いまだ軽トラは7割がMT車!

 いまや乗用車の新車販売において99%がAT(オートマチックトランスミッション)になっているといわれている。その一方で、新規に運転免許を取得する人においてはAT限定ではなく、MT(マニュアルトランスミッション)にも乗れるほうを選ぶ人が、まだまだ半数近くいるという話もある。はたして、これから運転免許を取得する世代にとってMTに乗れる必要はあるのだろうか。

 よく言われるのは営業車にはまだまだMTが多いという話だが、いわゆる営業マンが乗るような社用車にハイブリッドカーを見かけるケースが増えている。ごく一部を除いて、日本のハイブリッドカーでMTの設定があるケースは少なく、AT限定免許でもまったく困らないだろう。また、AT限定免許の取得者増加に伴い、多くの企業ではMTの営業車を徐々に減らしているという話もある。

 じつは働くクルマにおいてもAT化は進んでいる。路線バスなどではMTを見かけるという声もあるだろうが、実際に新車で買おうとすると全車ATになっていたりするのだ。実際、FUSOの路線バス「エアロスター」は全車がトルコン6速ATとなっている。MTと異なり、燃費性能のばらつきが少ないことから事業者のニーズはATに進んでいるのだ。

 とはいえ、まだまだMTが主流のジャンルがある。それが軽商用車だ。2020年に日本自動車工業会が発表した「2019年 軽自動車の使用実態調査報告書」によると、軽1BOXバンの3割弱がMTで、さらに軽トラになると7割程度がMTなのだという。これも長期的にみるとATが増加している傾向にあるが、とくに軽トラを日常的に使うような業務につくにはMTも運転できる免許が必要となる。

 実際、都会に住んでいるときには、たまにレンタカーを借りるくらいのためAT限定免許でまったく困らなかったという人が、田舎暮らしを始めた途端、農作業で借りる軽トラがMTしかないので“限定解除”をする必要に迫られたというエピソードもある。自分用の軽トラを新車で買うのであればATという選択肢もあるが、借り物や中古市場ではMT比率が高いため、AT限定免許だと不便なことが多いのだという。

電動車化時代にMTは消えるだろう

 そのほか旧車に乗ろうと思うとMTに乗れないと、そもそも憧れのクルマを運転できないというケースもあるだろう。たとえば、R32〜R34のスカイラインGT-RにはATが用意されていない。ほかにも1990年代のモデルでいっても、ホンダ・ビートはMTオンリーの設定だった。

 さらに1970年代以前となるとMT比率が高いため、旧車に憧れがあるというのであればAT限定免許を選んでしまうと後悔することになるだろうが、正直そうした趣味の人が多いとは思えず、新規に運転免許を取得する人の半数近くがいまだにMTも乗れる運転免許を取得するというのは、ちょっと不思議な傾向だ。

 なにしろ、いま自動車業界は100年に一度の大変革期で、クルマの電動化が進んでいるのがご存じのとおり。簡易的なマイルドハイブリッドを除くと、電動車両でMTを搭載するというのは考えづらく、将来的にはMTが消滅する方向にいっているのは間違いないからだ。

 また、スポーツカーにしてもR35日産GT-RはATであるし、ハイブリッドスポーツカーのホンダNSXも2ペダルとなっている。トヨタのGRスープラもATの設定しかない。MTに乗れないからスポーツドライブが楽しめないという時代でもない。

 とはいえ、マツダ・ロードスターやホンダS660といったリヤ駆動の6速MTを積んだライトウェイトスポーツカーが持つ、クルマを操ることで人馬一体感を味わえるという魅力には、趣味性という意味では十分な価値がある。最近ではホンダがN-ONEに軽自動車として初の「FF・ターボ・6速MT」というパッケージを実現した。そうした趣味性を楽しむものとしてMTが残っている限り、MTを乗れる運転免許を取っておくことは、「クルマを趣味として楽しもう」という人にとっては十分な価値ある資格といえるだろう。