昭和30〜40年代の子どもや女性をターゲットにしたユニークな家電を紹介します(写真:Ryozo/PIXTA)

昭和30〜40年代、便利なようでちょっと残念な、奇抜な発想の家電がたくさんありました。レトロ家電コレクター・増田健一さんの新著『決定版 増田さんちの昭和レトロ家電』では、そんなユニーク家電が多く紹介されています。

本稿では前回に引き続き、同書から一部抜粋しお届けします。

第1次ベビーブーム世代が受験を迎えた昭和30年代後半から40年代前半にかけて、各社から受験生向けの家電が発売され始めました。

お子様に真剣な勉強態度を植えつける

松下電工(現・パナソニック)
勉強時計
TE-52 昭和43年 4450円


『決定版 増田さんちの昭和レトロ家電』より

「試験に強くなる勉強時計」と銘打って発売されました。10〜60分でセットした時間がくれば“チン”と鳴る。本番に備えてこれで練習問題を解いておけば「お子様に試験なれの自信と真剣な勉強態度をうえつける」(新聞広告)そうです。

右端の時間割が2日分あるのは、予習と復習をするために。そして夜中の2時になれば「月・火」から「火・水」へ自動で変わる機能も付いていて、至れり尽くせり。きっと真剣な勉強態度が身に付いたことでしょう。

天井から風をおくれば、頭も涼しく成績もあがる

松下(現・パナソニック)
パーソナルファン(勉強用)
F-20YZ 昭和44年 3900円


『決定版 増田さんちの昭和レトロ家電』より

なにゆえ「勉強用」なのか。この扇風機を天井から吊るして風を送ると、頭が涼しくなり勉強がはかどるので、勉強用と称したそうです。「涼風の中で楽しく勉強、成績もあがります」(全製品カタログ)。ホンマに成績が上がるのか、そのエビデンスはあるのか、などと無粋なことは言わぬが花。

受験勉強のお夜食の保温に

東芝
料理保温器
FK-101 昭和40年 2900円


『決定版 増田さんちの昭和レトロ家電』より

「いつでもどのお部屋でも温かいおいしさ!」(新聞広告)ということで、これに夜食を入れて保温します。

幅39センチ、奥行き33センチと小形、また耐熱プラスチック製と軽量なので、「お母様の心づくしのお夜食をそのまま勉強部屋に運べます」。まさに受験勉強のお夜食にピッタリです。

もちろん「夜遅くお帰りになるご主人に、温めなおす手間がいりません」と、お父さんに向けても。でもお子様には“心づくし”で、お父さんには“手間がいりません”なんですね……。

それから半世紀……、勉強用扇風機で頭を冷やし、勉強時計で試験対策をして、料理保温器で夜食をとったお子様は、はたしてどんな大人になったのかな。

「終戦っ子の進学ブームも一役 売れ足伸びる蛍光灯スタンド」(『電波新聞』昭和38年3月30日)。当時、蛍光灯も各社個性豊かな製品を発売しました。

女学生向けに美しいお花が付きました

松下(現・パナソニック)
蛍光灯スタンド(花電球付)
F-1083 昭和32年 1470円


『決定版 増田さんちの昭和レトロ家電』より

「美しい花付スタンド女学生向」として発売されたこの蛍光灯スタンド。チューリップの中には豆電球が入っていて、花びらの中でほのかに点灯します。花電球との名前どおり、お部屋へあたたかな雰囲気を醸し出したことでしょう。

チューリップの花の色のバリエーションは赤・白・黄色。童謡「チューリップ」の歌詞♪〜ならんだならんだあかしろきいろ〜♪に合わせたんでしょうか。

お勉強が楽しくなる蛍光灯スタンド

松下(現・パナソニック)
蛍光灯スタンド
FS-174 昭和43年頃 950円


『決定版 増田さんちの昭和レトロ家電』より

プライスカードには「お勉強がたのしくなる!」と。私ごとですが、発売から2年後の昭和45年、大阪市立清水小学校に入学しました。この蛍光灯スタンドを使っていれば、楽しく勉強ができていた……かもしれません。

バラブームが家電界にもやってきた

松下(現・パナソニック)
蛍光灯スタンド
(バラ・花挿・豆電球付)
FS-104 昭和34年 1300円


『決定版 増田さんちの昭和レトロ家電』より

戦後の混乱も一段落、昭和20年代後半からバラブームが起こりました。デパートではバラ展が開催され、また昭和30年には、ひらかたパークに東洋一と言われたバラ園が完成。

続いて昭和32年に谷津遊園、昭和33年に向ヶ丘遊園(こちらも開設時は東洋一のバラ苑と賞されました)と各地にバラ園がオープンします。余談ですが郄島屋がバラの包装紙になったのは昭和27年……。

そんなバラブームのなか、発売されたこの蛍光灯スタンド。優雅で気品ある雰囲気は好評だったようで、バラ付きスタンドはモデルチェンジを経ながら長く発売されました。

朝食もスピーディーに

東芝
スナック3
HTS-62 昭和39年 3500円


『決定版 増田さんちの昭和レトロ家電』より

慌ただしい朝に、トースト・ホットミルク・目玉焼が一度に調理ができるという「スナック3」。使い方は取扱説明書によると「まずミルクを入れ、2〜3分たったら次にプレートに卵を落とし、最後にトースターにパンを入れる」。まさしく同時進行で3品を調理といったところです。

「スナック3をスピーディーな朝食などにフルにご活用ください」ということなんですが、朝忙しいとき、調理の間はスナック3の前にずっと居なければいけないので……。段取りとしてはいささか微妙です。それはともかく、朝の台所の合理化を図ろうとする作り手の思い、また当時の洋風の朝食への憧れが伝わってくるような一品です。

回線不足を解決する夢のテレホン

発売:日東通信機・製造:岩崎通信機
両面ダイヤル式電話機
「ボース・ホーン」
昭和38年 9700円


『決定版 増田さんちの昭和レトロ家電』より

1つの電話機にダイヤルが2つ、机をはさんで両方からダイヤルできるという「ボース・ホーン」。もちろん電話をかけられるのは1回線だけです。当時は電話回線が少なく、また回線を申し込んでも希望者が多く、すぐに引くことができなかったことから、このようなアイデアが生まれました。

主に新聞社やテレビ局などで使われたそうです。しかし使う際、一方の人はコードの位置の関係で右手に受話器を持ち、左手でダイヤル……という図になってしまい少々使いにくそうです。発想はとても面白いのですが、そんな理由からかヒット商品とはならなかったようです。

家族みんなで暖かい

日立
テーブルこたつ(万能型)
KC-51 昭和35年 2800円


『決定版 増田さんちの昭和レトロ家電』より

これ1台で掘りごたつ、勉強机やテーブルの下に置いて足温器……、いろんな使い方ができるということで“万能型”と称しました。

昭和30年代、それまでの畳に座る生活から、いすに座る生活も増え始めました。「椅子とテーブルによる最近の生活様式にマッチしたものとして昨年大好評を博した日立独自の製品」(『日立ファミリー』昭和36年10月)と、好評だったようです。

テーブルを囲んだ皆が、このテーブルこたつに足をのせて談笑する図は、多人数用足温器。今なら、さしずめ“電気足湯”って趣です。