農水省による「和牛肉等販売促進緊急対策事業」には約1,400億円の予算が……

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新型コロナウィルス感染拡大の第1波が日本を襲った昨年3月。

海外からの観光客激減と営業自粛で外食の需要が落ち込むなか、「余った和牛をなんとかしよう」と、政府が「お肉券」配布構想をぶち上げたことをご記憶されているだろうか?

当時、SNSなどには、

《大勢の国民が苦しむなか、特定の団体や産業を優遇するのはいかがなものか?》
《税金と票を交換するやり方はダメ!》

などという批判の声が上がり、この構想は頓挫したように見えた。

ところが、この「お肉券」構想、小中学校の“和牛給食”へとカタチを変え、昨年5月から実施されていたのだ。

この農水省による「学校給食提供推進事業」は、令和2年度補正予算に約1,400億円が計上された「和牛肉等販売促進緊急対策事業」の一環。

児童・生徒1人あたり和牛肉300グラムまでを対象に、100グラムあたり最大1,000円の助成金が食肉事業者に支払われる。東京都を例にとると、2021年1月4日から2月27日までの期間中に各校3回まで、各回1人あたり100グラムまでの和牛肉が給食に提供されることになっている。

そのメニューはこうだ。

兵庫県内の小中学校では神戸牛のシチューや、すき焼き。三重県内の小中学校では、松阪牛や伊賀牛を使用したさいころステーキ、といった超豪華ラインナップ。

2020年11月末時点ですでに、東京都をのぞく46道府県、のべ3万5千校に余った高級和牛肉が提供されてきた。

当時、農林水産大臣だった江藤拓氏は「和牛を食べたことがないまま大人になるよりも、年に1回でも食べる機会があるほうがよい」と、あくまでも“子どものため”であることを強調していた。たしかに“食育”による和牛肉の需要促進ということであれば、悪いことではなさそうだが……。

■「なぜ特定の団体や業界だけを支援?」との批判も

しかし、10都府県で2度目の「緊急事態宣言」が発令中のいま、「そんな予算があれば、ほかに回してほしい」という声も少なくない。

先日、自身のFacebookに《学校で100グラム1000円の和牛を配ることに!? 人々の声は聞こえないのか??》と投稿した東京都・練馬区議の岩瀬たけし氏を直撃してみると、こんな答えが返ってきた。

「先日、練馬区でも小中学校の給食に3回、和牛を提供すると発表がありました。練馬区の児童・生徒は合わせて約4万6千人ですから、単純計算で1億3千万円以上にもなります。

もちろん、子どもたちが良い食材を食べることを否定するものではありません。

しかし、この間、私のところにも『コロナの影響で仕事が減って給食費を支払うのも厳しい。せめてもう少し安くしてほしい』といった区民からの声が多数寄せられています。

多くの人が苦しんでいるのに、なぜ特定の団体や業界だけ、支援するのでしょうか」

保護者が負担する給食代は地域によって異なるが、文部科学省が平成31年に調査した結果によると、小学校は月額平均4,343円、中学校は月額平均4,941円。

「和牛に使う税金3,000円を給食代にあてれば、10日分くらいが無料にできます。コロナ禍のいまは、地域の子ども食堂の多くが閉鎖されているので、和牛以前に、基本的な食事がそもそも不足しているお子さんも少なくない。まず生活支援を優先すべきでは」

岩瀬さんは委員会で「和牛以外の食品や目的に補助金を回すことはできないのか」と確認したが、国から指定されているため、自治体レベルではどうすることもできないとのことだったという。

「収入が減って家賃の支払いが困難になった人が申請できる“住居確保給付金”という制度があるのですが、(コロナ禍で)要件が緩和されたとはいえ、練馬区でも昨年11月の段階で、申請件数が前年の50倍以上の約3,300件に上っています。しかも申請者の約8割が20〜40代です。

国として、和牛よりももっと必要な支援が、いまはあるんじゃないでしょうか」