スキルよりも「全肯定」ができれば話し方にも自信が持てるようになります(写真:YUJI/PIXTA)

3坪のたこ焼きの行商から、口コミだけで県外から毎年1万人を集める大繁盛店を作り、ユニークな人材育成法をこれまで延べ45万人に伝えてきた永松茂久氏。その永松氏がコミュニケーションの秘訣を明かし、2020年いちばん売れた会話の本『人は話し方が9割』より、「自己肯定感の上がる話し方の秘訣」について解説します。

「いい話し方」は時代によって変わる

「自己肯定感」

この言葉を、耳にしたことのある方も多いのではないでしょうか?

最近テレビや雑誌でよく取り上げられるようになったこの言葉、よくご存じない方のために紹介しておきましょう。

この言葉は、読んで字のごとく「自分自身のことを肯定できているか?」ということです。

例えば、「自分は今、しっかりと自分の人生を生きている。周りの人が何と言おうと、自分は価値のある人間だ」。

こうすぐに口に出せる人は、自己肯定感の高い人。

一方、「自分に自信がない」「周りの人からどう思われるかをどうしても気にしてしまう」という人は自己肯定感の低い人、ということになります。

では、その日本人の自己肯定感は今、世界基準から見てどの位置にあるのでしょうか? 高校生を対象にしたリサーチで、先進7カ国を対象にしたデータを見ると、なんと日本は7位。最下位です。

これは、とても大きな問題です。いくら高校生を対象にしたものとはいえ、この数字は日本の現在の状況そのものを表しているといってもいいでしょう。

その縮小版が、あなたの日常です。あなたの周りにいる人、その多くが自己肯定感の低さに悩んでいます。

人は幼い頃から「言葉」、つまり「周りの人の話し方」の影響を受けて育ちます。

自己肯定感の高い大人たちから育てられた子どもは、自己肯定感の高い大人に育ちます。周りに自己肯定感の低い大人が多いと、自己肯定感の低い子どもが育ちます。

ということは、今の日本の大人は自己肯定感の低い人が多いのかもしれません。

欧米人に比べ、日本人はコミュニケーション、つまり話し方の下手な民族と言われてきました。ただ昔であれば、これについては反論できました。

「日本には以心伝心といって、話さなくとも、行間を読み取る力がある」

しかし、欧米文化が生活の至るところに浸透した現在、その言葉は過去のものとなっています。

この現実を踏まえると、今の日本では好むと好まざるとにかかわらず、言葉、話し方、コミュニケーションの「見える化」が必須となってきています。

つまり、「いかに話すか?」「いかに伝えるか?」が人間関係を作っていくための大きな要素となっているのです。

さて、前提はこれくらいにして、ここからは現実的な話をします。

「いかに話すか?」が大きな課題となっている日本において、人間関係がうまくいっている人は、どんな話し方をしているのでしょうか?

話すことへの苦手意識を持ってしまう原因

「人前で話したとき、急に頭が真っ白になってしまった」

「何を言っているのかわからない、と言われて自信をなくした」

「声が小さい、と言われてどうしていいのかわからなくなった」

こうした苦い経験が元となって、「自分は話すのが苦手」と思い込んでしまっている人は少なくないでしょう。

これは、話し方における自己肯定感が失われてしまっている状態。

あまり知られていませんが、自己肯定感をなくしてしまったメンタルの状態を「自己否定感」と言います。

健全な自己肯定感を持つことは、自信の源になります。裏を返せば「うまく話せない」「いい人間関係を築けない」は、自己否定感の元にもなりうるのです。

みなさんもおわかりのとおり、本来は一度や二度の失敗で「話すことが苦手」という強迫観念を持つ必要はまったくありません。

しかし「話すことが苦手」と思い込んでいる人の多くは、数少ない失敗や心ない誰かの指摘が原因となって、話すことに苦手意識を持ってしまっています。

そんな人も、自分をラクに楽しく肯定できれば、確実に話し方はうまくなっていきます。また、人間関係も今よりずっとラクに、良好になっていきます。

先日、こんな相談を受けました。

「知り合いに住んでいるところを聞いたら、『そういうことを聞かれて嫌な気持ちになる人もいるんだから、安易に聞いちゃダメだよ』と言われました。それ以来、誰にも住んでいるところを聞けなくなってしまいました」

人によって感じ方はそれぞれですから、相手の言い分にも一理あるでしょう。見方を変えれば、「プライベートの境界線は人によって違うから、何を言うにも慎重に」と、苦言を呈してくれたとも取れます。

しかし、一方で、私はこうも思うのです。今まで、おそらく何百人と出会ってきた中で、たった1人から言われたことを気にして萎縮してしまうなんて、もったいないな、と。

ひょっとすると、あなたも一度や二度の言葉の行き違いや感覚のズレによって傷つき、自信を失い、それが元で話すことへの苦手意識が芽生えてしまったのではないでしょうか。

ここで、私は断言します。

一度や二度の注意や失敗くらいで、会話を怖がる必要はまったくないのです。「あ、この人はこういう話題は嫌な人なんだな」と受け止め、その人に同じ質問をしなければいいだけの話なのです。

では、過去の苦い経験で失ってしまった自己肯定感を取り戻すには、どうしたらいいのでしょうか。

話している相手を否定しない

話すことを通じて失った自己肯定感は、やはり話すことを通じて取り戻すのがいちばんです。そこでキーワードになるのが、

「全肯定」

です。


「話している相手を決して否定しない、そしてあなた自身も否定させない」

ということです。

つまり、相手との間に「否定のない空間」を作るのです。

人は、自分を肯定してくれる人を肯定するようにできています。そこであなたが相手を否定しなければ、相手もあなたを否定しなくなっていきます。

「相互全肯定」の状態です。

その体験の中で、自然と自己否定感が薄れ、自己肯定感が高まっていくのです。相手を肯定すると同時に、あなた自身が「否定のない空間」に身を置くことが大切なのです。