映画「ヤクザと家族」公式HPより

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暴力団が落ち目となった現代

 俳優の綾野剛と舘ひろしの共演が話題のネオ・ヤクザ映画「ヤクザと家族 The Family」。

 綾野が演じる「山本賢治」は幼い頃に母を、未成年のうちに父も亡くした。街の不良として不安定な生活を送るうち、舘演じる「組長・柴咲博」に出会ったことでヤクザになり、一家の幹部にのし上がるが、兄貴分の罪を被って長期の服役。

“特定危険指定暴力団の元幹部”だった中本さん 暴力団を離脱し、うどん店を営む

 やがて出所したのは、暴力団排除条例(暴排条例)により暴力団が弱体化した社会。覚醒剤はシノギにしないという昔気質の親分が率いる柴咲組も衰退し、もはやかつての勢いは見る影もなかった。組長から「お前は、まだやり直せる」とヤクザ稼業から足を洗うように諭された山本は、離脱を決意して社会復帰を目指すが……というストーリーだ。

映画「ヤクザと家族」公式HPより

 彼が歩む人生を1999年、2005年、2019年と三つの時代を背景にして描いていく。

 この三つの時代を舞台としたことには、大きな意味がある、と語るのは犯罪社会学者の廣末登氏だ。人はなぜヤクザになるのか、暴力団に加入した人の家庭環境や成育環境とは、また、暴力団を離脱した人のその後、などについての研究と執筆を続けている。廣末氏は作品公式ホームページにも推薦コメントを寄せている。

 1999年から2019年に何があったのか。廣末氏はこう解説する。

「1992年に暴対法(暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律)が、2000年には組対法(組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律)が施行され、官民協働で暴力団排除の風潮が高まります。そして福岡県を皮切りに、各自治体が定める暴排条例が全国に広がったのが2010年以降。これにより、暴力団は『反社』と烙印を押され排除の一途をたどります。つまり、作中の2005年は、暴対法や組対法により暴力団への社会的圧力が徐々に強まった中、とどめとなる暴排条例全国施行前夜であり、2019年はその締め付けにより暴力団が落ち目となった現代です。実際の社会背景をリアルに描いています」

受け入れられない彼らの行き着く先は? それでも辞めた者、辞めきれず元に戻った者、暴力団を嫌い半グレになった者……彼らの肉声に「暴力団博士」が耳を傾けながら、裏社会の危うい橋を渡り続ける男たちの実情に迫る

居場所がない子どもの受け皿

 数多くの暴力団員や元暴力団員の話を聞いた廣末氏の目にも、映画のストーリーはかなりリアルに映ったという。

「綾野さん演じる山本は親を理不尽な形で亡くして天涯孤独。ツレとつるんでその日暮らしを続ける中で、ヤクザの世界に自分の拠り所や生活を見出し、盃による親分・子分、兄弟分といった擬似的な血縁関係を重んじ、裏社会での居場所を得る、という設定でした。親の不在だけでなく、虐待や貧困など、社会的にハンデを負っている環境の中で成長し、非行から組織加入に至るというのは、これまでの調査研究で聞き取りを行った暴力団員(離脱者も含む)にほぼ共通する流れです」

 かつてヤクザの組織は、身寄りがない、あるいは、廣末氏が言うような環境から自力で生きていかねばならない少年・青年などの最後の受け皿になったとされる時代があった。また、債権回収や賭博などを業とする一方、飲食店などからミカジメ料を取るものの、カタギ同士のトラブルの仲介、縄張り内の商売人を守るなど、地域社会での役割もあった。今はタブーとされる「ヤクザは必要悪」という表現もそれなりの説得力を持ち、その存在が認められていた面があったのだ。

口座がない→携帯がない→就職できない

 そうした付かずとも離れず、の一般社会と裏社会との関係を一刀両断に断ち切ったのが暴排条例だといえる。

 映画では山本が出所後に同じ組員だった弟分を訪ねると、すでにヤクザを辞め、職を得て妻子を養っている身だという場面がある。共に訪れたなじみの飲食店で、「元」弟分は暴排条例により離脱しても社会的制約(おおむね5年間は銀行口座が持てない、各種契約ができないなど)を受けた苦労を苦々しく口にした。

 当然のように彼の食事の勘定も払おうとする山本に、付き合えば自分も反社と言われる、かつて一緒にいた頃とは状況が違うから、と悲しげに訴え、支払いを断る。

「法律も条例も見事に作用し、反社会的勢力撲滅に向けた成果を上げています。暴力団に関しては最大時18万人以上だった構成員が今や3万人を切りました。ただ、手放しで喜べないのは、警察や暴力追放運動推進センターを通して暴力団を離脱した者の就職率は約3%という現実です。残り97%はどこで何をしているのでしょう。就職できた人についても、就労定着できているか追跡することは難しいのです」

足を洗っても生きていけない

 離脱者の多くは刺青を入れており、さらに指詰慣習から指に欠損がある者もいる。雇用主が事情を理解してせっかく雇ったとしても、そうした見た目や口づてから周囲に身元がばれてイジメ同然に非難された末、退職してしまうケースがある。自業自得とはいえ、それほど元暴力団員という経歴は、現在の一般社会では簡単に受け入れられるものではない。

 廣末氏の新刊『だからヤクザを辞められない 裏社会メルトダウン』では、離脱者に直接会って話を聞き、資格を取って福祉の現場で働き続けている人から、行き場がなく再び犯罪に手を染めてしまった「元暴アウトロー」まで、実例を綴る。

「暴力団を離脱した人がカタギとして社会復帰する――それは、就職し、定着的に仕事を続け、継続して健全な生活を送れるようになることだと思います。

 法や条例でヤクザを減らす目的は果たしてきました。『反社とは付き合わない』というモラルを社会に植え付けることにも成功したでしょう。

 しかし、離脱者を受け入れる社会的環境、つまり受け皿を十分に整えていないことが、足を洗って真っ当に生きようと決めた人のやり直しを認めない、不寛容な世の中をつくってしまったのではないでしょうか。社会で行き場を無くした元暴がアウトローと化し、再犯という負の回転ドアを回し続けないために――その被害者には一般人も含まれるわけですから。彼らが受け入れられ、居場所を見いだせる社会となることを願っています」

 生きる権利を諦めない一人の人間の生を描くヒューマンドラマ。副題が「The Family」である意味、そして山本の人生における奮闘の結末は――ぜひ映画で見届けてほしい。

デイリー新潮編集部

2021年2月22日 掲載