日本のペット「多頭飼育崩壊」のヤバすぎる実態…保護された、犬たちのその後 犬たちよ、今、助けに行くからね

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「多頭飼育崩壊」が頻繁に報道されています。実際に犬たちはどのような状況に置かれているのでしょう? 救助された犬たちは、そのあと、どうなるのでしょう?

およそ15年間で1000頭もの犬を救い、新しい飼い主へと命をつないできた女性がいます。奈良県在住の金本(かなもと)聡子さん(NPO法人LEY-LINE代表)です。

私(児童文学作家:沢田俊子)は、金本さんの活動を『犬たちよ、今、助けに行くからね』にまとめました。取材を通して見えてきた、犬たちの置かれている状況と保護活動の現実をお伝えします。

多頭飼育崩壊のレスキュー現場。

地獄からの救出劇

その日、金本さんは、三重県の繁殖場(ペットとして売るための子犬を生ませている施設)に来ていました。

マスクなしでは息もできないほどの強烈な臭い。

ドアを開けると無数にハエが飛んできます。糞尿の上に新聞紙をかぶせる。その上に犬たちが糞尿をする……を繰り返し、1メートルもの山になった不潔きわまりない床。

多頭飼育崩壊が起きた繁殖場で発見されたボルゾイ(『犬たちよ、今、助けに行くからね』より)

犬たちは、なにをされるのかとおびえ、うなり、逃げまわります。

蹴ったり、かみついたりして、なかなか保護できません。ケージの奥に逃げ込まれたら、体を突っ込んで引っ張り出すしかありません。顔や服が糞尿でどれだけ汚れようが、ハエにたかられようが、耐えて救い出すしかないのです。

他の支援団体と協力し、夜までかかって助け出したボルゾイ(※)は、45頭もいました。

※ボルゾイとはロシア語で「俊敏」を意味する言葉。そもそもは、猟犬としてロシア帝国の貴族に飼われていた犬種。

悪いのは、繁殖業者?

繁殖場の崩壊は、なぜ起きてしまうのでしょう?

犬の繁殖業者が高齢化し世話をしきれなくなったことも要因の一つです。他にはペットとしての犬の需要が減っていること(※)や、動物愛護管理法が厳しくなり(2013年)、犬をネットで販売できなくなったことも影響しています。

※「2020年(令和2年)全国犬猫飼育実施調査結果」(一般社団法人ペットフード協会)。

※2019年、2020年に新しく犬を飼い始めた人は、それぞれ前年に比べて増えている。しかし、全体の飼育頭数は2008年の13,101,000頭をピークに、2020年年は8,489,000頭と、約35%も減っている。

生活費や犬たちのエサ代を稼ぐために他の仕事に就かねばならず、時間的に犬たちの日常の世話ができなくなっている業者もいるのです。

多頭飼育崩壊が起きた繁殖場で発見されたボルゾイ(『犬たちよ、今、助けに行くからね』より)

先ほどの地獄からの救出劇で、金本さんは11頭のボルゾイを預かり、10頭に新しい飼い主を見つけました。が、重い病気にかかっていた1頭は、金本さんが自分で引きとりました。

その犬の余命がわずかとわかったとき、飼い主だった業者に、「会いに来てやってほしい」と連絡をしました。

夜勤明けで眠らないまま駆け付けた業者が、「マキ」と声をかけると、マキは業者の足元ににじりより、頭をくっつけると安心したように眠りにつきました。聞けば、繁殖場の仲間を統一していたボス犬だったそうです。

犬と業者との信頼関係を目の当たりにして、〔劣悪な環境から犬を救い出した〕と満足していたのは、自分の傲慢ではなかったかと、金本さんは思いました。ところが帰り際、業者はこう言ったそうです。

「今、こんなことを言うのは恥ずかしいですが、いつか、あなたのお手伝いがしたい」と。

ボス犬マキは、飼い主だった男性をそんな気持ちにさせ、保護活動に迷いを感じた金本さんに自信を持たせて旅立ちました。立派な最期でした。

安易な保護から崩壊へ

個人で保護活動をしていた人が、保護した犬に避妊や去勢手術をしなかったために、170頭にも増え、どうにもならなかったケースもあります。

金本さんは、保護団体からの要請で救助に行ったのですが、犬たちは光のささない悪臭が充満する劣悪な環境に詰め込まれていました。おびえきった犬たちを手分けして保護したものの、その後が大変でした。

病気になっている犬、障害を持った犬、おなかに赤ちゃんがいる犬、手入れされていないので毛がだんごのようにかたまっている犬、さわろうとするだけで吠える犬……。ペットとして飼ってもらうには、すべてのことをクリアーしなければなりません。

目が見えず、耳も聞こえないチビ。救出直後の様子。

診察・治療、フード、トイレシートにかかる費用はすべて金本さんが負担します。

避妊や去勢、予防注射や検診を受けるだけで月50万〜60万円、腫瘍が見つかれば、1頭20万〜30万円かかります。手術の重なった月は大変です。費用を捻出するため金本さんは、いくつもの仕事を掛け持ちしています。

老いた母犬を救いたい

繁殖場・多頭飼いの崩壊、虐待犬の救助の合間を縫って、金本さんはたったひとりで繁殖業者もとに通って頭を下げています。老いた母犬を救いたいからです。

散歩もさせてもらえず、ケージに閉じ込められて、体も心もボロボロになってしまった母犬たちに、

「まだまだ子犬を生ませる」

という繁殖業者を説得するために、一対一で話し合います。

引き取ることができた場合、その後、母犬の幸せな様子を、時には写真を添えて伝えています。が、引き取らせてもらえないまま、繁殖場で子犬製造機のような一生を終える母犬がいるのが現状です。

預かりボランティアさんの力を借りて

金本さんが、専用の施設を持たずに、多くの犬の救出・保護活動を続けられているのは、「預かりボランティアさん」の存在のおかげです。

預かりボランティアさんとは、保護された犬たちをそれぞれの自宅で預かり、ペットとしてのしつけをし、譲渡会で新しい飼い主につないでいく人たちのことです。

自分の預かった犬がもらわれていくと、次の保護犬を預かるという繰り返しです。約30人の預かりボランティアさんと代表の金本さんが、“ワンチーム“で犬の保護活動を実践しています。

待っている犬がいるかぎり

取材中、金本さんに連絡してもなかなかつながりません。夜、折り返しの電話があると、

「レスキューした犬を、ボランティアさんの家に順番に届けに行っていました」。

「動物病院にいます」。

「譲渡会でした」。

「ボランティアさんの相談に乗っていました」。

「飼い主が決まったので、犬を届けに行ってきました」

など、まさに東奔西走でした。

金本さんの原動力は、動物を守りたいという子どものころからの強い思いです。捨てられた犬を拾っても、どうすることもできなかったのは、子どもだったから。大人になった今なら、たくさんの命を助けることができる一一。

そんな思いを胸に、金本さんは、今日も助けを待つ犬のもとへ車を走らせています。