スポーツやライブなどに比べ、オンラインとオフラインでの開催区分にそれほど差が出ないeスポーツの大会。それでも開催が中止になるのはなぜなのでしょうか(画像:カプコンプロツアー公式YouTube動画より)

2021年1月18日、カプコンカップの中止が発表されました。カプコンカップは同社のゲームタイトル『ストリートファイターV CE』を使ったゲーム大会で、年間を通じて開催されるカプコンプロツアーでの成績上位者のみ参加できる1年を締めくくる大会です。本来であれば2020年末に開催される予定が、コロナ禍により 2021年2月に延期され、開催国もフランスからアメリカに、そして最終的にドミニカ共和国での開催となりましたがそれも中止となりました。

eスポーツは、ライブエンターテインメントの中でも、無観客試合にするだけでなく、選手すらリモートでの参加ができるため、スポーツやライブなどに比べ、オンラインとオフラインでの開催区分がそれほど大きくありませんでした。それでも選手が一堂に会して行う大会は、今回のように中止を余儀なくされています。

インターネットは通信する距離で遅延が発生する

オンラインで開催できるeスポーツでも、カプコンカップのような世界大会になると、選手は開催地に集まらなければなりません。インターネットは世界中のどこからもアクセスできますが、通信する距離によって遅延が発生してしまいます。オンライン会議などの会話であれば、多少の遅延は問題ありませんが、ゲームとなるとその遅延は致命傷と言え、遅延の具合によってはまともにゲームができないと言わざるをえません。

なので、1フレーム(60分の1秒)単位での操作や確認が必要となる対戦格闘ゲームでは、オフライン(対面)での対戦が最適で、オンラインでも遅延が発生しにくい距離、例えば日本であれば日本国内、遠くても近隣のアジア諸国との対戦しかままならないわけです。

その結果、カプコンカップへの前哨戦となるカプコンプロツアーも2020年は大きく様変わりしました。大会数は半減し、すべてがオンラインでの開催に変更しています。そして、各大会は、先ほどの遅延の問題から開催地の近隣の国や地域からしか参加できなくなってしまいました。

カプコンプロツアーの各大会は、オープン大会のため、誰でも参加が可能で、開催国まで渡航すればいくつもの大会に参加することができます。各大会では成績に応じたポイントが獲得でき、そのポイント数が高い順にカプコンカップの出場権を得る仕組みです。2〜3大会優勝できればカプコンカップへの参加ができますが、そこまでの成績が残せなくても大会数を重ねることでポイントを稼ぐことができるわけです。

『ストリートファイターV CE』をプレイする日本人選手は人気、実力ともに世界で活躍できる選手が多く、eスポーツチームやスポンサーの支援によって、世界各国へ渡航することができます。実力に加えて参加大会の多さからほかの国の選手とのポイント差を付け、多くの選手がカプコンカップへの出場を果たしています。カプコンカップ2020では、出場枠の約半分である15人が日本人選手でした。

しかし、2020年はオンライン開催になり、コロナ禍で現地に飛ぶこともできなくなったので、日本にいながら参加可能な大会しか参加できなくなりました。また、2020年はポイント制を廃止し、各大会の優勝者がカプコンカップへの出場権を得る形に変わっています。


南米や東南アジアなど世界各国で大会を開催し、カプコンカップへの出場者が決定した(画像:カプコンプロツアー公式サイトより)

日本人選手が参加できる大会は、“アジア・東”大会のみ。アジア・東は2大会開催が予定されているので、日本人選手がカプコンカップへ出場できる可能性は最大で2人までです。

実際は、アジア・東には韓国や台湾、香港からも出場ができるので、昨年と比べるとかなり狭き門となります。結果としては、アジア・東1大会では、ウメハラ選手が、アジア・東2大会ではガチくん選手が優勝し、日本人最大枠分の選手が出場権を得ました。ちなみに、カプコンカップ自体は中止となりましたが、代替イベントとして、出場権を持つ選手によるエキシビションマッチの配信を検討していると運営が発表しています。

「強い選手」だけが出場すべきとは言えない

カプコンカップへの出場を果たせなかった日本人選手の中には、各地域の大会を優勝した選手よりも実力を持った選手が何人もいます。枠の制限によって、それらの選手はカプコンカップでの勇姿が見られなくなってしまいました。

強く、実力のある選手がカプコンカップへ出場することを望むのはファン心理としては当然のことですが、『ストリートファイターV CE』の普及、eスポーツの人気拡大を考えると、今回の措置があながち間違っているとも言えません。

サッカーのワールドカップは地域枠があり、それぞれの枠内で出場国を決定します。サッカー王国の多い、南米や欧州はほかの地域よりも出場枠が多いものの、枠に漏れた国の中には、ほかの地域の出場国よりも強豪国は多くあるわけです。世界全体で予選を行ってしまったら、アジア枠は1つもなくなってしまうかもしれません。それでもアジア枠があるのは、アジアから出場国が必ず出ることで、アジアでのサッカーへの関心を高める効果が十分にあるからです。

カプコンプロツアーも実力があるとはいえ、世界各国を飛び回りポイントを稼いでカプコンカップを出場することで、地元の選手がカプコンカップへ出場できなくなるのであれば、その地域での『ストリートファイターV CE』の関心をつかみにくくなってしまうかもしれません。また、世界各国を飛び回っている選手やチームにとっても、月に1〜2回海外に渡航しなくてはならない状況は練習時間の確保の面でも金銭的な面でも厳しく、それが緩和されたことは喜ばしい側面です。

そういった意味では、今回のカプコンプロツアーはグローバルに展開するためにはいい施策だとも言えます。

ただ、そういった観点があったとしても、アジア・東の枠が2つしかなかったというのは、やはり少なすぎたと言わざるをえません。

多くの強豪日本人選手の出場がかなわなかっただけでなく、韓国、香港、台湾からは1人も出場できていないわけです。韓国、香港、台湾は日本、北米に続く『ストリートファイターV CE』の強豪国です。韓国にはINFILTRATION選手やNL選手、香港にはHUMANBOMB選手、台湾にはOIL KING選手やGAMERBEE選手、ZJZ選手など、トッププロがいます。彼らのカプコンカップへの出場の道が今後も困難となってしまうのであれば、それらの国での『ストリートファイターV CE』の人気に陰りがでる可能性もあるわけです。

「狭き門」になることによる弊害

2020年、日本ではオンライン大会の数が増え、選手がストリーマー(動画配信をする人)として活躍するようになりました。国内での活動が盛んになることは望ましいことですが、頂点にカプコンカップがあることが重要なわけです。これがあまりにも狭き門となってしまうと、世間からの関心も薄れ、カプコンカップの価値自体を疑問視することになりかねません。

2020年のカプコンカップは中止となったため、結果的にカプコンプロツアーで選出された選手がカプコンカップへ出場することはなくなったわけですが、参加枠について見直さない限り、2021年以降も同様の問題は発生します。そもそも2021年も新型コロナウイルスの状況の見通しがつかない現状では、カプコンプロツアーが開催されるかどうかは未定です。もし2020年と同様にオンラインでの開催にするのであれば、地域の大会数やカプコンカップへの出場枠に関しては今一度、検討しなおしていただきたいところです。

サッカーのワールドカップも欧州枠はアジア枠の3倍近くあります。eスポーツでも『リーグ・オブ・レジェンド』の世界大会であるWorldsの出場枠は前年のチームの活躍度合いに応じて、在籍する国ごとの割り振りは変えています。カプコンカップ2019のベスト8中5人が日本人選手だった実績からも、最低4枠、できれば6枠はあってしかるべきでしょう。参加人数が例年どおりの32人になるのであれば、8〜10枠が妥当ではないでしょうか。

2021年もコロナ禍により、オフラインでの大会開催は厳しくなる可能性はあります。昨年と同様に地域性の高いオンラインでのカプコンプロツアーが開催されるのであれば、より完成度の高いツアーになることを期待しています。