やっぱり今のアメリカの株価は高すぎるのだろうか(写真:ロイター/アフロ)

このコラムの書き手3人は、生まれた時も場所も別々ならば、死ぬ時もたぶん別々、という間柄である。最近ではリアルで会う機会もめっきり減ったし、考え方もそれほど似ているわけではない。特に経済や投資をめぐる議論など、ほとんどしたことがない。

いわば「君子の交わりは淡きこと水の如し」といった関係なのだが、競馬が取り持つご縁があって、週末に向けて編集F氏も含めた4人の間では、日曜日のメインレースをめぐって「根拠なき熱狂」がみなぎるようなメールが飛び交うことがある。人生の後半戦を迎えて久しい身には、こんな交遊関係が何よりの財産である。

世間には無数の「靴磨き少年」が出現している


この連載は競馬をこよなく愛するエコノミスト3人による持ち回り連載です(最終ページには競馬の予想が載っています)。記事の一覧はこちら

さて、日経平均株価が2月の第3週にめでたく3万円台に乗せた。TOPIX(東証株価指数)も1990年以来の2000ポイントの大台に接近しつつある。

これについて小幡績准教授は2週間ほど前に「いよいよ『バブル崩壊の瞬間』が近づいてきた」(2月6日配信) と断じている。アメリカの「ロビンフッダーの乱」は、2005年頃の日本における「ライブドア株祭り」みたいな騒ぎであって、いかにもバブル最終局面にありがちな展開だという指摘が面白い。

実際のところ、世間には無数の「靴磨き少年」が出現しているように見受けられる。大暴落を直後に控えた1929年の秋、第35代ジョン・F・ケネディ大統領の父、ジョセフ・ケネディ氏は靴を磨いてもらっている最中に、少年が「今度、××株を買おうと思うんですよ」と言うのを聞いて、「いよいよ相場は最終局面だろう」と判断し、全株を手仕舞いして難を逃れたそうである。

最近も雑誌で株の特集が増えるとか、証券会社の担当が久しぶりに電話をかけてくるとか、身の回りに思い当たる節がいっぱいあるではないか。

他方、その後に連載を担当した山崎元さんは「日経平均は一体いくらならバブルなのだろうか」(2月13日配信) と題し、「日経平均が3万円なら黄色信号、3万9600円なら赤信号」という具体的なラインを示してくれた。そのうえでこうしたシグナルを感じたら、自分にとっての最適投資額に対して1割から2割程度を調整したら良い、という実践的なアドバイスを行っている。

真面目な話、ケネディの親父さんのようなファインプレーはそうあるものではないし、狙ってできるものでもない。そして投資の基本は長期投資であり、「人生100年時代」においては特にそうあるべきなので、少し調整するくらいでちょうどいい、というのはまことに理に適っている。「名人は天井売らず、底買わず」と相場格言にもあるではないか。

こう書くと「それではお前はどう考えているのか。今はバブルなのか、そうでないのか。そしてバブルだとしたら、弾けるのはいつ頃で、どこに注目すべきなのか」という突っ込みが来そうだ。古来、何度も繰り返されてきたこの問いに対し、筆者がご紹介したいのは「バフェットルール」である。

知っておきたい「バフェットの法則」とは?

著名投資家ウォーレン・バフェット氏が目安にしていると言われるこの法則は、その国の株式時価総額を名目GDPと比較する、という単純なものである。以下のような等式で表され、指数が100前後であれば適正、それより低ければ株安、高ければ株高と見なす。

バフェット指数=株式時価総額÷名目GDP×100

最初にこの法則を知ったときは、時価総額というストックの数値をGDPというフローの数値で除するのは、なんだか理屈に合わないなあ、と感じたものである。しかし相場を測るモノサシとして使ってきて、この指数の信頼性は高いと感じている。「バフェット指数」(日本版)という便利なサイト があるので、長年のトレンドをご確認あれ。

この原稿を執筆している時点(2月18日)での日本株のバフェット指数は、137.0と歴史的な高水準にある。1989年12月末の日経平均3万8915円の最高値のときは、このバフェット指数が実に145をつけていた。その近くまで上がっているので、山崎氏が言う「黄色信号」はほぼ間違いないところだ。

このバフェット指数を軸に、日本株の歴史を振り返ってみるのも一興であろう。1990年のバブル崩壊後、株価は真っ逆さまに下落して100を大きく割り込む時代が続く。ようやく100を超えたのは小泉純一郎政権時代の2005年後半であり、その直後に「ライブドアショック」が起きている。そして2007年からバフェット指数は再び100を割り込み、リーマンショックの前後は再び試練の時期が続く。

2012年末には第2次安倍晋三内閣が発足する。その直前からバフェット指数は上昇を開始し、2014年秋の「黒田バズーカ」こと追加緩和によってようやく100を超えてくる。その後の日本株は2016年に短期の調整期間を迎えるものの、バフェット指数は概ね100を上回る状態で推移した。つまりは株高が続いてきたことになる。

そして昨年3月にはコロナ禍発生で、バフェット指数は瞬間的に87くらいまで低下するのだが、そこからわずか1年で137まで上昇している。「こういうタイミングで株を仕込んでおけば……」と考えたくなるのは人情だが、これは後知恵の典型みたいなもの。くれぐれも、落ちてくるナイフを素手でつかもう、などと考えるべきではない。

今のアメリカの株価は完全に「赤信号」

ここで問題なのはアメリカの株価である。「バフェット指数(アメリカ版)」 をご覧あれ。やはり同時点で195.22と、時価総額がGDPの倍近くに膨れ上がっている。これをバブルと言わずして何と言おうか。もうハッキリ赤信号である。

何しろアメリカ株における過去の明らかなバブル局面、例えば2000年のインターネットバブルのときでさえ、バフェット指数は150には達していないのである。それが200に迫っているのだから、アメリカ株のバブルは日本株の比ではない。崩れるとしたら、日本よりもアメリカが先であろう。その場合は、もちろん日本株も巻き添えになる公算大なのだが。

それではこの先のアメリカ株式市場を見る際に、どこに着目すればいいのか。バイデン新政権が発足してからこれでほぼ1カ月。この間にトランプ前大統領の弾劾裁判を、正味5日で終わらせてしまったことに象徴されるように、新政権はとにかく仕事をしたがっている。「最初の100日」と呼ばれる4月下旬までに、目に見える成果を出したいのである。

コロナ対策ではワクチン接種を進め、感染をとにかく食い止めたい。学校の授業も再開したい。とはいえ相手がウイルスであり、成果を挙げられるかどうかは心もとない。

人種・人権問題については、不法移民の子どもたちを保護し、メキシコ国境の壁の建設を中止するなど、多くの大統領令を発している。だが、これらも時間がかかる問題である。

気候変動対策では、パリ協定への復帰が2月19日に実現する。さらに4月22日の「アースデー」には、アメリカ主催の気候変動サミットを開催する予定だ。もっとも脱炭素などの課題は息の長い取り組みだから、短期で成果を挙げて胸を張るわけにはいかない。

こうして考えてみると、やはり最大の眼目は経済再生ということになる。その中でも、焦眉の急は1兆9000億ドルの追加経済対策である。失業保険の上乗せ金400ドル、国民1人当たり1400ドルの給付金、そしてワクチン接種費用や州政府への援助などの大盤振る舞いである。

民主党はすでに上下両院で予算決議を行い、「財政調整措置」と呼ばれる手続きに則って、単純過半数で法案を通す構え。予算は一部「値切られ」るかもしれないが、かなりの額の「真水」が出ることは間違いないだろう。

ところでこの間、アメリカの財政赤字はどうなっているのか。2月11日にCBO(議会予算局)がベースライン見通し を公表しているのでチェックしてみよう。2020年度予算(2019年10月〜2020年9月)の実績は、大型コロナ対策を連発したことにより、歳入が3.42兆ドル、歳出が6.55兆ドル、締めて3.13兆ドルの赤字となった。これによってアメリカの累積赤字は21.0兆ドルとなり、対GDP比ぴったり100%となった。

現在の2021年度予算(2020年10月〜2021年9月)はどうかというと、昨年末に9000億ドルの景気対策を行ったこともあり、歳入が3.51兆ドル、歳出5.76兆ドルで赤字は2.26兆ドルとなる見込みである。ここへさらに1.9兆ドルの追加経済対策を打とうというのだから、「ちょっと金額が大きすぎるのでは?」という気がしてくる。

しかるに民主党内部では「足りなくて後悔するくらいなら、多すぎて後悔するほうがいい」という声が圧倒的だ。ひとつにはバラク・オバマ政権時代に、リーマンショック後の景気刺激策7870億ドルの規模が足りなかった(共和党に遠慮しすぎて、弱者に行き届かなかった!)という反省があるからだろう。

「まだはもうなり」の瞬間がやってくる?

しかし金融市場の反応は、そういう政治的配慮とは別物だ。長期金利はじわっと上がっているし、それ以上にわからないのが物価の動きである。「インフレなんて来るわけない」のが大方の見方だが、コロナ禍で供給面にはいろんなボトルネックが生じている。

原油価格が1バレル=60ドルを超えているのも不気味なところだ。そして昨年3月以降は、物価がマイナスで推移したので、前年比でみた消費者物価上昇率はこれから2%を超えてくる見込みである。

「いやいや、たとえ物価が上昇しても、アメリカの連銀は金融緩和を維持するだろう」――そこは筆者も同意するところで、コロナ禍の金融政策においては物価安定よりも雇用回復を重視すべきであろう。この点について、ジェローム・パウエルFRB(連邦準備制度理事会)議長とジャネット・イエレン財務長官の意見は一致していると見る。

ただし問題はその先だ。1.9兆ドルの追加予算は3月中旬には成立するだろう。その前後から、次の2022年度(2021年10月〜2022年9月)本予算の審議が始まる。バイデン大統領が議会合同演説(例年でいう一般教書演説)を行い、予算教書が発表される。

ここで民主党はインフラ投資、気候変動対策などの大型公約を盛り込んでくる。なおかつ、その財源となるはずの富裕層や法人向けの増税は見送られるだろう。というか、さすがに今の議会情勢では実現しないだろう。つまり財政赤字はさらに拡大を続けることになる。

「もうはまだなり」と言っているうちに「まだはもうなり」となる瞬間が来る。そうなったら「ヤバイデン」である。

アメリカ株のバブルが崩壊するとしたら、それがいちばんのリスクであろう。とりあえずは長期金利の動向に注目しなければならない(本編はここで終了です。次ページは競馬好きの筆者が週末のレースを予想するコーナーです。あらかじめご了承ください)。

毎度のことながら、最後は競馬コーナーである。この週末(21日)は今年初のG1レース、フェブラリーステークス(東京競馬場第11R、距離1600メートル)が待っている。いやあ、腕が鳴りますなあ。

フェブラリーSの本命は田辺騎手騎乗のアルクトス

ここは前から決めていた。本命はアルクトス。当レースの前哨戦、根岸ステークスでは僅差の4着に終わったが、そこがむしろ狙い目となる。

1着のレッドルゼルや2着のワンダーリーデルは斥量56キロだったが、アルクトスは59キロを背負っていた。それがこのG1レースでは他馬と同条件の57キロとなる。そして東京ダート1600メートルの舞台では、アルクトスは過去に4勝を挙げている。

騎手の乗り代わりが多いダート馬の中にあって、いつも田辺裕信騎手が手綱を握っていることもアルクトスの応援材料だ。

「中山マイスター(巨匠、名匠)」の異名をとる田辺騎手だが、府中ダートの戦績もなかなかのもの。フェブラリーステークスと言えば例年は「関西馬天国」で、関東馬が来たのは2018年のノンコノユメくらいだが、アルクトスにもチャンスありと見る。ここは単勝で。

対抗には前哨戦の東海ステークスを勝って3連勝と波に乗るオーヴェルニュ。それからリピーター現象が多いレースでもあるので、インティとサンライズノヴァも押さえておきたい。