「コロナ対策」は形だけ、緊急事態でも走り続けるしかない中小企業の現実

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「年末に隣の部署から感染者が二人出て、年明けには私の部署からも一人出ました。濃厚接触者も多数いると思われるのに、会社は検査を促すどころか、社員一人一人を個別に呼び出し、他言無用だと釘を刺しているのです」

 こう話すのは、東京都内の不動産会社勤務・坂下真由さん(30代・仮名)。新型コロナウイルスの感染者が再び増加し、大都市圏を中心に緊急事態宣言が発出。東京では1日の感染者数が2000人を超えると、身近な人が「感染した」という話も珍しくなくなった。

 坂下さんの会社でも、複数社員の感染が発覚しているが、それでも会社は出社する社員を減らすなどの「対策」を取る気配が一向にないという。いったい、なぜなのか?

◆発覚しても「休業できない」中小・零細企業の現実

「大きな会社ではありませんから、一人ひとりの業務量が多いことも原因ですが、部署の三人も休まれると、業務はたちまち回らなくなる。部長も『コロナは怖い』と口にしながらも、同業のライバル会社が稼働しているうちは業務を続けるしかないと言っています」(坂下さん)

 実は、そのライバル会社でも感染者の存在が発覚しているのだが、今も普通に営業しているそうだ。3月の決算も近く、売上では負けていられないという「チキンレース」の様相を呈している、というのが坂下さんの見解である。

 一部の大企業では、政府や自治体の要請に応じる形で、社員の多くが「テレワーク」に移行しているとも伝わっているが、中小・零細企業では、そんなことは「戯言」として捉えられているという現実もある。

◆コロナ“バブル”による業績アップの裏で…

 Web広告代理店勤務・野老隆さん(20代・仮名)も、社内に少なくとも二人のコロナ感染者が出たが、会社がその事実を「隠蔽」しているのだと訴える。

「昨年の緊急事態宣言後は、社員の半分をテレワークにするなどしていましたが、秋以降はほとんど出社体制。2回目の緊急事態宣言下に入った今年、社員二人のコロナ感染が発覚しましたが、会社のトップである会長にはまだ報告がされていないんです。そんなバカなと思いましたが、数日前に会長が“見回り”にやってきて、みんな元気でやっているな、という感じでしたので、本当に知らないようです」(野老さん)

◆まるで意味ナシ、形だけのコロナ対策

 衝立や消毒液の設置もなく、コロナ前と変わらない“密状態”で仕事をしていたが、会長の“見回り”情報がもたらされると、社員の半分ほどに「外に営業に出ろ」と所属長から指令が出たという。一見すると、社員の半分が出社していない状態を“演出”させられたとも話す。

「会社の入り口にはその日だけ、消毒液が置かれていました。もちろん社員は不安だし不満ですが、コロナ禍以降、ネット広告の出稿量が増えていて、正直いまは休むわけにはいかない。コロナうんぬんよりも、石にかじりついてでも契約をとってこいと、ハッパをかけられているような状態です。一部の社員が保健所や役所に通報していますが、まるで取り合ってくれないと言います」(野老さん)

 コロナ禍による、ある意味“バブル”とも言える恩恵に預かる会社では、もはや「感染」自体が問題として捉えられなくなってさえいる。

◆感染中もリモートで仕事を続けざるをえない

 首都圏の物流会社勤務・吉川良平さん(30代・仮名)は、自身がまさに感染中にもかかわらず、仕事を続けざるをえないという。

「通販需要の増加で、扱い件数は右肩のぼり。コロナなんか関係ない、今がチャンスだと社員が一丸となって頑張っていましたが、昨年末に私の感染が発覚。所属長に報告して、出社するなとは言われましたが、リモートワークで仕事は変わらず続けています。上司は『症状がないのなら仕事しろ』と。たしかに、体が少しだるいだけなので仕事はできますが、家族からは猛非難をくらっています」(吉川さん) 感染者が珍しくなくなった今。一年前はあれほど恐れられていた「感染」に対する感覚が麻痺してきたのだろうか。人命の安全よりも「経済が優先」という感覚は、政府や権力者だけでなく、小さな会社のトップやリーダーたちにまで刷り込まれてしまっているのかもしれない。<取材・文/森原ドンタコス>