「Sクラス」としては7代目となるW223型に進化した(写真:メルセデス・ベンツ日本)

メルセデス・ベンツ日本は、同社のLセグメントフラッグシップモデル「Sクラス」のフルモデルチェンジを発表。2021年1月28日より、販売を開始した。

Sクラスはいつの時代も、その時点でメルセデスが持てるすべての技術が搭載され、世界の自動車の指標とされてきたモデルだ。先代は2013年に発表され、累計販売台数は世界で50万台を超えるなど、「最も選ばれているラグジュアリーセダン」の1台となっている。


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今回、8年ぶりにフルモデルチェンジされた新型Sクラスは「Sensual Purity(官能的純粋)を追求したデザイン」「人間中心の最新技術」「安全性の更なる追求」など、「現代に求められるラグジュアリー」が再定義され、その充実が図られたメルセデスの意欲作だ。

エクステリアデザインは、メルセデスが掲げる「Sensual Purity」と称するデザインの基本思想に基づき、ラインやエッジを大幅に削減。曲線を描く彫刻的な面によって特殊な陰影が生み出され、シンプルかつクリーンでありながら存在感を放つ最新の「ラグジュアリー」が再定義された、今後のメルセデス・ベンツ車のデザインを牽引するものとなっている。

ラインやエッジを減らし“面の張り”で表現

ヘッドライトには、3点が光るデイタイムドライビングライトが備えられており、先代より薄く、小さく、エッジの効いたデザインとなった。緩やかな多角形のラジエーターグリルとともに、フロントエンドはクールでありながらラグジュアリーな印象となっている。

サイドビューは、短いフロントオーバーハングと長いホイールベース、そして高いステータス性を表す長いダッシュ・トゥ・アクセル(前車軸からAピラー下端までの長さ)など、フラッグシップセダンとして均整の取れた基本プロポーションを継承。ラインやエッジを大幅に削減し、美しい面の張りや陰影でラグジュアリーを表現したことが新しい。

前面投影面積がわずかに拡大したにもかかわらず、Cd値は最小で0.22とすることで、世界最高水準のエアロダイナミクスを実現するなど、高い省燃費性能も併せ持っている。

ドアハンドルは、メルセデス・ベンツ車で初めて格納型となった。走行時はボディと面一になるよう格納され、ボディをよりスタイリッシュに見せる。この格納型ドアハンドルは、万が一の事故の場合にも自動でせり出すため、従来どおり強い力で外部から引っ張ってドアを開けることができるなど、安全性も考慮されており抜かりはない。

デジタルとアナログが調和したインテリア

新型Sクラスのインテリアは、すべての乗員が自宅にいるかのようにくつろげる空間を目指したという。外観同様、デザインについては“ラグジュアリーの再定義”が行われ、デジタルとアナログの調和が図られた。

インパネ中央に位置する12.8インチの「有機ELメディアディスプレイ」は、センターコンソールからシームレスにつながる縦型のディスプレイとなり、ここに機能を集約することで、スイッチ類を減らし、シンプルでクリーンな印象に仕上げられている。

ステアリングホイールは、ユリの花からインスピレーションを得たという造形の最新世代のもの。エアバッグを内蔵しながらも、非常にコンパクトに仕上げられているのが特徴だ。


有機ELメディアディスプレイに操作系を集中させた(写真:メルセデス・ベンツ日本)

今やラグジュアリーセダンになくてはならない「アンビエントライト」は大幅に改良され、LED光源の数が40個から標準ボディで247個、ロングボディで263個に。最大200カンデラという明るさは、先代の10倍にもなり、周囲の明るさに応じて日中モードと夜間モードが自動で切り替わる。

流れるような光の効果や、光の帯内部での緩やかな変化を生み出すほか、単色の発光に加えて、色に連続変化をつけることも可能で、停車時にドアを開けようとした際に危険がある場合、赤く点灯して警告する機能も備える。

「Burmester3Dサラウンドサウンドシステム(パーソナライゼーション機能付き)」は、特別なBurmesterアルゴリズムと2個のヘッドライナー内蔵スピーカーを搭載し、合計15スピーカー、710W出力のオーディオシステムだ。

また、サブウーファーを含む合計30個のスピーカーと2基のアンプ、合計1750W出力の「Burmesterハイエンド4Dサラウンドサウンドシステム」は、3次元の豊かな音響にさらにもう1つ次元を加えた4Dサウンドを実現。これは、各シートに振動を伝達するエキサイターを採用することで、シートの振動で音楽を表現するシステムとなっている。

この2つのBurmesterサウンドシステムのいずれかを搭載した場合、会話の音声を拡大してスピーカーから流し、乗員同士のコミュニケーションをサポートする機能が装備される。

「エナジャイジング コンフォート」により、各種ヒーターやパフュームアトマイザー、シート設定、照明や音楽等のシステムを統合的にコントロール。「リフレッシュ」や「トレーニング」など5つのプログラムから選択することが可能となっている。さらに、シートクッションとバックレストのわずかな動きによって着座姿勢の変化をサポートする、「エナジャイジングシートキネティクス」が標準装備されている。

後席は、新たにシートにヒーター機能付きの追加ヘッドレストクッションを採用。これは内蔵された膜ヒーターを使って乗員の頭や首を気持ちよく温めるもので、ヒーター機能はシートヒーターを介して起動する。


ロングボディモデルのリアシート(写真:メルセデス・ベンツ日本)

後席左右のエアバッグは、世界初採用。エアバッグの外縁部はチューブ状となっており、ガスによって強く膨張する一方で、その内側となる中央部は周囲の空気を取り込んで柔らかく膨張し、乗員の体格やチャイルドシートの有無など、状況に応じて効果を発揮する仕組みとなっている。

さらに「SRS ベルトバッグ」および、座面の前部を跳ね上げることで前面衝突時の乗員の潜り込みを防止する「クッションエアバッグ」と組み合わせることで、より一層後席の安全性が高められた。

なお、さらなる静かさを追求するために、ボディシェルの一部に遮音発泡材が採用された。これにより、Cピラーを通した音の伝達など、ボディ構造内の遮音性能が大幅に改善されている。さらに、ファイアウォール遮音材をAピラーの側面やフロア部まで延長しているという。

スマホのようにダイレクトに操作できるクルマ

新型Sクラスはドライバーの顔、指紋、声の3種類いずれかの生態認証もしくはPINコードによる計4種類の認証が可能となっている。

どれか1種類の認証により、シート、ステアリング、サイドミラーのポジションやコックピットディスプレイの表示スタイル、ペアリングした携帯情報端末やナビゲーションのお気に入り設定などを統合し、読み込むことが可能となった。さらに、助手席や後席左右も、声、もしくはPINコードによる認証が可能で、シートポジションなどを読み込むことができる。

それに加え、世界で初めてAR(Augmented Reality=拡張現実)ナビゲーションを有機ELメディアディスプレイだけでなく、フロントウィンドウに投影するシステムをメーカー純正オプションで設定。


AR(拡張現実)を使用したナビゲーションシステム(写真:メルセデス・ベンツ日本)

従来、目的地を設定して行き先案内をする場合、地図上に進むべき道路がハイライトされるが、新型Sクラスでは、それに加えて車両の前面に広がる現実の景色がナビゲーション画面の一部に映し出され、進むべき道路に矢印が表示される。さらに、フロントウィンドウのヘッドアップディスプレイ上には、進むべき道路が約10m先の景色に矢印が重ねられて見られるようになった。

メーターパネルは、速度計などの表示が立体的に見える、「3Dコックピットディスプレイ」を採用。ドライバー側を向いた2つのカメラでドライバーの視線を追跡する技術により、特殊なメガネを使用せずにドライバーに3D映像を見せることができるのだという。

ディーゼルとガソリン48Vハイブリッドを設定

パワートレインは、ディーゼルとガソリン計2タイプをまずはラインナップ。

「S400d 4MATIC」は、可変タービンジオメトリーを採用する2ステージターボチャージャーを組み合わせた3.0リッター直列6気筒ディーゼルエンジンで、最高出力330PS(243kW)、最大トルク700Nmを発生する。

「S500 4MATIC」は、コンパクトな3.0リッター直列6気筒ガソリンエンジンに「ISG(インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター)」「48 Vボルト電気システム」などの技術を搭載。エンジン単体で最高出力435PS(320kW)、最大トルク520Nmを発生させ、さらに、最高出力22PS(16kW)、最大トルク250Nmを発生する電気モーター「ISG」を組み合わせる。

「48V電気システム」は、回生ブレーキによる発電を行うことで、容量約1kWhのリチウムイオンバッテリーへの充電が行われるだけでなく、エンジンが低回転時には、その電力を利用して動力補助を行うことで、高い効率性と力強い加速を実現するものだ。

このモーターはシフトチェンジ時にも使用され、エンジンが理想的な回転数に達するまでの時間を最小限に抑えるためのアシストも行っているという。これによりシフトチェンジに必要な時間が短縮され、スムーズでタイムラグの少ないシフトチェンジを可能としている。トランスミッションは、どちらも「9G-TRONICオートマチックトランスミッション」だ。

4輪駆動システム「4MATIC」を全車に採用したことも新しい。従来、大型なボディを有するSクラスでは、4輪駆動とすると後輪駆動よりも小回りが利きづらくなるデメリットを伴ったが、新型Sクラスでは後輪操舵システム「リア・アクスルステアリング」を採用することで、そのデメリットを解消する。


後輪操舵の採用により最小回転半径が最大1m短縮(写真:メルセデス・ベンツ日本)

約60km/h以下では、リアホイールをフロントホイールとは逆方向に最大4.5度傾けることにより、日常の走行シーンや駐車する際の回転半径を小さくすることで、クルマが扱いやすくなっている。

一方で約60km/hを超えると、リアホイールをフロントホイールと同じ方向に最大3度操舵させることにより、走行安定性を大きく向上。メルセデスの美徳である小回り性能を犠牲にしないだけでなく、中高速域での安定性や4輪駆動によるメリットもすべて並立させたのだ。

運転支援システムも全方位的にアップデート

メルセデス・ベンツの自動運転開発の次のステップは、一般道での安全運転支援はもちろんのこと、とくに高速道路での運転支援機能により、ドライバーにかかる負担を大きく軽減することだ。新型Sクラスには、これまでのメルセデス・ベンツの安全運転支援システムをさらにアップデートした新しいシステムが採用されている。

「アクティブステアリングアシスト」は、車線認識に従来のステレオカメラだけでなく、360度カメラシステムも使用することで、対応可能なカーブが増えたし、ドライバーが周囲の道路状況に反応しなくなった場合、最終的に車両を停止させる「アクティブエマージェンシーストップアシスト」は、アクティブステアリングアシストなどが使用されていない場合でも作動するよう条件が変更され、より恩恵を受けられるようになっている。

「PRE-SAFEインパルスサイド」は、側面衝突が不可避であることを検知すると、衝突側前席バックレストのサイドサポートに内蔵されたエアチャンバーが瞬時に膨張し、乗員をドアから遠ざけることで、衝撃の軽減が図られる仕様となった。また、従来と同様の機能であっても、対応速度域が広くなるなどの改良が加えられている。

日本限定販売の特別仕様車も同時受注

新型Sのクラスのラインナップは、レギュラーモデルが4種類と、発売記念限定モデル「ファースト エディション」が2種類の6種類。価格は以下のとおりだ(すべて税込み)。

<レギュラーモデル>
S400d 4MATIC:1293万円
S500 4MATIC(ISG 搭載モデル:1375万円
S400d 4MATIC ロング:1678万円
S500 4MATIC ロング(ISG 搭載モデル):1724万円

<ファースト エディション>
S500 4MATIC ロング(ISG 搭載モデル):1928万円
S500 4MATIC ロング (ISG 搭載モデル):2040万円

540台の限定販売となるファースト エディションは、S500 4MATIC ロングをベースに、さらにエクスクルーシブさを追求した特別仕様だ。

ボディカラーはダイヤモンドホワイトとオブシディアンブラックの2色が用意され、AMGライン仕様ではさらに、インテリアカラーもブラックとシエナブラウン/ブラックの2種類を設定。標準仕様では19インチ、AMGラインでは21インチと、1インチずつ大型化された専用のアルミホイールが装備される。

インテリアは、ダッシュボードや前席のセンターコンソール、ドアトリムなどにもナッパレザーが用いられ、ルーフライナーはDinamica仕様に。さらに前席背面や後席中央のアームレストの一部にもウッドトリムを装備するなど、質感を向上させている。11.6インチリアエンターテインメントシステムも特別装備だ。


S500 4MATIC(写真:メルセデス・ベンツ日本)

2020年9月にデジタルワールドプレミアされて以来、2021年1月8日の発表時点でグローバルでの受注が4万台を超えた新型Sクラス。これは、従来型Sクラスの初期受注を優に上回るペースだという。日本での販売開始が、この好調な流れに拍車をかけることができるのか、期待が高まるところである。