右上はダイハツ「タフト」、左下はスズキ「ハスラー」。ともに人気の軽自動車クロスオーバーSUVだ(写真:ダイハツ/スズキ)

スタイリッシュなフォルムを持ち、街乗りからアウトドアまで幅広い用途で使えることから根強い人気を誇るクロスオーバーSUV。そのスタイルを軽自動車のジャンルで確立した立役者がスズキ「ハスラー」だ。

先代モデルは2014年に発売され大ヒット、2020年1月にモデルチェンジを受けて発売された2代目も売り上げは好調だ。2020年12月までの新車販売台数は累計で8万114台。ホンダ「N-BOX」など、国内で絶大な人気を誇る軽スーパーハイトワゴンや軽トールワゴンに次いで、全体のランキングでも6位と健闘している。


つねに王者ハスラーが販売台数で先行していたが、2020年10月期にタフトが5位に浮上。単月ではあるが、タフトがハスラーを販売台数で上回った

一方、2020年6月に発売され、ハスラーの実質的なライバルと見られているダイハツ「タフト」もなかなか堅調な売り上げを見せる。発売直後となる2020年6月単月の新車販売台数で5079台を記録し、いきなり9位にランクイン。その後も7月6300台、8月5292台、9月6873台と着実に販売台数を伸ばし、10月には、ついに7471台となり、ハスラーの販売台数6536台を抜く。翌11月単月でも、ハスラー6579台に対しタフト6503台と、さながら抜きつ抜かれつのデッドヒートを繰り広げるかのように、2台の販売台数は拮抗してきている。

そんなライバルともいえる2台だが、実は相違点もかなりあり、それぞれに魅力も異なる。改めて比較してみることで、各モデルの長所やどのようなユーザーに向いているのかなどを浮き彫りにしてみたい。

スタイル 愛らしいハスラーと硬派路線のタフト


愛らしい丸目が特徴的なハスラーのスタイリング(写真:スズキ)

現行ハスラーの外観は、一見すると先代モデルに似ている。だが、よく見ると、先代が全体的に丸味を帯びたデザインだったのに対し、現行はより厚みを増したエンジンフードや、ピラーを起こすなどでスクエアなフォルムに生まれ変わった。SUVらしい重厚感は増したが、印象的な丸目2灯ヘッドライトが生み出すフェイスデザインは、先代と同様、どこか愛らしく、親しみやすい。

一方、タフトの外観は、骨太で角張ったボディデザインにより、タフさや力強さを強調した硬派路線。厚みがある前後バンパーや最低地上高190mmという比較的高い車高などが、1980年代に人気を博したクロスカントリー4WD車を彷彿とさせる。


角張ったデザインで硬派なSUVという印象が強いタフトのスタイリング(写真:ダイハツ)

ルーフレールを標準装備し、165/65-R15という比較的高い扁平率のタイヤを採用するタフトのほうが(ハスラーのタイヤサイズは165/60-R15)、近年のアウトドアブームや、オフロードのイメージをより意識した外観だといえるだろう。

ただし、ハスラーにも2020年11月に発売された特別仕様車「J STYLE(ジェイ・スタイル)」があり(HYBRID X、HYBRID Xターボがベース)、専用のメッキフロントグリルなどに加え、こちらもルーフレールを装備し、アウトドアのテイストを取り入れている。

かつて、クロスオーバーSUVは、流麗なボディを持ち、スポーティで都会的なデザインが主流だった。その方程式は今でも健在だが、一方で、近年は例えばコンパクトSUVでも、ダイハツ「ロッキー」や兄弟車の「ライズ」など、力強さやオフロード感を意識したモデルも人気を博している。タフトやハスラーのJ STYLEも、そういった最新トレンドを取り入れた仕様だといえる。

インテリア 車内の広さは同等、開放感はタフトが勝る


遊び心が感じられるハスラーのインテリア(写真:スズキ)

室内サイズは、ハスラーが長さ2215mm・幅1330mm、タフトが長さ2050mm・幅1305mmで、高さは両車ともに1270mm。どちらも、車内の広さはほぼ互角だ。インパネ回りのデザインで、より遊び心があるのはハスラーだ。メーター、センターモニター、グローブボックスに台形状のガーニッシュを3つ並べ、内装色に合わせてオレンジ/ブルー/ホワイトの3色を選ぶことができる。

タフトのインパネ回りにも、シフトノブやエアコンの吹き出し口などにオレンジのガーニッシュを装備するが、ハスラーと比べると比較的シンプルな構成だ。前席は、両車ともに適度な硬さがあり、両サイドのサポート性が高く、長距離ドライブでも疲れにくい。座り心地は同等だ。ただし、タフトの「スカイフィールトップ」は特筆すべき装備だ。前席上に備えられたガラスルーフは、室内を明るくし、視界が広がることによる開放感も満点。アウトドアで風景などをより楽しめるという点では、タフトに軍配が上がる。


スカイフィールトップで圧倒的な開放感を実現したタフトのインテリア(写真:ダイハツ)

後席では、スライド機構を持つハスラーが秀逸だ。後端まで移動させれば、身長が高い人でも足元のスペースに余裕ができ、大人4名がゆったりと乗車できる。また、リクライニング機構も持つため、着座姿勢を変えやすいのもいい。

一方、タフトの後席は、スライド機構やリクライニング機構がないため、座る人の体格によってはやや窮屈さを感じざるをえないだろう。もちろん、後席に大人2名が座ることは可能だが、どちらかといえば、後席の背もたれを前に倒して荷室として使うことを前提とした装備だといえる。

荷室 シートアレンジではハスラーが有利

両車ともに、リヤのハッチバックドア側に荷室が設けられており、後席の背もたれを起こした状態でも多少の荷物を積むことは可能だ。ただし、ハスラーの後席は、背もたれ裏側にあるストラップを引けば、荷室側からでもスライドによる位置調整が可能のため、荷物の大きさや長さに応じた荷室スペースの調整が楽にできる。


タフトの荷室。フレキシブルボードの位置を変えることで荷室の高さ調整が可能(写真:ダイハツ)

タフトの荷室では、床面に装備したフレキシブルボードの位置を変えて、荷室の高さを調整することができる。背が高い荷物を安定して積載できるのが特徴だ。

また、ハスラーの荷室では、簡単に取り外せる防汚タイプのラゲッジアンダーボックスを装備。アウトドアで使う荷物を置き、砂や泥で汚れても外してすぐに洗えるのが魅力だ。

いずれのモデルも、後席の背もたれを前に倒せば、広々とした荷室スペースを確保でき、大きな荷物の積載も可能だ。タフトもハスラーも、後席裏側や荷室には汚れてもすぐに清掃ができる素材を採用し、アウトドアユースに対応している。


ハスラーの荷室。シートアレンジという面では、ハスラーのほうが使い勝手に優れる(写真:スズキ)

前席も含めたシートアレンジという点では、ハスラーのほうが上だ。例えば、助手席は座面を前に出し、背もたれを前方へ倒すことも可能。後席も前に倒せば長尺物の積載もできる。また、後席左右の背もたれを前に倒し、運転席と助手席の背もたれを後方へ倒せば、大人2名が膻になれるフルフラットな空間も作ることができ、流行の車中泊にも対応する。

タフトも、ハスラー同様に後席は5:5分割で背もたれが前に倒せる。そのため、例えば左右どちらかの後席を倒し、ラゲッジスペースを確保しながら3名乗車ができるなどのアレンジは可能だ。だが、よりバリエーションが豊富なのは、前述のとおり、ハスラーだろう。普段使いから遊びまで、幅広い用途に対応している。

パワートレイン 走行性能は五分、燃費はハスラーに軍配

両車ともに、パワートレインにはNA(自然吸気)エンジンとターボエンジンがあり、どちらも2WD(FF)車と4WD車を用意する。東京都内にあるスズキとダイハツそれぞれの某販売店に聞いたところ、もっとも売れているグレードは両車ともに「2WDのターボ車」だという。

いずれのモデルも、NAエンジン車は街乗り重視であればさほど問題ないが、高速道路を使う長距離ドライブなどの用途も考えると、ややパワー不足が否めないからだ。ターボ車であれば、両車ともに最大トルクがNAエンジン車の約1.7倍、最高出力で約1.3倍近くあるため、軽自動車でもストレスのない走りが楽しめる。

また、かなりハードな悪路を走らない限り、アウトドアに行く場合も2WD車で十分だ。当然、4WD車なら雪道などでも冬タイヤを履けば安定感は抜群だが、問題は価格だ。ハスラーのターボ車で、2WD車が145万9700円〜168万9600円、4WD車は159万3900円〜182万3800円(いずれも特別仕様車を含む)。もっとも安いグレードのHYBRID Gターボでも4WD車のほうが13万円以上高い。


ハスラーのエンジン。ターボエンジン(2WD/4WD)のスペックは、660cc・直列3気筒インタークーラーターボ(最高出力64ps/6000rpm 最大トルク10.0kgf-m/3000rpm)+マイルドハイブリッド モーター(最高出力3.1ps/1000rpm 最大トルク5.1kgf-m/100prm)。NAエンジン(2WD/4WD)のスペックは、660cc・直列3気筒(最高出力49ps/6500rpm 最大トルク5.9kgf-m/5000rpm)+マイルドハイブリッド モーター(最高出力2.6ps/1500rpm 最大トルク4.1kgf-m/100prm)(写真:スズキ)

一方、タフトのターボ車も2WD車が160万6000円で、4WD車が173万2500円と、こちらも12万円以上の価格差だ。つまり、価格と悪路を走る頻度を天秤にかけると、「ターボは欲しいが、2WDで十分」といったユーザーが多いといえる。燃費の面でも4WD車は2WD車に劣る。


タフトも同様にNAとターボを設定。ターボエンジン(2WD/4WD)のスペックは、660cc・直列3気筒インタークーラーターボ(最高出力64ps/6400rpm 最大トルク10.2kgf-m/3600rpm)。NAエンジン(2WD/4WD)のスペックは、660cc・直列3気筒(最高出力52ps/6900rpm 最大トルク6.1kgf-m/3600rpm)となる(写真:ダイハツ)

ちなみに、両車の燃費性能だが、こちらもハスラーに軍配が上がる。発進や加速時など、ガソリン使用量が増えるときにモーターがエンジンをアシストするマイルドハイブリッド機構を全車に装備するためだ。この機構によりハスラーの燃費は、WLTCモード(総合)で20.8〜25.0km/L。タフトは、WLTCモード(総合)で19.6〜20.5km/Lだ。NAエンジン車より燃費が落ちるターボ車でも、2WD車の場合でハスラーが22.6km/L、タフト20.2km/Lと、いずれもハスラーのほうが高い燃費性能を発揮する。


運転支援システムは、後発のタフトのほうが優れている(写真:ダイハツ)

運転支援システムでは、タフトのほうがより充実しているといえるだろう。両車ともに、設定速度の範囲内で先行車に追従走行しながら、自動で車間距離をキープする全車速追従機能付きACC(アダプティブクルーズコントロール)を装備する。タフトは、電動式パーキングブレーキを採用するため、渋滞などで先行車が停止しても追従を保ち、停車時間が長いときはパーキングブレーキが自動的に作動する。


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一方のハスラーは、オーソドックスな足踏み式パーキングブレーキを採用するため、先行車の停止までは追従しても、約2秒を経過すると再発進する。従って停止が長引く場合は、フットブレーキを踏む必要がある。安全装備でもタフトのほうが上だ。例えば、衝突被害軽減ブレーキは両車ともに装備しており、昼夜ともに車両だけでなく歩行者も検知する点も同様。ただし、タフトに装備しているスマートアシストでは、自転車も検知対象となっているため、より幅広い状況で安全運転をアシストしてくれる。

さらに、タフトには、夜間の視認性に優れるLEDヘッドランプを全車に装備する。一方のハスラーは、最上級グレードのHYBRID XとHYBRID Xターボのみの設定だ。加えて、タフトのGとGターボには、アダプティブドライビングビームも装着されている。この機構は、ハイビームで走行中に先行車や対向車を検知すると、部分的に遮光することで、夜間の視認性を確保しながら、他車への眩惑を抑えるというものだ。ハスラーにも、ターボ車にはハイビームで走行中に対向車などを検知するとロービームに自動で切り替えるハイビームアシストを採用するが、ドライバーの負担軽減や夜間の視認性ではタフトが採用する機能のほうが優れている。

熟成を重ねたハスラーと、先進装備で追い上げるタフト

ハスラーは、初代モデルの機能やデザインなどを継承しつつも、より熟成させた高い実用性や基本性能の高さが魅力だ。とくにシートアレンジの豊富さやマイルドハイブリッド機構による高い燃費性能などには、一日の長がある。対するタフトは、最新の運転支援システムや安全装備などによる安心感、そして、なによりスカイフィールトップに代表される快適装備の充実が魅力だ。

軽自動車のSUVという点でライバルとされる2台だが、ここで挙げたとおり、見た目以上に特徴や優れる点は異なる。だが、それらは両車にそれぞれ違う魅力があり、それぞれにユーザーをひきつける力があるということだ。冒頭で紹介した両車の好調な新車販売台数が、それを証明している。