本館の客室には半露天風呂が付く。広めの造りが特徴だ(写真:ひらまつ)

「Go Toがなくなって厳しい他社とは違う。足元の稼働は堅調で心配していない」――。

苦境に置かれたホテル業界で、強気の姿勢を見せるのが、高級フランス料理店「ひらまつ」や高級イタリア料理店「リストランテASO」などのレストランやホテルを展開するひらまつの遠藤久社長だ。

同社は3月16日、長野県で高級ホテル「THE HIRAMATSU 軽井沢 御代田(以下ひらまつ御代田)」を開業する。出店する長野県御代田町(みよたまち)は浅間山のふもとにあり、軽井沢町の西側に隣接している。同ブランドでは6施設目の出店で、料金は1泊夕・朝食付き1名8万2650円(2名1室利用時、正規料金)から。

【2021年1月26日18時20分追記】初出時の表記を一部修正いたします。

コロナ禍のトレンドに合致

ターゲットの中心は富裕層で、ホスピタリティー会社と組んだコンシェルジュサービスを提供する。年に一度の記念日を楽しむ、といった一般客の利用も想定している。開業3年目に売上高11億円の達成が目標だ。

当初の予定だった2020年11月から延期したとはいえ、コロナ禍まっただ中の開業となる。しかも、軽井沢は競合となる高級リゾートホテルが立ち並ぶエリアでもある。出店を「強行」するひらまつには、どんな勝算があるのだろうか。

ひらまつ御代田の本館は28の客室を備え、全室にテラスと半露天の温泉風呂が付く。客室は最も小さいデラックスツインで79屬ら、スイートは132屬△蝓∩澗療にかなり広めの造りだ。9棟あるヴィラはひらまつにとって初の試みとなる。

コロナ禍のGo To トラベルキャンペーンで人気が集中したのは、箱根や軽井沢といった首都圏から車で行ける観光地だった。また、ほかの宿泊客やスタッフとの接触を避けて滞在できる点から、露天風呂付きの部屋、ヴィラタイプの部屋に予約が殺到した。

4年以上前から進めてきたプロジェクトだが、ひらまつ御代田は今のトレンドに合ったホテルと言えるだろう。

加えて、遠藤社長は他社のリゾートホテルとターゲット、楽しみ方ともに大幅に異なる点を強調する。


遠藤社長は御代田について「これ以上の場所はない」と自信を見せる(記者撮影)

ひらまつ御代田は軽井沢の主要な観光エリアから多少離れて立地する。「縄文土器が発掘されるような土地で、自然に囲まれ、食でもこれ以上の場所はない」(遠藤社長)。

また、ひらまつ御代田は「オーベルジュ」(宿泊施設を備えたレストラン)であり、最大の強みは食だ。通常なら、レストランで出来たての料理をどう楽しむか、といった工夫を凝らすが、今回は高級フレンチを何とか屋外で楽しめないか画策しているのだ。ラウンジや客室、テラスでの食事はもちろん、敷地を飛び出して、御代田町の景勝地で楽しむプランも構想しているほどだ。

季節による集客のブレを抑制

そのほか、料理を詰めたバスケットを手にピクニックを楽しむオプション、さらには夜の食事を楽しむためにヨガなどのエクササイズを行ったり、昼食を抜く、もしくはシェフ特製のスムージーで済ませるといった試みも進めるという。


屋外で食事を楽しめる体験などを、ホテルの売りにしていく考えだ(写真:ひらまつ)

こうしたオプションは、コロナ禍で積み上げたアイデアだ。現在、主軸のレストラン部門は厳しい推移だが、コロナをきっかけに家庭で楽しめるテイクアウト用メニューの開発など、高級店ゆえに手薄だった施策を進めてきた。当初は「フレンチをテイクアウトにするなんて」と葛藤もあったというが、客の要望に合わせたサービスを重視してきた。ホテルでも新サービスの実践に乗り出そうというわけだ。

遠藤社長はこう語る。「シェフの高いスキルを持って良い食材を使い、かっこいいレストランでテーブルについて食べるフレンチがおいしいのは当然のこと。だが、それをやれるレストランはほかにもたくさんある。御代田では食の体験をもう一段引き上げたい。よりおいしく食べさせるための場所や空間、施設は何かと考えている」。

背景には継続的に客を呼び込む狙いがある。観光目的の宿泊の場合、軽井沢周辺は極寒の地ゆえに、オフシーズンの冬は厳しくならざるを得ない。だが、オーベルジュとして四季折々の食材を用い、料理と体験を楽しむ場として訴求すれば、年間を通じて訪れる理由を作り出せるからだ。

実際、ホテル事業は好調だ。2020年7月以降、既存店売上高は前期実績を大幅に超えて推移しており、Go Toトラベル事業が一斉停止となった12月も前年同月比49%増を記録している。御代田でも独自のアピールで富裕層の心をつかむことができるだろうか。その成否はアフターGoTo、さらにはコロナ収束後も見据えた、業界の重要事例になりそうだ。