大坂なおみのグランドスラムV4を支えたチームの絆

写真拡大

4個目のグランドスラム・タイトルを手中に収めた大坂なおみは、その瞬間、少女のような笑顔をスタンドの陣営に向けた。ウィム・フィセッテコーチ、中村豊フィジカルトレーナー、茂木奈津子ケアトレーナーも笑顔で応える。大坂が陣営席に駆けつけるのを待つ間、ヒッティングパートナーを含めた陣営の4人は円陣を組み、喜びを分かち合った。

心技体の充実はもちろんだが、今回は過去3度の四大大会優勝以上にチームの支えが助けになったように見える。大坂は決勝進出を決めたあと、こんな言葉を残している。


「トロフィーに自分の名前が載ったり、(通路の)壁に名前が掲げられたりするのはもちろんうれしいことです。でもそれ以上に、違う目的のためにプレーしているように思います。チームとともにこの隔離期間を乗り越えたこと、ずっと一緒にいられたことが本当にうれしかったのです。彼らといると毎日が本当に楽しい。私はただ、みんなの頑張りの受け皿として、いいプレーがしたいのです」


スタッフの献身的な姿を見てきた大坂の、素直な気持ちだろう。自分のために頑張るのはもちろんだが、「みんなのためにも」という思いは選手にエキストラのエネルギーをもたらすのだ。


大坂はまた、記者会見でメンタル面の好調さの要因について聞かれ、こう答えている。


「チームに対し、より心を開くこと、試合前にはウィムとよく話し合い、緊張を一人で抱え込み、解決しようとするのではなく、それを伝えてきたことだと思います。自分がしっかりつながっていると感じます。試合に負けたとしても、家族には決して嫌われることがないように、自分の愛する人たちは私を愛してくれるとわかっています」


もちろん、試合前や試合中の心構えを経験から学んだことや、フィセッテコーチによる実践的なアドバイスも精神的な安定に結びついているはずだが、根底にあるのはチームへの信頼なのだ。それを実感するから“チーム愛”を公言するのである。


「自分をインスパイアしてくれない人からインスピレーションを得るのは難しいし、怠惰な人たちに囲まれていたら、努力家になるのは難しい。そういう意味では、私は自分を追い込んでくれる人に囲まれているのが好きなんです」


そう言って大坂が例に挙げたのが中村豊トレーナーだ。大坂は「最初の頃は、自分がうまくやっていけるかどうか自信がなかったので、少しプレッシャーを感じていた」というが、もちろん今では「彼は私の背中をたくさん押してくれる」と信頼を深めている。


中村トレーナーは昨夏、チームに加わった。イギリス『テレグラフ』紙のインタビューで中村氏は、昨年の全米オープンに備える「合宿」でチームに絆が生まれたと話している。


〈生活習慣を見ると、相手をとてもよく知ることができます。パンデミックのおかげで、われわれは十分な準備時間を持つことができました〉


 フィセッテコーチも昨年の全米で同じような話をしていたのを思い出す。大坂の自宅のあるロサンゼルスでの数日間で、「絆が深まり、お互いをよりよく知ることができた」と。


大坂もまた、合宿について話している。


「一番大事なのは、たくさん話したことだと思います。私とユタカとウィムは、お互いをもっと信頼し、お互いのことをもっと知ることができました。トレーニングより、そのことが大事だったのかもしれません」


現メンバーの中で一番先にチームに加わった茂木トレーナーは、以前と比べチームの中で「もっと密に話をするようになった」と証言している。


今のチームになってから、昨年の全米、そしてこの全豪と、大坂は出場したグランドスラム大会を連続で制した。また、計4大会に出場し、試合前の棄権を除き、一度も負けていない。


チームに太い絆が生まれた昨年夏のロサンゼルス合宿。すべてはここからスタートしたのだ。


(秋山英宏)


※写真は「全豪オープン」優勝直後の大坂なおみとチーム
(Photo by Cameron Spencer/Getty Images)