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キープコンセプトではなく

text:Kenji Momota(桃田健史)editor:Taro Ueno(上野太朗)

ホンダが2021年2月18日にオンラインで世界初公開した、新型ヴェゼル。

今回は4月発売に向けた先行発表で、技術詳細については未公開だが、外装と内装、さらに開発担当者のコメントや、タレントなどアンバサダーを交えたマーケティング手法をみると、ホンダがヴェゼルを大きく変えようとした強い気持ちが感じ取れる。

ホンダ・ヴェゼル

その背景について、これまでのホンダに関する各種取材を通じて考察してみたい。

まずは、ヴェゼルという商品の立ち位置から確認する。

全長が4m強の少し背の高い5ドア車でクーペっぽいフォルム。こうした分野は近年、クロスオーバーと呼ばれ、日本市場でのサイズ感ではヴェゼルはコンパクトクロスオーバーに属する。

ライバルとなるのは、トヨタC-HR、日産キックスなどだ。

エンジンサイズも、排気量が1.0L強から2.0L弱で、トヨタハイブリッドシステムや日産eパワーなど電動化も必須となっている。

さて、コンパクトクロスオーバー市場だが、このところ一気に市場の風景が変わってきた。

例えば、マツダのCX-30やMX-30など、ボディサイズ感ではコンパクトより大きく、ミッドサイズより小さいといった領域が出てきた。

こうした市場変化の最中、ホンダとしてはヴェゼルの商品企画の方向性を定めることに苦労したに違いない……。

ホンダ=Nボックスからの脱却

そもそも、クロスオーバーとは、セダン/クーペとSUVの融合という意味合いで用いられるようになった。

セダン/クーペの場合、小型と中型として、世界市場ではC/Dセグメント呼ばれてきた。

ホンダ・ヴェゼル(先代)

また、SUVは国や地域によって、小型と中型の解釈が若干違い、例えばアメリカではRAV4(トヨタ)やCR-V(ホンダ)がコンパクトSUVとして区分されてきた。

それが2010年代に入り、アメリカを中心とした世界的なセダン/クーペからSUVシフトが一気に加速するなかで、現行RAV4に見られるようにコンパクトSUVが大柄になった。

このほか、東南アジア、南米、さらに中国などを想定した小型SUV市場もじわじわと拡大してきた。

一方、日本市場でのトレンドは、C-HRにみる独創的な近未来感を持つデザインや、各種ハイブリッドやクリーンディーゼルという次世代パワートレインにも注目が集まった。

そうしたなかで、先代ヴェゼルは立ち上がりとしては販売好調だったが、商品ライフサイクル後半は多様化するコンパクトクロスオーバー市場の中で徐々に埋もれていくような印象があった。

さらにいえば、「日本のホンダ=Nボックス」というイメージがあまりにも強まり、登録車としてホンダの復権を目指すため、フィットに次ぐ、ホンダの意欲作としてユーザーはもとより、全国のホンダ販売店からヴェゼルに対する期待は極めて高まっていた。

F1なきホンダのブランド戦略は?

このようなコンパクトクロスオーバー市場の変化と、ホンダの国内市場でも販売への期待も踏まえて、ヴェゼルの進化が検討された。

最も大きなことは、ホンダというブランド自体の変革だ。

ホンダ・ヴェゼル

辛口の自動車評論家らは2000年代に入ってから「ホンダの顔が見えない」といった表現をよく使うようになった。ホンダの自動車開発の目指す方向が不明瞭だ、という意味だ。

こうした声が出るのは、ホンダが「技術はひとのために」(創業者:本田宗一郎氏)という基本理念を掲げ、F1を筆頭とするモータースポーツと関連する「走りの良さ」がホンダの真骨頂だという商品イメージが強いことに起因する。

また、ホンダの役員らと意見交換すると「ホンダは本来、エンジン(原動機)中心の会社である」とも表現することがある。

実際、四輪車に加えて二輪車、そしてライフクリエーション事業部が所管する小型発電機や農耕機を加えると、ホンダは世界トップ級の原動機サプライヤーである。

それが、世界的な電動化シフトや、人々のクルマという商品に対する考え方の変化などによって、ホンダがこれから目指すクルマの在り方について、まだ十分に周知されていない印象がある……。

次世代ホンダの象徴になるか?

そうした中で登場した新型フィットは、ライバルのトヨタ・ヤリスが、WRC(世界ラリー選手権)でのGRヤリスをイメージリーダーとする商品戦略を打つのとは対称的に、「ここちいい」というフワフワっとした商品訴求手法を用いている。

新型ヴェゼルについても、オンラインでの世界発表の内容は、新しいライフスタイルを念頭に置いた、抽象的な言葉が多く並んだ印象がある。

ホンダ・ヴェゼル    ホンダ

いま、明らかにホンダはブランドイメージを大きく変えようとしており、こうした転換期において、新型ヴェゼルの商品企画について市場から賛否両論の声が出ることを、ホンダとして十分に承知していると、筆者は思う。
 
ブランド戦略のみならず、モノづくりの観点からホンダは大きく変わろうとしている。

2020年4月1日付で本田技研工業(ホンダ本社)と本田技術研究所が四輪車量産体制を事実上、一本化した。時期的に、新型ヴェゼルはこの組織変革の前に商品企画と量産開発が始まったとはいえ、日本市場を含めた急激な電動化シフトや、コロナ禍での人とクルマとの関係性の変化などを、新型ヴェゼルが世に出るギリギリまで、マーケティング戦略を主体にさまざまな調整が進んだはずだ。

新型ヴェゼルは、まさに「いまのホンダ」、そして「これからのホンダ」を象徴するクルマなのだと思う。