シーブリーズやツバキなど、日用品事業を投資ファンドに売却した(記者撮影)

2020年12月期に7年ぶりの最終赤字に陥った資生堂が、経営立て直しに向けて大きく動き始めた。

2月9日に開催された決算説明会で同社の魚谷雅彦社長は、「2023年までに完全復活することを目指す」と宣言。営業利益率を15%とする目標を掲げた。

営業利益率は、インバウンド需要の追い風を受けて業績好調だった2019年12月期でも10%で、2020年12月期は1.6%にすぎない。今回掲げた目標は意欲的な数字と言えるだろう。

「高価格帯ファースト」を市場は評価

業績復活に向けた第一歩が日用品事業の売却だ。2月3日にはヘアケアの「TSUBAKI」やメンズコスメの「uno」などからなる日用品事業を投資ファンドのCVCキャピタル・パートナーズに1600億円で売却すると発表した。

日用品事業は低収益事業だった。というのも、1万円を超える商品も多いスキンケア商品と異なり、ヘアケア商品や洗顔剤の単価は1000円前後と低単価であるためだ。また、日用品は幅広い顧客層に訴求する必要があり、マーケティング費用がかかる。

あるアナリストは、資生堂の日用品事業の営業利益率は「一桁台の中盤から後半だろう」と推測する。また、三菱UFJモルガン・スタンレー証券の佐藤和佳子シニアアナリストは、「資生堂が目標に掲げているプレステージ(高価格帯化粧品)ファーストどおりで評価できる」と高く評価する。

1600億円の事業売却に株価も反応した。1月中旬を底に株価は騰勢を強め、2月15日以降、終値は8000円を超えて推移している。2月17日の時価総額は3兆3000億円近い。

ただ、社内や販売現場の受け止めはマーケットとは若干異なるようだ。

「(日用品事業がなくなると)資生堂との接点が減ってしまうのではないだろうか」。ある社員はこう打ち明ける。ドラッグストアの化粧品売り場で働く美容部員も、「お客さんを呼び込むチャンスが減ってしまう」と嘆く。

好採算のスキンケア商品に集中

ドラッグストアなどの店頭では、TSUBAKIや洗顔剤「専科」などの商品を手にとる顧客に声をかけ、化粧品のカウンセリングに呼び込んでいた。資生堂の商品を知るきっかけとなっていたのが、これらの日用品だった。今回の事業売却により、販売現場では顧客を呼び込む武器を1つ失うことになる。

社内の心配をよそに、資生堂は今後も低収益事業の撤退や売却を進め、好採算のスキンケア商品などに経営資源を集約していくとみられる。魚谷社長は9日の説明会で「スキンケアを中心とする化粧品事業会社に完全に集中していく」と話している。

高価格帯スキンケアが中心の「ザ・ギンザ」は、2019年12月期の売上高は244億円にすぎないが、純利益は71億円。売上高純利益率は実に29%に達する。

これに対し、欧米事業は撤退や売却が予想される。資生堂はアメリカのファンデーションが主力のベアミネラル買収のほか、ドルチェ&ガッバーナやトリーバーチとのライセンス契約を締結し、積極的に欧米事業の拡大を図ってきた。しかし、業績は低迷が続き、ここ数年は欧州事業、米州事業とも赤字を計上している。

また、魚谷社長が「マーケティング費用をもっと増やしていく」と明言する中国市場では、競争が激化している。資生堂のシェアはロレアル、エスティローダー、P&Gに次ぐ第4位(2019年実績)にとどまる。

中国で台頭する新興勢力

イギリスの市場調査会社ユーロモニターによると、中国のスキンケア市場は2020年に366億ドルとなり、2015年から2020年の5年間で60%近く成長してきたが、近年は中国の地場メーカーも存在感を増してきた。

その筆頭ともいえるのが、「Winona」だ。2020年はTmallで開催されたダブルイレブンの化粧品部門の売上高で資生堂に次ぐ9位を獲得した。親会社の「雲南貝泰妮生物科技集団」は2010年に設立されたばかりだが、敏感肌に訴求したスキンケア製品を武器に中国市場で存在感を高めている。2019年12月期の売上高は19億元(310億円)。ここ2年は、年率6割近いペースで売上高を伸ばしており、市場の成長率を大きく上回る。

資生堂の復活戦略のカギを握るのは国内と中国の動向になる。国内では消費者との接点を保ち、競争が激化する中国のスキンケア市場ではブランド力をさらに高め、シェアを拡大していく必要がある。