日常のなかでクルマの限界を知ることは難しい

 雪道では「急」のつく操作は厳禁だ。しかし、モータスポーツシーンでは、そんなこと言っていたら勝てない。クルマのあらゆる機能をドライバーが操作で引き出して速く走る。そのためには「どんな操作がどんな挙動を引き起こすか」を熟知しておく必要がある。

 しかし、現代はたとえ人里離れた山奥の田舎道でも、危険性をともなう走行は禁止されている。安全のためにも「急のつく運転をしてはいけない」と定義されているのだ。

「急のつく運転」とはどんな運転かというと、「急ブレーキ」「急アクセル」「急ハンドル」となる。ドライバーがクルマをコントロールするための操作のすべてを「急」に操作してはいけないとなっている。雪道で急ブレーキを踏めばブレーキがロックし、制動距離が伸び、ハンドルも利かなくなる。急にアクセルを踏み込むと駆動輪がスリップし、坂道では発進できなくなるし、コーナーではFFはプッシュアンダーステアを出して反対車線に飛び出し、FRやMRの後輪駆動車ではリヤがパワースライドしてスピンしてしまう。急ハンドルで障害物を避けようとしても前輪の応答性はすぐには立ち上がらず、避けられるものも避けられなくなってしまうからだ。

 現代のクルマの多くはABS(アンチロックブレーキ)やTC(トラクションコントロール)をはじめとする電子制御装置を搭載しているため、その機能をオフにしなければドライバーが「急」な操作をしても車側で制御してくれて安全を確保できるが、速く走るための制御ではないので、モータースポーツでは電子制御はほとんど使えない。逆に速く走るためにプログラムをし直せば、極めて有効に作用させられるのだが、電子制御を禁止しているカテゴリーが多い。その前に、ドライバーが低ミュー路面での運転スキルを高めなければ、いかなる制御をもってしても速く走ることはできないだろう。

 では雪道のドライビングスキルを高めるにはどうしたらいいのだろう。降雪地帯の山岳路を封鎖して貸し切りにしない限り、ハイスピードのスノードライビングは試しようがないが、クラッシュした場合のリスクを考えるとオススメできない。

 そこで活用したいのが、自動車メーカーが主宰している「スノーエクスペリエンス」あるいは「ウィンターレッスン」などのスノートレーニングに参加することだ。

プロドライバーでさえ手応えを感じるメニューも

 日本ではあまり開催されていないが、欧州ではメルセデス・AMGやポルシェ、アウディなど各社が北欧のスウェーデンやフィンランドでスノーレッスンを開催しているし、ランボルギーニやフェラーリなどのスーパーカーメーカーも北部イタリア地域で毎年開催している(昨年以降はコロナ禍の影響で中止されている)。

 メルセデス・AMG社が主宰する「AMGドライビングアカデミー・スノーPROコース」などは冬のモータースポーツシーンで活躍できる速さを身につける特別なプログラムが組まれていた。

 そのトレーニングメニューは氷結した氷上の特設コースで組まれていて、初日「オーバルトレーニング」でカーコントロール(アクセルオン・オフ、ステアリング操作、ブレーキ操作でヨーをコントロール)するプログラムを学ぶ。ただオーバルは大小揃っていて、大では120km/h以上の車速でヨーコントロールさせている。

 二日目は8の字旋回を中・高速でコントロール。

 三日目になると仮設の氷上トラック(サーキット形式)でタイムアタックに終止する。このトラックは1周4〜10kmにも及ぶ大規模なもので、GPSデータを使って車両姿勢や車速、タイムなどを記録しフィードバックしている。なかには160km/hでドリフトしながら旋回する超高速コーナーも含まれ、プロドライバーにも難しいほどの難ステージが含まれている。

 AMGドライビングアカデミーでは2リッター4WDターボのA45シリーズ、ハイパワーFRのC63、ハイパワー4WDのE63 4MATICにスーパーカーのGTやGT-Rまで操らせてくれるのだ。

 これらはいずれもバンパーガードなどが装着され、コースアウトしてもダメージを受けないように改良されている。万が一コースアウトしても外壁はなく柔らかい雪壁に突っ込むだけ。怪我とクルマへのダメージを気にすることなく、存分にハイスピードスノードライブのスキルアップが図れるのだ。

 参加費用は60万円/人とやや高価だが、用意された車両のラインアップ、3日間終日走れるプログラムメニューと安全・安心の運営管理で行われることを考えれば、むしろ危険を犯して人里離れた冬の山岳路を走るよりよほど安全で意義がある。

 コロナ禍が収束して再び各社の「スノーレッスン」が始まったら、是非参加して素晴らしい体験をしながらスキルアップを目指して欲しい。