SNSを仕事に役立てるにはどうすればいいのか。マーケティングコンサルタントの酒井光雄氏は「いいねやリツイートをするだけではダメ。自分の可能性を広げるために7つの視点をもつべきだ」という――。
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■「個人のブランド力が重要」とは言うけれど……

ウィズコロナ、そしてアフターコロナの時代では、会社に自分の人生のすべてを預けていては、会社に何か不都合なことが起きれば共倒れになりかねません。これからのビジネスパーソンは、会社の肩書でなく、個人のブランド力で自立することが何よりも求められる時代です。

私たちが何かを調べる時、ネットで検索して情報を得ることが当たり前になりました。企業や商品はもとより、初めて知り合った人でもその人の情報を得ようとネットで検索します。

企業は自社の情報をホームページに詳細に掲載していますが、個人の場合はホームページを立ち上げていない限り、情報発信のよりどころは実名で利用しているSNSになります。

SNSで得られる情報が魅力的であれば、その人への注目度は増し、新たな出会いやオファーが舞い込むきっかけになります。社会に有益な情報をネットで提供している人には、会社の中では出会うことのない人物や異分野で活躍する人と知り合い、交流を深めることも可能になります。

社会で活躍していることを、ネットを通じて世の中にアピールしておくことが個人でも欠かせない時代になり、SNSを活用して自身の可能性を広げている人が増えてきています。

彼らはどのようにSNSを活用しているかを調べてみると、そこにはやはりノウハウが存在しています。ビジネスをテーマにしたSNSの活用方法をここで探ってみることにします。

SNSで自身の可能性を広げている人の「7つの視点」

1.目的を決め、適切なSNSを選択する

SNSを活用している人たちに共通するのは、SNSを使う目的を明確にしていることです。仕事のためなのか。個人の趣味や嗜好のためなのか。あるいは友人知人という限られた人たちとの交流の場なのかを事前に決めています。

SNSを活用する目的によって、利用するSNSの種類は変わってきます。ビジネスを目的にするならLinkedIn、個人の趣味や嗜好をアピールしたいならFacebook、海外の最新ニュースや個人のつぶやきならTwitter、動画をつかったアピールや交流ならYouTube、ブログを使う人もいます。

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仕事の可能性を広げるのが目的なら、対象になるのはビジネスパーソンです。Facebookはその生い立ちからわかるように、個人的な人との出会いや交流のために生まれたSNSです。

ドローンビジネスを展開するダイヤサービスの戸出智祐さんは、長年Facebookに取り組み多くの「いいね」を数多く獲得したのですが、仕事に結びつくことは1件もありませんでした。「いいね」の数が増えても、仕事には繋がらなかったのです(※筆者注1)。

※筆者注1:PRESIDENT経営者カレッジ『商談が国内外から驚くほど舞い込むSNS術』

そこでFacebookは個人的な利用に限定し、ビジネスにはLinkedInを利用することにしました。すると海外から仕事が舞い込むようになり、コロナ禍にあっても受注が途切れずに今に至っています。現在はドローンビジネスの受注だけでなく、リストラされた航空業界の人材を募集する取り組みまで始めています。

2.読み手の心をつかむ魅力的なプロフィール

人の名前をネット検索すれば、その人の情報を把握できるようになりました。検索して何も情報が入手できないと、興味を持ってもらうおうとしてもそれはかないませんし、仕事に繋がる出会いも望めません。

スペインに暮らしMBAで教鞭(べん)をとる鎌田保さんは、LinkedInの活用にも明るい人です。鎌田さんはLinkedInを活用したビジネスコーチングを行い、折に触れてSNSに記載するプロフィールの重要性を指摘しています。自分に興味を持ってもらう最良の方法は、まずプロフィールを見てもらうことだからです。特にプロフィールの冒頭の書き方が重要です。

プロフィールの最初を見ただけで終わる人と、掲載されている情報をすべて読んでもらえる人との違いは、冒頭部分のつかみにあると鎌田さんは指摘します。

Facebookのプロフィールの文字数は100字前後ですし、LinkedInで顔写真と共に表示される投稿者プロフィールの抜粋は33文字に過ぎません。この限られた文字数の中で、興味をもってもらえるように自己紹介文をつくる必要があります。

静岡県三島市を中心に20の飲食店を経営する西原グループ会長の西原宏夫さんは、SNSの達人です。西原さんは年間に400冊の書籍を読破する人で、2009年8月から毎日1冊の書籍を要約して紹介する「人の心に灯をともす」というブログを書き続け、さらに同年からFacebook、アメーバブログ(ameblo)を毎日アップし、昨年からはYouTubeも始め、SNSの合計フォロワー数は約6万人に及びます。

西原さんのFacebookのプロフィールには、「83軒の飲食店舗を開店するも64軒撤退し、現在は会長。デザイン会社の社長も兼務。◆「西原ゼミ」も開講中◆2009年から、Facebook、ameblo、メルマガ等を毎日アップし続け、合計フォロワー約6万人」と紹介されています。実に見事なショートプロフィールです。こんなプロフィールの持ち主なら、誰でも繋がりたくなります。

「○○大学を卒業し、××企業に10年在籍しています」といった職務経歴書のような文言では相手の心に響きません。読み手は人事部の担当者ではないからです。SNSで相手に興味をもってもらうには、冒頭のプロフィールの書き方が決め手になるという好例です。

3.「いいね」をするだけで終わらせない

前述した戸出さんが指摘するように、いくらSNSで「いいね」が増えても、ビジネスに貢献しなくては意味がありません。そのためには読む価値のあるコンテンツをSNSに掲載していく必要があります。

とはいえSNSで最初からオリジナルのコンテンツを書き下ろして発信することは容易ではありませんから、まずはどこかで見つけた情報をシェアすることから始めます。この時、Yahoo!ニュースのように誰でも接触できるキュレーションサイトからシェアするよりも、

・ビジネス系のオンラインサイトから見つけた有益な情報
・専門誌や専門サイトに掲載された希少性のあるニュース
・自身が読んだ書籍から、著者が記述したキーワードや要約
・セミナーやウェビナーに登壇した講演者の内容や指摘
・海外のニュースサイトからの情報(翻訳する場合には、DeepLの翻訳ソフトをお薦めします)

といったことから始めます。

写真=iStock.com/metamorworks
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4.情報感度が高くフォロワーが多い人から学び、繋がる

SNSで単に情報発信しているだけでは、人との出会いは増えてはいきません。そこで必要になるのは、気になる人の投稿や共感できる投稿に触れたら、「いいね」をクリックし、自分の声を肯定的なコメントとして残すようにします。相手の「自己承認欲求」を満たしながら、好ましいビジネスパーソンとの繋がりをつくっていくわけです。自分の投稿に共感してくれた人とも、繋がるようにします。

5.自分の得意なテーマをつくり、オリジナルコンテンツを発信する

ビジネスを目的にするからといって、SNSで売り込みばかりをしていては、誰も興味を持ってはくれず、むしろ離れていきます。発信するコンテンツで重要なことは、読み手に価値のある情報を提供することです。

自身が携わってきた仕事や、職務を通じて身に付けたスキル、成功事例や採用事例などのコンテンツは読み手からはとても魅力があります。発信者にしか知りえない専門性や得意としている内容だからです。

SNSを通じてアピールする際に大切なことは、「人となり」を伝えることです。企業や商品、サービスを売り込む前に、相手に信頼されるように努めます。ただし自慢話は避けましょう。

6.ネガティブな人とは距離を置き、地道に取り組む

世の中には、何でも否定的にとらえる人や、代替案のない批判や批評をする人が必ず存在しています。正義感からそうした行為に走るケースもありますが、SNS上で共感する人は限られているようです。こうした人たちとは距離を置き、自身も人の投稿に対しては、無用な批判や批評は避けます。

SNSを有効に活用し成果に繋げるには、地道に取り組むことです。数週間や数カ月で効果が実感できなくて当然です。数年して振り返ると、周りの景色が変わっている。それがSNSの効用です。

7.「善循環」に繋げる

誰かの質問に対して、誰でも回答できるSNSとして誕生したのがQuora(クオーラ)です。Quoraはハンドルネームではなく実名で登録します。

Quoraのエバンジェリストとして日本進出を担当している唯一の日本人スタッフ江島健太郎さんからこんな実例を教えてもらいました(※筆者注2)。軍事に詳しい人がQuoraに回答を書き続けていたところ業界誌の編集者の目に留まり、現在はその業界誌のライターとして活躍しているそうです。SNSを活用して、仕事に繋げたひとつの事例です。

※筆者注2:PRESIDENT経営者カレッジ『自分の専門性を武器に「セルフ・ブランディング」する最新SNS術』

また英国ブランドの「アクアスキュータム」や「イエーガー」などでデザイナーやディレクターとして活躍していた佐藤治子さんは、ブログ「madame Hのバラ色の人生」が大人の女性から大評判になり、2冊の書籍を出すことに繋がりました。

これを契機に「価値あるベーシックアイテム」を手掛けるオンラインショップ「madameH CLOSET」を立ち上げ、リアルとバーチャルの両方でビジネスを展開しています。ちなみに佐藤さんは70代ですが、現在も第一線で活躍をされています。

ぜひあなたもこの機会にSNSに取り組み、自分のブランド価値を開花させてください。

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酒井 光雄(さかい・みつお)
マーケティングコンサルタント
学習院大学法学部卒業。事業経営の本質は「これまで存在していなかった新たな価値を生み出し、社会に認めてもらう活動」であると提唱。価値の低いものはいつの時代も、必ず価格競争に巻き込まれ、淘汰されていくとして、一貫して企業と商品の「価値づくり」を支援している。日本経済新聞社が実施した「経営コンサルタント調査」で、「企業に最も評価されるコンサルタント会社ベスト20」に選ばれた実績を持つ。著書に『不況を乗り切るマーケティング図鑑』『デジタル時代のマーケティング・エクササイズ』(共にプレジデント社)、『全史×成功事例で読む「マーケティング」大全』、『成功事例に学ぶ マーケティング戦略の教科書』(共にかんき出版)、『コトラーを読む』『商品よりもニュースを売れ! 情報連鎖を生み出すマーケティング』(共に日本経済新聞出版)、『価値づくり進化経営』『中小企業が強いブランド力を持つ経営』『価格の決定権を持つ経営』(共に日本経営合理化協会)、『図解&事例で学ぶマーケティングの教科書』(監修)『男の居場所』(共にマイナビ出版)など多数ある。プレジデント社のオンラインサイト「プレジデントオンライン」で連載コラムを執筆し、多くのファンに支持されている。日経BP社が主催する日経BP Marketing Awardsの審査委員を長年務めている。http://www.ms-bgate.com/
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(マーケティングコンサルタント 酒井 光雄)