず、いつしか顔ぶれも固定化される。
「今の芸人さんなら原田泰造さん(50)、塚地武雅さん(49)、星田英利さん(49)、児嶋一哉さん(48)、今野浩喜さん(42)、といった感じでしょう。
ミュージシャンなら先の松下洸平さんや野田洋次郎さんの他に、人気者の星野源さん(40)がいます。あと脇役で引っ張りだこなのが、金子ノブアキさん(39)ですね」(同)
ギャラの問題
お笑い芸人やミュージシャンばかりではつまらない。テレビドラマにキャスティングできる“異業種”のスターはいないか──こうして血眼になって探しているドラマ制作者が注目したのが声優というわけだ。
「人気のある声優さんは、ファンの数が芸人さんやミュージシャンを凌駕することも珍しくありませんので視聴率が期待できます。
更に声優になるためには演技の基礎を勉強する必要がありますし、吹き替えで実際に演じています。ある意味、芸人さんやミュージシャンより俳優の仕事に向いているわけです。
そしてもう1つ、現在の厳しいテレビ業界にとっては重要なことですが、俳優さんより声優さんのほうがギャラは安いのです」(同)
売れっ子の声優でも、テレビドラマでは“新人”という扱いになる。安いギャラを要求しても非常識ではないということになる。
一方の事務所側も、声優が更なるステップアップを成し遂げるためにも、テレビドラマの出演はありがたい話だ。まさにWin-Winの関係なのだ。
人脈の効用
前出の関係者が続ける。
「その結果、割を食っているのが、中堅の役者さんです。確かな演技力があっても、芸人さん、ミュージシャン、そして声優さんほどの固定ファンはいませんからね。
そして声優さんよりギャラが高いとなると、どうしてもオファーしにくくなります。芸人さんやミュージシャンも新鮮味がないとなると、今後は声優さんのドラマ出演が増えていくのではないでしょうか」(同)
テレビドラマのキャスティングでは、関係者の“推薦”がきっかけになることもある。
「現在放送中の『ウチの娘は、彼氏が出来ない!!』(日本テレビ系列・水・22:00)では、[Alexandros]の川上洋平さん(38)の演技に注目が集まっています。
大抜擢の原因は、映画監督の岩井俊二さん(58)が、脚本を担当する北川悦吏子さん(59)に川上さんを推薦していたのです。
そして何と北川さんは自ら手紙を川上さんに送り、出演を依頼したというエピソードが話題を呼んでいます。
声優さんのドラマ出演が更に増えると、プロデューサーや脚本家の目にも留まりやすくなります。こういう“一本釣り”のようなキャスティングも増え、更に声優さんをテレビドラマで見る機会が多くなるかもしれません」(同)
デイリー新潮取材班
2021年2月23日 掲載