惜しまれつつ消えたけど語り継がれる存在! 名機と呼ばれた日本のエンジン5選

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いまも注目に値する内燃機関を振り返る

 ガソリンエンジンを搭載した自動車が発明されて、現在まで135年もの歴史を刻んできました。この長い歴史のなかでクルマは目覚ましい進化を遂げましたが、なかでも動力の進歩の歴史だったといえます。

いまでも語り継がれる名エンジンを搭載したクルマたち

 長くガソリンエンジンやディーゼルエンジンが、クルマの動力として活躍してきましたが、近年はエンジンとモーターを組み合わせたハイブリッドの登場や、量産電気自動車が誕生したことで、動力は一気に多様化しました。

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 一方で、現在もまだまだガソリンエンジンが動力の主役であり、進化の歩みは止まっていません。

 そこで、自動車用動力の原点というべきガソリンエンジンのなかから、名機とよばれる日本のエンジンを、5つピックアップして紹介します。

●日産「RB型」

レースに勝つために「RB26DETT型」を搭載した「R32型 スカイラインGT-R」

 過去に日産が作ったエンジンのなかで、「L型」や「A型」、現在もミドルサイズ以上のモデルで主流の「VQ型」など、数多くの名作がありますが、なかでも強く記憶に残っているのが「RB型」ではないでしょうか。

 RB型は直列6気筒専用に開発されたエンジンで、L型6気筒の基本骨格をベースに設計し、堅牢で信頼性の高い鋳鉄製エンジンブロックを採用して、バルブ駆動にはSOHCとDOHCを設定。排気量も2リッターから3リッターまで、バリエーション豊かです。

 初めてRB型が搭載されたのは1984年に発売された5代目「ローレル」で、最高出力130馬力(グロス)を発揮する2リッターSOHCの「RB20E型」でした。

 その後、「スカイライン」や「セフィーロ」、「フェアレディZ」にも搭載され、RB型をベースにしたディーゼルの「RD型」も開発されました。

 そして、RB型が名機と呼ばれる所以となったのが、1989年に発売された「R32型 スカイラインGT-R」に搭載された「RB26DETT型」です。

 RB26DETT型はスカイラインGT-R専用に開発されたエンジンで、2.6リッター直列6気筒DOHCツインターボとされ、最高出力は280馬力を発揮。あくまでも馬力自主規制の上限が280馬力だったというだけで、実力はもっと上にあったといいます。実際にツーリングカーレースでは500馬力以上を発揮するなど、まさに無敵を誇りました。

 RB型は2004年にVQ型にスイッチされるかたちで消滅してしまいましたが、いまもRB26DETT型の素性の良さは注目され、2021年1月にはチューニングメーカーのHKSが現在の技術力を駆使して、給排気系と燃料系の改善、燃焼状況の向上を研究していると発表しました。

●スバル「EJ型」

日本では唯一無二の高性能水平対向エンジン「EJ20型」ターボを搭載した初代「レガシィ」

 スバルのアイデンティティといえるのが水平対向エンジンで、世界的にも自動車用として量産しているのはスバルとポルシェの2社のみです。

 スバルの水平対向エンジンの歴史は、1966年に登場した国産車初のFF小型乗用車「スバル1000」から始まりました。

 水平対向エンジンはエンジン高を抑えることで低重心化を実現し、左右対象のレイアウトとすることで重量バランスに優れ、振動が少なくスムーズな回転が特徴です。

 スバル1000以降もスバルの主力エンジンは水平対向でしたが、1980年代になっても前時代的なOHVが残っていたなど、性能面で刷新が迫られていました。

 そこで、1989年に誕生した初代「レガシィ」では、新世代の水平対向4気筒エンジンである「EJ型」が登場。バルブ駆動はSOHCとDOHCがあり、排気量も1.5リッターから2.5リッターまで、幅広いラインナップです。

 このEJ型のなかでも、初代レガシィのトップグレード「RS(セダン)」に搭載されたのが2リッターDOHCターボの「EJ20型」で、最高出力は220馬力を誇りました。

 その後も、スバルの高性能車にはEJ20型ターボエンジンが欠かせない存在で、「インプレッサ WRX」シリーズ、そして「WRX STI」へと受け継がれます。

 2014年に発売されたWRX STIでは最高出力308馬力を絞り出すなど、誕生から25年経ったもののEJ20型の性能は最新モデルに引けを取りませんが、タイミングベルトを使い、直噴化できていないなど、基本設計の古さは否めませんでした。

 そのため、2020年1月をもってEJ20型はWRX STIとともに生産を終了。現在は次世代のFA型が、高性能モデルの主力です。

●マツダ「13B型」

ロータリーロケットともいわれた「13B型」ターボを搭載する「RX-7」

 マツダは1961年にドイツのNSUバンケル社と、当時は「夢の内燃機関」といわれていたロータリーエンジンについて技術提携をおこない、1967年に世界初となる実用量産1リッターロータリーエンジン「10A型」を搭載した「コスモスポーツ」を発売しました。

 その後、マツダはロータリーエンジンを主力としてフルラインナップ化を行ない、1.2リッターの「12A型」を開発。

 しかし、1970年代初頭の排出ガス規制の強化もあり、1.3リッターの「13B型」を開発しましたが、出力的には牙が抜かれた状況が続いてしまいます。

 そして1983年に、初代「サバンナRX-7」に12A型ターボエンジンを搭載して、165馬力を発揮することで、速いロータリーエンジンが復活。

 1985年には2代目サバンナRX-7が登場すると、185馬力を発揮する13B型ターボエンジンを搭載して、性能的には2リッターレシプロエンジンと肩を並べました。

 1991年にはピュアスポーツカーとして進化したアンフィニ(後にマツダ)「RX-7」が誕生し、同じく13B型ターボエンジンながら最高出力は255馬力までアップ。最終的には280馬力に到達します。

 しかし、再び排出ガス規制の強化から2003年にRX-7の生産を終了し、「RX-8」へとバトンタッチ。RX-8は次世代の自然吸気エンジンである「レネシス」と呼称される13B型の自然吸気エンジンを搭載し、これが最後のロータリーエンジン搭載車となりました。

 なお、マツダは2020年11月に、ロータリーエンジンをEVに搭載するレンジエクステンダーとして復活させることを、正式に発表しています。

1.6リッタークラスで切磋琢磨した2機の名エンジン

●トヨタ「4A-G型」

全面刷新された新世代の「4A-G型」エンジンを搭載した「AE86型 カローラレビン」

 トヨタは1970年に初代「セリカ」のトップグレードである「1600GT」に、1.6リッター直列4気筒DOHCエンジン「2T-G型」を搭載することで、それまで限られたクルマのためだったDOHCエンジンを身近な存在へと変えました。

 この2T-G型は「カローラレビン/スプリンタートレノ」などにも搭載され、一気にDOHCエンジンを普及させることに成功します。

 しかし、OHVエンジンをベースにDOHCヘッドを載せる手法で設計された2T-G型は、大きさや重量の点で時代の流れとともに過去の遺物となってしまいました。

 そこで、1983年に最後のFRである4代目カローラレビン/スプリンタートレノ(AE86型)のデビューと同時に、新世代の1.6リッターDOHC4バルブエンジンである「4A-G型」が誕生。

 最高出力130馬力/6600rpm、最大トルク15.2kgm/5200rpm(グロス)を発揮し、それまでの「2T-GEU型」を超える性能かつ、大幅に小型化されたエンジンとなりました。

 レブリミットが7700rpmに設定されるなど当時としてはかなりの高回転型エンジンで、軽量なAE86型と相まって若者から人気を博しました。

 その後、FFの「カローラFX」や、リアミッドシップの「MR2」にも搭載され、FF化したレビン/トレノにも受け継がれ、最終的には5バルブヘッドに4連スロットルを搭載。1995年に発売された7代目レビン/トレノでは165馬力に達しましたが、2000年に生産を終了しました。

●ホンダ「ZC型」

14年ぶりに復活したDOHCエンジン「ZC型」を搭載した「シビックSi」

 ホンダは1970年にDOHCエンジンを搭載した「S800」の生産終了により、同社の4輪自動車からDOHCエンジンが消滅してしまいました。

 そして1984年に、実に14年ぶりとなるDOHCエンジンが復活。それが、「シビック/バラードスポーツCR-X」に搭載された、1.6リッター直列4気筒DOHCの「ZC型」です。

 当時のF1エンジン開発からフィードバックされた、電子制御燃料噴射装置「PGM-FI」とバルブのリフト量を高めるロッカールームを採用したことで、最高出力135馬力を発揮。最大のライバルであるトヨタの4A-G型を上回る出力を誇りました。

 また、ZC型の特徴としてボア×ストロークが75mm×90mmとロングストロークだったため、高回転型エンジンながらも低速域のトルクが比較的太く、ドライバビリティの高さはレビン/トレノよりも高く評価されました。

 軽量な車体にパワフルなエンジンという組み合わせで、シビック/バラードスポーツCR-Xは走りを重視するユーザーから大人気となり、なかでもシビックはレースでも活躍したことで、FFスポーツコンパクトの地位を不動のものにします。

 その後、ホンダはDOHCエンジンのラインナップを拡充し、1989年発売の2代目「インテグラ」に初のVTECエンジンを搭載。

 それからホンダ製エンジンは、高回転高出力自然吸気エンジンの頂点に君臨し続けました。

※ ※ ※

 新型エンジンの開発には多くの時間と労力、お金がかかります。とくに製造過程では工場の設備を一新するケースもあり、設備投資の金額は莫大です。

 そのため、一度新たなエンジンの生産が始まると、20年以上作り続けることも珍しくなく、その間に改良を重ねて環境性能や出力の向上を目指しますが、基本的な寸法やレイアウトは変わりません。

 クルマのモデルチェンジサイクルは6年から8年が一般的ですが、エンジンの場合は20年先まで見越した設計が要求されるため、開発の苦労がうかがい知れるのではないでしょうか。