一時は飛ぶ鳥を落とす勢いで店舗を急拡大した「いきなり!ステーキ」は、2019年後半から客数減で急速に失速して赤字に陥り、さらにコロナ禍の直撃で、今や店舗の大量閉店に追い込まれている。一方でニトリくら寿司のように、コロナ禍でもいち早く復活して店舗数・売り上げ・利益ともに順調に成長を続ける小売業者もある。彼らの違いは何なのか?

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 マーケティング戦略コンサルタントであり、『世界のエリートが学んでいるMBAマーケティング必読書50冊を1冊にまとめてみた』の著者でもある永井孝尚氏が、その背景について語った。

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103店舗の大量閉店に追い込まれた、いきなり!ステーキ

 店舗を順調に増やしつつ売り上げ・利益も拡大するのは、実に難しい。好調なので大量出店を続けたものの、ある時を境に急激に低迷する小売業者は、実に多いのだ。


※写真はイメージ ©iStock.com

 最近ではその典型が、いきなり!ステーキだ。一時期は絶好調。2014年6月はわずか4店舗だったが、わずか5年後の2019年12月は493店舗に急拡大。「急成長を楽しむ」というスローガンの下で大量出店を続けた。

 しかし過剰出店で店舗商圏が重なって自社内競合が起こり、さらに急拡大に伴う人手不足とスキル不足で客が離れ、加えて新型コロナ拡大による売り上げ減少も重なり、103店舗の大量閉店に追い込まれた。(同社IR情報より)

 対照的にニトリやくら寿司のように、長年にわたって店舗数・売り上げ・利益をともに着実に成長させ、好調を維持する小売業者もある。

 ニトリの店舗数は、2000年は50店舗、2005年は116店舗、2010年は217店舗、2015年は373店舗、そして2020年は615店舗だ。店舗拡大ペースは徐々に上がっているものの、直近5年間は年50店舗弱のペースを守っている。2020年10月2日発表の決算によると、コロナ禍にあっても巣ごもり需要をとらえ、6〜8月の売上高は対前年+31%の成長を果たしている。

 くら寿司はさらに手堅く店舗数を増やしている。2005年は126店舗、2010年は252店舗、2015年は362店舗、そして2020年は507店舗。この15年間、毎年25〜26店舗のペースを守って着実に店舗数を増やしている。2020年12月4日発表の決算説明会資料によると、4〜6月のコロナ禍による打撃から立ち直り、9月以降は「鬼滅の刃」とのコラボキャンペーンもあって対前年度プラス成長に戻っている。

 両社とも店舗拡大とともに売り上げ・利益も成長しており、コロナ禍からもいち早く立ち直り業績も堅調だ。そして業績好調でも店舗を急拡大しない点も共通している。(いずれも両社のIR情報より)

いきなり!ステーキと、ニトリ・くら寿司の決定的な違いは……

 いきなり!ステーキと、ニトリ・くら寿司の決定的な違いは、「チェーンストア理論」を忠実に実践したか否かだと筆者は考えている。小売業で多店舗を展開する場合、チェーンストア理論は必要不可欠だ。かつてスーパーマーケット各社も1960年代からチェーンストア理論を実践して大きく成長した。

 チェーンストア理論のポイントは、性急に店舗を急拡大せずに、じっくり仕組みを作り込みながら拡大していくことだ。

 このチェーンストア理論は、「国民の豊かな暮らしを実現したい」と考えた経営コンサルタントの渥美俊一氏が提唱した理論である。渥美氏は日本の小売業を長年にわたり発展させた功労者であり、流通業界では広く知られている。そこで渥美氏の著書である『21世紀のチェーンストア』を元に、チェーンストア理論の考え方を紹介していこう。

成長に必要不可欠な「2つのステップ」

 チェーンとは「鎖」のことだ。鎖の一つひとつの輪は小さく弱い。しかし一定の法則で多数の輪がつながれば強くなり、大きな力を発揮する。この鎖のように「多数の店をシステムでつなげて、1つの店でできない力を出そう」というのが、チェーンストア理論だ。

 チェーンストアとは、11店舗以上の店を集中管理して販売する小売業者のこと。

 店舗数が増えると大きな効果が生まれ、大規模になればよい商品を安く提供できるようになる。参考までに「お、ねだん以上。」のニトリは615店舗だ(2020年5月時点)。

 ただし、単に店舗数を増やすだけではダメだ。チェーンストアの作業や仕組みを、次のように標準化して作り込んでいくのだ。

(1)     まず、その店舗の運営にベストの方法を発見する。

(2)     関係者を教育する。

(3)    その通り実行できる状態にする。その上で、

(4)     一定期間が過ぎたらルールを改善・修正し、

(5)     上記(1)から(4)の手順を繰り返して、例外発生を減らしていく。

(4)〜(5)を実践したニトリやくら寿司は成長を続けている。しかし、(4)〜(5)をサボってしまい、途中で低迷し始める小売業者が実に多い。店舗を着実に増やすには、この仕組みを常に回し続けて、仕組みを作り替えながら、改善に次ぐ改善を愚直に行い続ける必要がある。では、なぜそんなことをしなければならないのか?

200店舗を超えるとチェーンストアは威力を発揮し始める

 あなたはチームを任された時、ある人数を超えた途端に急に管理が難しくなる経験をしたことはないだろうか? たとえば部下2人の時はあうんの呼吸で一緒に仕事ができても、10名に増えると一人一人と細かい意思疎通ができなくなり、25名を超えると一人一人の行動把握が不可能になり、50名を超えると自分一人では管理できなくなる、という感じだ。

 小売業でも同じことが起こる。店舗数が5店舗を超えると管理の限界を感じるようになり、20店舗で命令が無視され、30店舗で現場の報告が信頼できなくなる。

 チェーンストア理論では、仕組みづくりをすることで、各々の段階を乗り越える。ここで重要なのが「マス」という概念だ。「ある一定量を超えるとまったく新しい性質を得て、新しいことができるようになる」という意味だ。

 20〜30店舗の壁は、まったく新しいマネジメントの仕組みをつくれば乗り越えられる。しかし50〜100店舗で次の限界がくる。ここで時間をかけて経験を積み重ね、綿密で周到な新しいシステム設計を行う必要がある。この段階を乗り越えれば従業員の考え方や行動が変わり始め、企業文化のレベルが一気に上がる。200店舗を超えるとチェーンストアが大きな威力を発揮し始め、500店舗を超えると、異次元の効果を発揮するようになる。

 ニトリの似鳥昭雄会長はインタビューで、「200店になると交渉力は倍になった。さらに原材料を調達して集中発注して、さらに価格を下げられた」と述べている(日経ビジネスオンライン『似鳥社長、巷に広がる「チェーンストア限界論」に物申す』2015年)。

 店舗急拡大の末に好業績から一気に転落する小売業者は、この新しいシステムづくりをサボったまま大量出店した結果、管理不能になって低迷しているのだ。要は自ら墓穴を掘っているのである。

 このようにチェーンストア理論では、本部による大量集中仕入れでコストを徹底的に下げ、店舗作業を徹底的に標準化し、例外が出ないようにして規模の経済を追求し続ける。その結果、適切な品質の商品を、常に廉価で提供し続けることができるのだ。

「チェーンストア理論」は時代遅れか?

 1960年代に生まれたチェーンストア理論は日本の小売業を大きく発展させたが、いまや「チェーンストア限界論」もささやかれるようになった。

 チェーンストア理論の基本は、本部主導の徹底管理だ。各店舗に仕入れ権限などをもたせる個店経営は否定している。

 しかし一方で、ドン・キホーテは店舗に自由裁量を与えて個店経営を突き進み、成長を続けている。2019年には業績が低迷していた総合スーパー・ユニーに出資し、ユニー店舗を「ドンキ化」して、チェーンストア経営から個店経営に大きく切り換えた。売る気持ちが弱かった現場社員に仕入れ権限を与えて自ら売るように変えて、業績は一気に改善した。

 ユニクロでは、都市部の大型店舗には本部から現場へ大幅に権限を委譲した。

 小売業各社も脱チェーンストアという言葉を使うようになった。

 では、チェーンストア理論は限界なのか?

 ニトリはチェーンストア理論の優等生だ。似鳥会長は「人生の師匠」と呼ぶ渥美氏からチェーンストア理論を忠実に学んで実践してきた。コロナ禍にあっても34期連続増収増益と業績は絶好調を継続している。似鳥会長は先のインタビューでこう語っている。

「チェーンストア限界論が言われるのは、それができていないからだ。チェーンストア理論は正しい」

 また法政大学の矢作敏行名誉教授は「店舗が地域や立地に合った品揃えや店舗運営をするのは当たり前。商品別・店舗別・地域別に売れているものがわかるのは、チェーンストアの強み。個店で最適な品揃えができるのもこの情報のおかげだ。個店経営はチェーンストア理論の否定ではなく、進化形だ」と述べている(『販売革新』2015年11月号)。

 いまの客は店のフロアで何を買うかを決める。店舗に権限委譲して判断できれば、ドンキのように売り上げは大きく上がる。チェーンストア理論が個店経営に進化するのは、歴史の必然なのだろう。

 米国小売業から貪欲に学び続けた結果、日本で独自に進化し、日本の小売業発展に貢献をしたチェーンストア理論は、いまだに有効だ。しかし理論が提唱された1960年代当時から社会は変わった。チェーンストア理論を改めて学び、さらに進化させることで、日本の小売ビジネスは拡大できるはずだ。

(永井 孝尚/文藝春秋 digital)